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関東屈指のうどんの聖地・群馬県名物「鬼ひも川」って何?織物文化の変化が誕生のきっかけに

  • 2023年9月6日
  • Walkerplus

日本各地に根付くうどん文化。秋田県の「稲庭うどん」、香川県の「讃岐うどん」、福岡の「博多うどん」などが有名だが、関東圏屈指の“うどん県”として知られるのが群馬県だ。県外の人は意外に思うかもしれないが、群馬県には古くから小麦文化が浸透しており、あの日清製粉グループの創業の地も群馬県館林市にある。

さらに、群馬県内でも「水沢うどん」「桐生うどん」「館林うどん」といった三大うどんがあり、それぞれに多くのファンが存在。特に高級麺として知られるのが「館林うどん」で、茹で上がった際のつや、豊かな小麦の風味、コシには定評があり、全国のうどんマニアからも高い評価を得ている。

そんな「館林うどん」の先駆けであり、さらに大正時代には幅の広いうどん「鬼ひも川」を考案し、今日まで名物として知られるうどん店がある。それが「花山うどん」だ。特に「鬼ひも川」は見た目のインパクトにまず目を奪われるが、味わいにも定評があり、店には行列ができるほど。

都内からのちょっとした旅行にもぴったりの群馬県。今回は、群馬県に小麦文化が根付く理由と「鬼ひも川」の特徴について、「花山うどん」5代目の橋田高明さんに話を聞いた。

■まさに「小麦粉のサンクチュアリ」である館林市
館林市は県内の南東部に位置するエリア。名所の茂林寺はおとぎ話「分福茶釜」(ぶんぶくちゃがま)の舞台の寺として知られることから、市内のあちこちで同話の主役であるたぬきを目にすることができる。

冒頭でも触れた通り、日清製粉グループの創業の地も館林市であり、館林駅西口には同社の工場に併設された「日清製粉グループ 製粉ミュージアム」という小麦粉の歴史や文化を伝える施設もある。

まさに「小麦粉のサンクチュアリ」と言ってもいい館林の地で、1894年に創業したのが「花山うどん」だ。1900年創業の日清製粉よりも6年早いことになる。

創業者の橋田金三郎は、「日本一のうどんを作る」という志のもと「花山うどん」を創業し、5代に続くうどんブランドとして現在も地元民から愛され続けている。

まず、群馬県に小麦文化が根付いている理由について橋田さんに聞いた。

「群馬には、独特の風『赤城颪』(あかぎおろし)というものがあります。これは冬季に北から吹く乾燥した冷たい強風で、別名『上州空っ風』と言います。小麦は揺らして穂を強くする必要があり、なおかつ水はけがよくないといけないのですが、この『赤城颪』により小麦の穂が強くなり、さらに仮に雨が降ったとしても水がたまりにくいため、良質な小麦を作ることができたんですね。こういったルーツから、群馬県に小麦文化が浸透したと言われています」

■富岡製糸場に来る商人たちに愛されたが…「鬼ひも川」誕生秘話
根強い小麦文化を象徴するかのように、かつての群馬県内の家庭には「一家に一台、家庭用の製麺機があった」という話もあるほどで、今では考えられないが、“麺を打てなければ嫁に行けない”という風潮さえあったんだとか。

そんななか「花山うどん」が誕生したわけだが、創業時はうどん店を経営するのではなく、贈答用のうどんの製造・販売を行っていた。特に人気だったのが、館林市を含む東毛エリアに根付いていた幅広の「ひもかわうどん」だったという。

「うちが創業する以前から『ひもかわうどん』は地元に根付いていました。そのルーツは、愛知県の旧東海道の三河国芋川という場所で誕生した『芋川うどん』で、関東圏にその味が親しまれるようになり『芋川』が『ひもかわ』に訛って伝えられるようになったんです。また、群馬県には世界遺産にもなった『富岡製糸場』という工場があり、絹や繭を使う織物産業が盛んでした。富岡製糸場には、全国の商人が織物を買い付けに来ていましたが、そういった取引先への手土産として館林の『ひもかわうどん』が人気でした。そのため、『館林のひもかわうどん』は当時全国にも知られていたのですが、やがて織物産業が外国の業者に取って変わり、同時に全国の商人も群馬県まで足を運ぶことがなくなり、日本各地のうどんが有名な地域に対して群馬県だけが追いやられる形になってしまったんです」

しかし、「花山うどん」ではめげずに新たなうどんの考案を行った。それが「ひもかわうどん」よりもさらに幅が広い「鬼ひも川」といううどんだった。その幅は約5センチで、“鬼のように幅が広い”といったインパクトからその名が付けられた。

「2代目が大正時代に考案したオリジナルで、今では『花山うどん』の代表的な商品になりました。『鬼ひも川』はその幅の広さばかりが話題になりがちなのですが、実はその厚みにも強いこだわりがあります。群馬の小麦はうどんに製麺した際、粘り気が出てモチッとした食感になるのが特徴。そのため、うどん生地が厚すぎると口の中でモゴモゴしてしまい、おいしく感じられないんです。なのでコンマ単位での製麺を行っており、厚みが1.52〜1.55ミリほどになるようにしています。この繊細な厚さにすることで、やっとモチッとした食感と喉越しを感じられるようになり、ほかでは味わうことができないうどんになるわけですね」

一時、「鬼ひも川」は廃盤になっていたものの、5代目・橋田さんが倉庫からその文献を発掘。うどん日本一を決定する大会が行われた際にはこの「鬼ひも川」を復刻させて挑んだところ、2013年より3年連続で全国日本一を果たすことになった。

「見た目のインパクトが強いうどんですが、『おもしろい』などの企画的な要素だけで作っているわけではなく、口にしたときのおいしさにはとにかくこだわっています。これを徹底したうえで『鬼ひも川』を復刻して大会に挑んだところ、ありがたいことに3連覇を果たすことになりました」

■「鬼ひも川」の特徴とは?インパクトだけでなくおいしさも抜群
橋田さんによれば、「鬼ひも川」は通常のうどんつゆでも十分おいしいものの、ねっとりしたつけダレと合わせるのがおすすめなんだとか。

「カレー、クリーム系、胡麻つゆなどのつけダレと合わせてお召し上がりいただくのがおすすめです。ねっとりしたつけダレを、面積の広い『鬼ひも川』が絡めて持ち上げてくれるんです」

実際に「鬼ひも川」を使った「丸ごと玉葱の南極カレーつけうどん」を食べてみると、橋田さんが言う通り、うどん生地に程よい粘度のカレー出汁がしっかり絡む。強い小麦の風味、うどん生地の瑞々しさ、だしの味わいが口の中で広がって絶品。たしかに今まで食べたことのない、よそでは味わえない逸品だ。

「あとは、『鬼釜』という麦豚と半熟卵を使っただしも人気があります。半熟卵が『鬼ひも川』に絡まり、こちらも絶品ですよ」

■愛されているからこそ、味わいへのこだわりを追求
現在、「花山うどん」は館林本店と伊香保石段店のほか、東京でも羽田店、銀座店、日本橋店を展開している。ただし、橋田さんによれば「“おいしいうどん”を提供し続けるためには現状の店舗展開が限界」とのこと。

「ご好評をいただいているからこそ、より一層味にはこだわり続けないといけません。先代から『自分たちの目の行き届く範囲でうどんを作れ』という考えを教わってきているので、店舗数は現状ではこれが限界です。ただ、『花山うどん』の出発点が贈答用のうどんだったことから、全国からお取り寄せいただける贈答商品を多く展開しています。もちろん『鬼ひも川』もご用意しています」

群馬県に古くから根付く小麦文化、うどん文化を再び全国に知らしめつつある「花山うどん」。2024年で創業から130年になるが、さらなる未来にかける思いを聞いた。

「『鬼ひも川』はたしかに3年連続で全国1位になりましたが、全国各地にはそれぞれ違ったおいしいうどんがあり、それぞれの嗜好や思いもあるので、『ここが一番』『このうどんが日本一だ』と決めるのは本当に難しいことだと思います。そのうえで、群馬のうどんのおいしさを知っていただく機会があるのはありがたいです。ぜひ全国各地のうどんと食べ比べて、各地の味の違いを楽しんでいただきたいですね」

取材・文=松田義人(deco)

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