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ブームでは終わらない!?空前のサウナブームはどうやって起きたのか?

  • 2023年10月25日
  • Walkerplus

“サウナブーム”と言われて久しい。数年前は日々過熱していくのは一部界隈だけのものであったが、さすがにこのところの目覚ましい動きはサウナに興味のない人でも「なんだかサウナが流行っている」と感じるほどになった。新しいサウナ施設は次々誕生し、サウナを語る人が増えてきた。一体、このブームはどこからきて、どこへ行くのか。日本サウナ・スパ協会の理事・事務局長の若林幹夫氏に話を聞いた。

■サウナが日本に広がったのは1964年の東京オリンピック
ここ数年のサウナブームの勢いは凄まじい。しかし、よくよく考えるとサウナ自体はこのブームよりもずっと昔から温浴施設で見かけていた。サウナは日本発祥ではないのに、なぜ日本の温浴施設に当たり前のように設置されていたのか。「日本にサウナが広がったのは1964年の東京オリンピックのときです。フィンランドの選手が選手村にサウナを持ち込んで利用していたのをマスコミが取材して広めたことで、世間からの注目が集まりました。当時の日本は高度経済成長期の真っただ中。忙しく働く男性の疲労回復を目的とし、カプセルホテルを併用した男性用サウナが急増。これが第一次サウナブームといわれています」(若林氏)。仕事に追われ帰宅できないときや出張であちこち飛び回っているとき、さらには接待の流れでもサウナが使われたといわれる。

このカプセルホテルとセットになった男性用サウナはオイルショックのタイミングで一時的に減少したといわれるが、以降も営業を続けひとつの形態として定着していった。そして、そのあとまったく別の動きでサウナが広まる。健康ランドの存在だ。昔は“ヘルスセンター”と呼ばれた複合的な大規模入浴施設が、80年代に“健康ランド”と呼ばれるようになって幅広い客層をターゲットとした施設になる。「地方の温泉施設に足を運ばなくても近場でゆっくりお風呂が楽しめる、風呂だけでなく大衆演劇やカラオケ、マッサージなど1日中ゆっくりできるということで、男性だけでなく女性や家族連れも含めて楽しめる施設として人気となり増えていきました。ここにサウナが導入され、これまで以上に広くサウナが知られるようになしました」(若林氏)。

■健康ランドやスーパー銭湯で女性にも広まったサウナ
1960~1970年代に男性専用のサウナが増え、サウナを利用するのは男性というイメージが根付いたが、健康ランドで女性にもサウナを利用する機会ができた。そこにさらに“スーパー銭湯”と呼ばれる新しい入浴施設が誕生。現在はスーパー銭湯も個性豊かで実際の規模などはさまざまだが、ざっくりした違いは健康ランドが大衆演劇の舞台やカラオケなど娯楽施設が充実した大規模入浴施設であるのに対し、スーパー銭湯はマッサージや食事処などはあるもののより気軽に利用できる施設。そんなスーパー銭湯が増えたことでそこに設置されていたサウナもさらに身近になっていった。

一方、街なかの銭湯でもサウナを導入する動きがあった。ピークの1968年に1万7999軒を数えた銭湯だが、同時期ごろから風呂付きの住居が増え、これによって経営難に陥る銭湯が出てきた。その打開策としてサウナの導入を考える銭湯が増えたといわれる。その結果、70年代から80年代にサウナを導入した銭湯が増え、公衆浴場でもサウナを目にするようになった。実際に利用するかどうかは別として、日本人にとってサウナが特別なものではなくなってきたといえる。

さて、当時のサウナは遠赤外線ストーブやガスストーブが主流で、今のようにサウナストーンに水をかけることを禁止していた。「今のように自動ロウリュやスタッフのロウリュもない。だから、サウナ室の中はカラカラで温度が高く、湿度が低いためピリピリした感覚がありました」(若林氏)。サウナ室内の温度は高く湿度が低いカラカラに乾いた状態。照明も明るく、テレビが付いていて野球観戦を楽しむ。もちろんすべてがそうではないが、これが今でも言われる「昭和ストロング系」、サウナ=中高年男性が楽しむものというイメージのもとになったのではないか。

それに対して女性用のサウナではこの乾燥した“カラカラ系”は支持されにくかった。そのため女性用では肌にも髪にも負担が少なく、長くじっくり温まれるスチームサウナやミストサウナが重宝された。現在でも男性用はドライサウナ、女性用はスチームサウナを設置している施設があるのはその名残りだと考えられる。

■タナカカツキ氏の「サ道」がきっかけで広がった現在のサウナブーム、キーとなったのは水風呂
スーパー銭湯は郊外を中心に定着し、その数を増やしていった。身近な癒やし施設として幅広い年齢層に支持される。そこに今のサウナブームのきっかけとなる出来事が起こる。タナカカツキ氏の「サ道」だ。2016年に発表した「サ道 心と体が『ととのう』サウナの心得」(講談社)のエッセイのことだが、実は「サ道」(パルコ)が刊行されたのは2011年。タナカ氏がサウナにはまっていく過程をエッセイとイラストで記したもので、これに加筆して刊行されたのが「サ道 心と体が『ととのう』サウナの心得」。さらに「2019年、テレビドラマとして『サ道』(テレビ東京)が放映されたことで、特に若年層を中心にサウナが広まり、昭和サウナの“サウナはおじさんが行くところ”というイメージを払拭。現在のサウナブームのきっかけになりました。タナカカツキ氏は日本サウナ・スパ協会が公式にサウナ大使に任命し、サウナの本場フィンランドやラトビア、リトアニアへの外交など、漫画家でありながらサウナ・水風呂の素晴らしさを世に知らしめる広報大使としても活躍しています」(若林氏)。

タナカ氏が「サ道」で注目したのは水風呂の存在。いわゆる昭和サウナにも水風呂はあったが、あくまでサウナの付属品。熱いサウナには冷たい水風呂があったらいいといった具合。タナカ氏はこの水風呂の存在こそがサウナの醍醐味だと示した。「日本サウナ・スパ協会では昭和の時代から、サウナ(8~12分)→水風呂→休憩という入り方を提唱していましたが、水風呂の良さにフォーカスしたのは『サ道』だと思います。“サウナの後の水風呂は気持ちいい”と。またこのころから世界的にもサウナブームが起こり、都市型のスタイリッシュなサウナや移動可能なモバイルサウナ、自然を感じるネイチャー系サウナなど、さまざまなスタイルの新しいサウナが増えてきました。日本でもちょうどアウトドアブームとなり、キャンプ場にサウナを導入したり、テントサウナや、水風呂代わりに自然の川や海に入ったり、冬場に雪の中に飛び込んだりする新しい楽しみ方が出てきました」(若林氏)。こうした複合的な要素が絡んで今のサウナブームは躍進していった。

今のサウナブームのキーとなったのは水風呂だと若林氏は話す。実際、サウナ好きの中には「水風呂のためにサウナに入る」、「水風呂がメイン」という人も少なくない。水風呂はただ水を溜めた浴槽ではなく、例えば地下水や天然水、軟水、温泉などを使用し水の質にこだわったり、冷却装置を使って一定の水の温度を保ったり、ひとつのサウナ施設内にタイプや温度の異なる水風呂を数種類設置したり、水風呂に力を入れて工夫している施設も増えてきた。そして水風呂のあとの休憩。これも今のサウナでは大切な要素。サウナでしっかり温まってから入る水風呂にこそ、サウナの良さがあるとし、その後に休憩をとることでしっかりとリラックスできる。それを実感した人たちがサウナにハマっていったと思われる。

■昭和のサウナブームにはなかったサウナの新しい魅力
さらにサウナストーブの上にあるサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」や、タオルなどを使ってその蒸気を撹拌したり、風を送ったりする「アウフグース」、白樺などの枝葉を束ねたウィスク(ヴィヒタ)を使ってマッサージを行う「ウィスキング」など、“昭和サウナ”にはなかった世界のサウナの文化が融合しているのも今のサウナブームの特徴。サウナ室の中で頭や髪を熱から守る「サウナハット」が一般的になり、ファッション的な面でも人気となったり、サウナ施設や銭湯が多彩なオリジナルグッズを作ったりするようになったのも今のサウナブームならでは。

スタイリッシュなデザインの施設や、アウトドアで楽しむサウナや自分のペースで楽しめる個室サウナなど、楽しみ方の幅も広がりつつある。しかし、興味のない人もまだまだ多く、いまだにサウナを敬遠する人も少なくない。もちろんすべての人がサウナを受け入れることはないだろうが、サウナを知らなかった人や体験したことがない人が多いということは、今後サウナを好きになっていく人が増える可能性があるということでもあると思う。ではサウナは今後どうなっていくのか。

「中高年男性のものというイメージはかなり薄まってきて、サウナ好きの幅は各段に広がっていると思います。各施設がより利用者を楽しませるように、癒やせるようにさまざまな工夫をしているのも大きく、また、利用する側もSNSなどでサウナのよさ、施設のよさを発信し共有することでさらなる広がりを見せています」(若林氏)。今後サウナがどのようになっていくのかは、もちろんはっきりとしたことはわからない。しかし、昭和の時代から続いていたサウナがなくなることはないだろう。

よく例えられるラーメンやカレー。もともとは日本発祥のものではないが、日本で独自の進化と発展を遂げて、今や日本を代表する“日本グルメ”となった。サウナも同様に、すでに諸外国にはない日本独特の進化と発展を続けている。ここ数年で新たに誕生した施設は唯一無二の特徴ある個性派がそろい、サウナも多様化の時代に突入。これまでなかった新しいサウナができる一方、昭和サウナを愛する層のための施設も残っていて、自分に合ったサウナを見つけたり、さまざまなタイプのサウナを試したりといった、以前にはなかったサウナ体験もできるようになった。

ブームは遅かれ早かれ終わっていく。しかしブームが文化となればすたれない。日本のサウナが日本ならではの文化となって根付いていくことを、いちサウナ好きとしては切に願う。






取材・文/岡部礼子

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