日本は南北に長く、季節やそれぞれの地域によって気象が大きく変わる国である。また、大雨、台風などの気象災害にしばしば見舞われるとともに、地震、津波、火山噴火などの自然災害の危険にさらされている。気象庁は、気象、地震、津波、火山活動などの自然現象を常時観測し、これらの情報を各方面に提供することで、産業、農業、漁業などの経済活動、行楽などの国民生活に重要な役割を果たしている。
日本の気象観測の歴史は、1871年、イギリス人のジョイネルが明治政府に気象観測の必要性を建議したことに始まる。以後、1872年に日本初の気象観測所が函館に開設され、1875年には気象庁の前身の東京気象台が現在の東京赤坂に設立され、地震観測と1日3回の気象観測を開始した。1924年に天気図が新聞に掲載されるようになり、翌年にはラジオの天気予報がはじまった。1953年にはテレビによる天気予報がスタートし、気象庁の役割は国民生活に重要な位置を占めるようになった。
気象庁の基本的な役割は、毎日の気象情報や、地震、津波、火山活動など自然災害情報を提供することだ。毎日の気象情報は、農業、漁業、林業から、観光などのサービス産業にいたるまで、いまや経済活動に必要不可欠なものになっている。また、台風、大雨、地震、津波、火山活動などの自然災害に関する情報も、災害予防、避難などの対応に役立てられ、国民の生命や財産を守る上で重要な役割を果たしている。最近では、地球規模の環境問題が進行する中、地球温暖化、酸性雨、大気汚染などの環境観測のデータも収集されるようになっている。2005年度からは、有害紫外線の観測情報や予測情報も気象庁のホームページから情報提供されるようになった。さらに、気候変動のリスクに関する最新知見をとりまとめて評価する、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の報告なども紹介している。
気象観測には、気圧、気温、湿度、風向、風速、降水量、積雪の深さ、降雪の深さ、日照時間、全天日射量、雲、視程、大気現象等がある。一部目視によって行うものもあるが、大部分は地域気象観測システムの「アメダス(AMeDAS: Automated Meteorological Data Acquisition System)」という測定機械によって自動観測されている。たとえば雨量は全国約1300ヶ所で自動観測されており、このうちの約850ヶ所は、降水量に加え、風向・風速、気温、日照時間の観測を自動的に行っている。また、静止気象衛星による衛星観測も活用されている。
現在気象庁が担っている課題として、気象庁を管轄する国土交通省は、2005度に「気象庁が達成すべき目標について」として、次のようなテーマを挙げた。1) 消防庁への防災情報提供、2) 都道府県との共同による洪水予報、3) アメダス解析雨量、4)降水短時間予報の高度化、5) 有害紫外線の観測情報と予測情報のホームページ上での提供、6) 海洋の変化・変動についての定期的な情報提供、7) 東海地震の監視能力の強化、8) 火山活動の観測データの解析技術改良、など。
このように、明治時代に気象観測からはじまった気象庁の業務は、わが国の自然・災害の情報発信基地として、現在は地震情報、火山情報、環境情報など幅広い領域をカバーしている。