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第38回エコ×エネ・カフェ「STOP 地球温暖化!脱炭素社会は世界を救うか~火力発電現場の最前線から~」

  • 2021年12月22日
  • 緑のgoo編集部

小林:
地球温暖化は、産業革命後にCO2の排出が増えたことが原因で起こりました。CO2が増えることで大気中の温室効果ガスが厚くなり、地表からの赤外線を跳ね返して地球の温度が上がってしまったのです。
地球温暖化が進むと、 豪雨や海面上昇が起きたり、感染症が増えるなどさまざまな影響が出ます。そこで、 2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)でパリ協定が結ばれ、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5℃未満に抑えるという目標が決まりました。

そこで鍵になるのがカーボンニュートラル、CO2の排出量から森林などの吸収量を差し引いて実質ゼロにすることです。2020年10月、菅総理は所信表明で2050年までにカーボンニュートラルを実現することを表明し、これを受けて2021年5月には地球温暖化対策促進法が改正されました。なので、先ほどの質問「脱炭素社会」とは「CO2の排出と吸収をバランスする社会」ということになりますね。

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小林:
では、J-POWERはどう取り組んでいるか。2021年7月、第6次エネルギー基本計画が設定され、省エネによって電力需要を減らすこと、電源構成の35%を再生エネルギーに変えることなどが盛り込まれました。J-POWERの電源構成は約半分が火力で、これまでも常に火力発電の高効率化と環境負荷低減に取り組んできました。

再エネを拡大したり、化石電源のゼロエミッション化や、石炭から水素を取り出す、CO2を分離回収して有効活用する、石炭をガス化して高効率な発電をするなどといった取り組みを進めています。火力発電では1960年代の亜臨界圧という技術が、1980年代には超臨界圧、1990年代には超々臨界圧、そして今は石炭ガス化複合発電と進化しています。また、公害問題には環境対策設備を設置して大気汚染を防ぐべく対応してきています。

先ほど火力発電に対するイメージをお聞きしました。どれが正解ということはありませんが、地球温暖化対策に取り組む私たちは、このような取り組みを重ね効率化を進めることによって、火力発電のデメリットをなくそうとしています。

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森:
ありがとうございます。それではさっそく相曽さんにご登場いただきましょう。

相曽さん(以下、相曽):
火力発電については最近様々な議論がなされていますが、J-POWERに入社して42年、最新技術の現場から見ていると、地球温暖化対応として、低炭素化を経て脱炭素化に至ることは技術的には可能だと思っています。本日は皆さんとの対話を通じ、お互い理解を深めていけたらと思っています。

大崎クールジェン株式会社は、中国電力株式会社とJ-POWERが半分ずつ出資して設立した企業です。大崎クールジェン実証試験プロジェクトは、全部で3段階に分かれています。

第1段階は、酸素を使って石炭をガス化し、その際に発生する一酸化炭素(CO)と水素(H2)を燃焼して ガスタービンを回し、その排ガスの排熱で水蒸気を作り蒸気タービンを回して、ダブル(2段)で発電(以下、IGCCと呼ぶ)する試験を行います。この実証試験は2018年度に終了し、すでにこのクラスのIGCCでは世界最高レベルの発電効率を達成しています。

第2段階では、IGCCにCO2分離回収設備を追加設置し、ガスタービンで燃焼する前のガス中一酸化炭素(CO)を蒸気と反応させ、水素を生成しながら発生したCO2を分離回収します。CO2分離回収後のガスは高い水素濃度のH2リッチガスとなって、ガスタービンに返送し燃料として活用します。回収したCO2は、化学品等を合成するカーボンリサイクル実証試験(NEDOにて実施)や農業に有効利用されます。

第3段階では効率が高い燃料電池を組み合わせH2リッチガスでトリプル(3段)で発電し、CO2分離回収しながら更なる高効率発電を目指します。

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森:
実用化できそうだという手応えはありますか?

相曽:
はい、手応えを感じてます。CO2を分離回収すると、その処理で蒸気や電力を消費し、発電効率が落ちます。しかし、この実証試験で採用した「物理吸収方式」は圧力が高い程CO2をよく吸収するもので、本IGCCから発生する高圧高濃度なCO2を取り除くことに優れ、これまでの他の方式と比較しても、エネルギーロスがかなり少ないのが特徴です。すでにCO2分離回収プラントそのものは動かすことはできており、これから、トータルのシステムでどれだけ最適化できるか試験を行います。

ガス化炉の出口で約28%だった水素濃度が蒸気との反応で約55%になり、併せて発生する高圧のCO2は40%という高濃度になりますので、少ないエネルギーロスでCO2を除去できます。CO2分離回収後、85%近くの濃度になる水素は、燃料電池に使ったり、まだ開発途上ですが、将来的に実用化が期待されている水素ガスタービンにも活用されるものです。

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相曽:
IGCC(石炭ガス化複合発電)商用機では、送電端の発電効率は正味49%です。発生するCO2の90%を分離回収した場合、従来の微粉炭火力では10ポイントくらい効率低下していたところを、このIGCCでは6ポイント程度の低下に抑えることができます。このCO2分離回収設備を設置したIGCCは、CO2分離回収をしていない世界最高レベルのUSC(超々臨界圧微粉炭火力発電方式)と発電効率でほぼ同等となります。

それに燃料電池も加えてトリプル複合発電をするIGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)商用機になると、発電効率はさらに上がります。

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相曽:
kWh(1kWの電力を1時間使ったときのエネルギー)あたりで発生するCO2量は、IGCC(石炭ガス化複合発電)に90%CO2分離回収処理をすれば大幅に低下し、ほぼ脱炭素化の域に達します。

又、CO2分離回収では、エネルギーロスの低減と共に処理コストを下げる技術開発も進展しています。開発見通しのロードマップに示されている様に、従来から開発されてきている化学的に吸収させる方法だと処理コストで1トンあたり4,200円ぐらいかかっていたものが、IGCC(石炭ガス化複合発電)の物理吸収方式だと2,000円台になります。

更に将来に向け、CO2を固体吸着する技術やCO2を膜で分離する技術が、さらなるコストダウンを目標に開発が進められています。

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相曽:
CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の中では、分離回収したCO2を地中に貯留する他に、代表的なものとして、EOR(石油増進回収)という石油の増産に活用する方法があります。

CO2を油田に注入し、圧力をかけ原油をなめらかにすることで、従来自噴だけでは原油総量の20%程度しか取れなかったのが60、70%も回収できるようになる。と同時に、CO2を地中に封じ込めることもできるのです。そのほかに、CO2を資源として再利用するカーボンリサイクル技術、すなわち、CO2から化学品やジェット機の燃料、コンクリートなどに転喚する様々な開発や実証試験が行われてきております。

更に、、DACCS(大気中のCO2を直接回収・除去する技術)やBECCS(バイオマスを活用してCO2の再利用や貯留をする技術)等のネガティブCO2エミッション技術(CO2を大気中から除去する負の排出技術)の開発も進んでいます。

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相曽:
日本が描いている2050年のカーボンニュートラルの姿は、まずは、非電力分野のものは電化し、CO2を排出しない電力で工場や車などを稼働させるというものです。一方、どうしても電化できない部分に対応する為、バイオマスを利用したり、カーボンフリー水素やカーボンフリー燃料、例えば、メタネーション(CO2とカーボンフリー水素からメタンをつくる)の技術開発や実証試験も進んでいます。

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相曽:
J-POWER としても、2050年に向けて石炭やバイオマス等固形燃料の利点活用するビジョンを掲げています。ガス化システムで、CO2をCCUSやカーボンリサイクルで処理しながら、カーボンフリーの電気や水素をつくります。更に、大気中の CO2を吸収して育った木材から製造したバイオマス燃料の比率を増やし、発電で発生したCO2をCCUSやカーボンリサイクル処理すれば、大気中のCO2を減らすネガティブエミッションに貢献できる様になるのです。

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相曽:
このガス化技術は、石炭やバイオマスでけでなく廃棄物ほか様々な固形燃料を利用することができます。CO2を貯留やカーボンリサイクルしながら、CO2フリーの水素で発電し、水素そのものを活用して化学合成品をつくるなど、様々なプロジェクトに展開していくことができます。これが、J-POWERグループが描いている2050年の姿です。

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森:
ありがとうございます。とても専門的なお話でしたが、ここからは学生パネリストの「さささ」さんと「ひろぴー」さんに入っていただき、対話をしながら深めていきたいと思います。

ささささん(以下、さささ):
エコ×エネに出会ったのは小学生の時です。エコ×エネ体験ツアー水力編に親子で参加しました。大学生になってコロナ禍で何もできなくなった時に、エコ×エネ体験ツアーがとてもおもしろかったことを思い出してまた参加するようになりました。お話を聞いて、最新技術で想像していた以上に色々なことができることを知り驚いています。

ひろぴーさん(以下、ひろぴー):
大学のサークルでエコ×エネワークショップの「エネルギー大臣になろう」に参加したのがきっかけで、体験ツアーにも参加しました。大学では、主に再生可能エネルギーを学んでいます。火力発電はどうしてもCO2を多く排出するというイメージがありましたが、CO2をどうにかしようという強い思いと、それに伴う技術力がすごいと思いました。

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森:
相曽さんに聞いてみたいことはありますか?

さささ:
大崎クールジェンプロジェクトは実用化できそうということですが、これが成功したあかつきには第2の大崎クールジェンを日本や海外のどこかでつくりたいという気持ちはありますか?

相曽:
国内に関しては、既存の発電所を有効利用しながらアップサイクル(既設設備に対し新たな設備を付加し価値を高めること)し、低炭素化から脱炭素化につなげていくイメージを持っています。
中国やインド 、ASEANなどのアジア諸国は、石炭を使って経済発展をしてきており、現在も石炭を多く使っています。アジア諸国が低炭素化から脱炭素化に進展していくためにも、大崎クールジェンの技術を活用できればと思っています。又、若い方々には、ぜひ途上国が脱炭素化に展開していくことに貢献できる様、挑戦していただきたいと思っています。

ひろぴー:
大崎クールジェンプロジェクトの第3段階では燃料電池を使うということでしたが、燃料電池はこれからどんどん日本に浸透していきますか?

相曽:
電気と熱を同時に供給する家庭用の小容量の燃料電池はすでに商品化されています。大崎クールジェンプロジェクトの第3段階では燃料電池とガスタービン、蒸気タービンの3つを組み合わせて最高の発電効率を目指しますが、その途中のステップでもうまく分散型電源(電力が消費されるところに隣接して分散配置される小規模な発電設備)として工場帯に分散して配置することができると考えています。まずは分散型電源として活用していけば、燃料電池はこれから増えていくと思います。

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森:
先ほど2050年までにカーボンニュートラルを実現させるというお話がありましたが、2050年…僕は生きてるかな(笑)若い方はどんな2050年の姿を想像しているんでしょうか。カーボンニュートラルは間に合いそうな気がしますか?

ひろぴー:
今のままで30年も経つと、北極圏の氷が溶けていたり島国が沈んでいたりというイメージがあり、早急に地球温暖化を止めないといけないと考えています。COP26での岸田総理の発言にもあったように日本がアジアを引っ張っていく存在だと思うので、そこに希望を持っています。

さささ:
具体的にどうなっているというより、何もしないでいると、あらゆることがどんどんひどくなるというイメージがあります。ですからどんどん行動していきたいと思います。

森:
学生の方々は2050年には氷が溶けてしまっていると考えているんですね。それを聞いて相曽さんはどう感じますか?

相曽:
IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5℃未満に抑える必要があるとシミュレーションしていますが、単なるシミュレーションだけではなくしっかり現在値を検証していくプロセスも大事だと思います。温暖化はCO2だけが原因なのか、メタンの問題などもあるので全体で分析・評価することが必要だと思います。

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森:
グレタ・トゥーンベリさんのような強いメッセージを発する若者は日本に見当たりませんが、学生のおふたりは自分の生活と地球温暖化との関係についてどんなことを感じていますか?

ひろぴー:
次の世代への環境教育に興味を持っています。実際にサークル活動として、海ゴミやプラスチック問題などを子どもたちに教えています。

さささ:
小さい頃の体験はとてもよく覚えていますよね。私も小学生でのエコ×エネ体験ツアーがきっかけでここにいるので子どもへの教育はとても重要だと思います。きっかけは「楽しそう!」でいいので、そこからちゃんと考えていくことが大切だと思います。

森:
他に相曽さんに聞いてみたいことはありますか?

ひろぴー:
相曽さんが入社された42年前のJ-POWERはどのような会社でしたか?

相曽:
当時のJ-POWERは国の資本が多く入っていたので、エネルギー政策を体現する開発をしていました。国の「サンシャイン計画」に基づいて、太陽の熱で発電しようという実証試験もやっていました。
入社の動機は、学生の頃、尾瀬から奥只見のダムまで歩いたことがあったのですが、その時訪れたJ-POWERの施設で青い地球が書いてあるパンフレットを見て使命感を感じ面白そうなことをやっている会社と思ったことが切欠です。

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森:
ここからは参加者の皆さんも交えて質疑応答の時間に入ります。

参加者1:
関連して質問があります。2050年のカーボンニュートラル目標まであと30年。相曽さんがお仕事をされてきた30年間で、どれぐらいのことが変わりましたか?

相曽:
私が入社した時は高度経済成長期でしたが、ちょうどオイルショックがあって石油の供給が逼迫し、資源のない日本はとても困っていました。今まで石油一辺倒だったエネルギーを石炭や原子力などに分散しようということで、入社当初から次から次へと発電所が建てられていきました。
一方、その経済発展とともに、公害問題も発生してました。石炭火力発電所では、排ガス中のSOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)、ばいじん(物を燃やした時に発生する煙やスス・チリ等の中に含まれる微粒子)を除去する技術を開発し、それを国内で普及させるだけでなく海外に広めていこうということでヨーロッパにも行かせてもらいました。そういう取り組みを経て、さらに低炭素化のため火力発電の高効率化の開発・普及が進んだタイミングで、脱炭素化の流れが急激にやってきたのが今です。

参加者1:
オイルショックが発電事業に大きな変化をもたらしたように、きっかけになるような大きな問題が起こったり緊急の状態にならない限り、脱炭素化は進まないのでしょうか?

相曽:
オイルショックで日本が大きなダメージを受けたのは、日本に資源がないからです。一方、地球温暖化の問題はグローバルなことなので、世界のどの国もダメージを受けるという点でとても大きな問題です。特に、CO2排出量が多い発展途上のアジアなど、各国が一緒に取り組んでいかなければいけないという難しさがあり、それを日本がどう技術で協力していけるのかが課題だと思っています。

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