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コーヒーで旅する日本/九州編|時間を気にせず、ただ海を眺めて。「きまま焙煎所」に流れる物語がコーヒーを特別なものに

  • 2023年6月26日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第73回は長崎市にある「きまま焙煎所」。長崎市といっても眼鏡橋や中華街があって、路面電車が走ってという市街地ではない。長崎市中心部から南西に車を走らせること約40分。東シナ海をはじめ、軍艦島の愛称で知られる端島などを横目に海沿いドライブが気持ちいいエリアをさらに南へ。視界はさらに開け、美しい白砂のビーチ、脇岬海水浴場が目の前に広がる。

「こんな場所でコーヒーショップができたら最高だ」。素直にそう思わせる最高のロケーション。「きまま焙煎所」があるのはそんな海沿いの小さな町だ。秋田県男鹿市出身の菅原洋樹さんが定住を決め、ここでコーヒーを焼いて生きていくと決めた理由を聞いてみたい。

Profile|菅原洋樹(すがわら・ひろき)
秋田県男鹿市生まれ。東京のアパレル、飲食業界で約13年働く中、東日本大震災を機に、東京を離れることを考え始める。一人旅をしていたところ知人の誘いもあり、長崎県の東彼杵町へ。その流れから野母崎地区の地域おこし協力隊を募集していたことを知り、地域おこし協力隊となる。野母崎の魅力を広く知ってもらいたいと脇岬海水浴場の廃屋寸前の建物を再活用し、コミュニティカフェを立ち上げる。そのカフェでも手回しで自家焙煎していたことから、徐々にコーヒーのおもしろさに開眼。2015年に屋号を「コミュニティカフェ リップル」から「きまま焙煎所」に改名。足掛け5年ほど脇岬海水浴場の建物でカフェを運営し、2019年に現在の場所に移転。長崎市出身の奥さん、真希さんと一緒に店を営む。

■小さな漁村でコーヒー屋を
レコメンドしてくれた珈琲人町の店主、竹下さんが「天気がいい日に『きまま焙煎所』さんに行ったら最高。僕も行きたいなー」と何度もつぶやいていたように、「きまま焙煎所」はロケーションに恵まれている。店に向かう道中の開放的な海の景色はもちろんのこと、店から見える漁港の雰囲気もどこかのんびりとした空気が流れ、さらに情緒もあっていい。

店はもともと別荘のように使用されていた住居をリノベーションしており、店内はソファ席、カウンター席を用意し、カフェ利用OK。さらにテラス席もあり、気候がよければ潮風を浴びながら屋外でのんびり過ごすのもおすすめだ。

秋田県出身と、九州とはなんの縁もない店主兼ロースターの菅原洋樹さんが長崎市に移り住んだのは、2011年。野母崎地区の地域おこし協力隊になったのがきっかけだ。菅原さんは「秋田から東京に移住し、13年ぐらい東京で暮らしました。東京を離れるきっかけとなったのは東日本大震災。最初は故郷の男鹿市に戻ろうかとも思ったのですが、縁あって長崎に来ることになり。その流れから、野母崎地区の地域おこし協力隊に採用していただき、3年の任期を務めました。野母崎で暮らす中でこの土地の魅力に惚れ込み、さらに妻との出会いもあって結婚して、ここに定住することに決めました。野母崎に来てもう12年ぐらいになりますね」と話す。

菅原さんはそうナチュラルに話すが、すごいのは完全に地元になじんでいることだ。まだ若いこともあり、どこか周囲から頼られているというのもあるのかもしれない。ただ話を聞いていくと、頼られているというより、地元の人がおせっかいを焼きたくなるような性格なのだろうというエピソードを聞かせてくれた。

■地元のおじさんが作ってくれた焙煎機
菅原さん、奥さんの真希さんともにコーヒー好きで、コミュニティカフェを開くにあたり、唯一こだわれるコーヒーぐらいは自家焙煎しようと決めたそう。最初は少量焼ける手回し焙煎を独学で始め、意外にもうまく焼けたことから、自然な流れでコミュニティカフェのコーヒーは自家焙煎というのが謳い文句に。

そんな日々を過ごす中、地元の機械好きのおじさんが「一から独学の割にはおいしいコーヒーだ。ずっと手回しだと大変だろうから、わしが自動回転式の焙煎機を作ってやる」と提案してくれたそう。菅原さんは「そんなカスタムは絶対大変だろうから、最初はやんわりお断りしたんですが、それでも作ってくれると言ってくださるのでお願いすることにしました」

そしてプロトタイプが完成。菅原さんは「想像以上のクオリティの機構ができあがり、正直驚きました。そこで僕も調子にのっちゃって、『回転数が変えられるような仕組みがほしい』なんてわがままを言ってしまい。ご厚意で作ってくださっているのに図々しいですよね(苦笑)。ただそのリクエストにも応えていただき、回転数も変えられる自動回転式焙煎機が完成しました」と振り返る。最初は小型の200グラム、次に手回しで500グラム、そして容量は変わらずに自動回転式に進化。今はフジローヤルの半熱風式1キロがメインになっている。

この少しずつの成長が地元に根付き、周囲の人々に愛される「きまま焙煎所」。とにかく人当たりがよく、柔らかな性格で、そしてどこかおせっかいを焼きたくなるような雰囲気。それが菅原さんの人としての魅力だろう。

■人柄が出る、優しいけど深みのあるコーヒー
そんな菅原さんが焙煎するコーヒーはハウスブレンド1種、ストレート3種から4種というラインナップ。産地の自然環境や暮らしに配慮した農園にこだわっていることから、基本的に無農薬栽培、有機栽培が多くなっているという。スペシャルティコーヒーにはあえて固執せず、伸びしろのあるオーガニックの生産者を選ぶようにしているほか、丁寧なハンドピックを徹底するのがモットーだ。

菅原さんは「香りがよい、甘さがあるなど、それぞれの生豆のおいしいと思えるポイント、一番の魅力を焙煎で引き出すよう心がけています。もちろんそこには豆の個性も含まれてきますが、あまり尖ったキャラクターはいらないかなというのが僕の考え。ご年配の方が多い地域柄、深煎りが好まれますしね」と話す。

個性を前面に押し出すのではなく、周りに溶け込むような味作りをしている「きまま焙煎所」。素泊まりが基本の「民泊 トンボロ」を営んでいるほか、教育大学で美術を専攻していた真希さんが絵画造形教室も行っている。ドライブがてらふらりとコーヒーを楽しむのもよいが、「民泊 トンボロ」に泊まって、「きまま焙煎所」や漁村にのんびり流れる時間を存分に体感するのもよさそうだ。

■菅原さんレコメンドのコーヒーショップは「珈琲花坂」
「福岡市・大名にある『珈琲花坂』さん。直接知り合いとかではないのですが、一度お邪魔してすごくステキなお店だと思いました。バーを間借りされているそうですが、雑居ビル5階という隠れ家感もいいですし、なによりコーヒーがとってもおいしかったです」(菅原さん)

【きまま焙煎所のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル半熱風式1キロ
●抽出/ハンドドリップ(コーノ式ドリッパー、HARIO V60)
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム620円〜

取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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