幼い男児が泣きじゃくるのを溜め息交じりになだめるのは、首だけになった龍――。芽茶はらぺこ(@harapeko_mettya)さんの創作漫画「龍」は、そんな印象的なシーンから始まる作品だ。
同作は出会いや戦いの場面といった物語の王道的シーンを描かず、恐らくあったであろう龍と人との闘いのあと、やはり親しい関係に見える龍と童の会話で進むのが特徴的な読み味を残す。背景や言葉の端から、本編の前にあった光景を想像させながら、首だけになっても後1年は生きると語る龍と少年の、これからに切なさとわずかな希望を感じさせる短編となっている。2024年1月にpixivで公開されると、2600件を超えるブックマークを数える反響を、Xへの投稿にも3000件超のいいねを呼んだ同作。その制作背景について、作者の芽茶はらぺこさんにインタビューした。
――本作のアイデアと、制作のきっかけについてそれぞれ教えてください。
【芽茶はらぺこ】年明けにお正月の漫画を描きたいな、デカい龍を描きたいなと漠然と考えていました。私が辰年生まれなので記念に龍を描きたいなと思ったのが大きなきっかけです。
――龍と子どもの馴れ初めや、なぜ龍が襲われることになったのかなど、本編以前を読者が想起できるような描き方になっていると思いました。こうした描き方をされた狙いはどんなところにありましたか?
【芽茶はらぺこ】この1年間、「彼らがどこかで生きているんだな」と1人でも思ってもらえたらと、あまり詳しくは描かないようにしました。この1年のどこかで、なんとなーく彼らのことを思い出してもらえるとうれしいです。
――回想で宙を泳ぐコマ以外は殺伐とした光景なのに、傷だらけの龍、血にまみれた童のやり取りには画からも優しさや、穏やかな雰囲気を感じます。作画でこだわった点や、お気に入りのカットがあれば教えてください。
【芽茶はらぺこ】入れたかったのは鯉のぼりの辺りです。龍独自の持ち味と人間の文化を案外楽しんでくれてたらいいなって気持ちで描きました。子どもも笑いそうにはなりましたが、笑いと共に受け入れたくない事実に泣いちゃうところは普段の私がいつも感じてることなので読んでいただいた方にもぜひ共感していただきたいです。
――この作品で新たに挑戦したことや、普段と違う手法を取り入れたことはありますか?
【芽茶はらぺこ】人生のほんの数秒だけでも、今現在の彼らのことを考えてもらえるように、その前にあった出来事などをほぼ描かないようにしたのが挑戦かもしれません。
取材協力:芽茶はらぺこ(@harapeko_mettya)