夢への道は決して平たんではないもの。漫画家の目指すもなかなか芽が出ず袋小路に迷い込んだ若者が、とある大失敗をきっかけに自分を取り戻す短編漫画「たった一度の“大失敗”で新人漫画家の人生が変わる話」に、Twitter上で8000件を超える「いいね」とともに、読者から「めっっっちゃくちゃ面白い」「物凄く胸が熱くなる」と反響が集まっている。
同作は、漫画家の石山諒(@ryoishiyama33)さんが「月刊ガンガンJOKER」(スクウェア・エニックス)で連載中の『龍とカメレオン』の番外編として描いた作品。反響を受け、石山さんに制作の裏側を訊いた。
■袋小路に迷い込んだ新人、大失敗がきっかけで光明見える物語に感動
「ボツだね」。一週間かかった漫画のネームが、編集者との打ち合わせで水の泡になってしまった新人漫画家の「真坂」。漫画家を目指し上京したものの、毎週持ち込むネームは半年間ボツ続きで、真坂は「東京で何したいんだっけ」と自分を見失いかけていた。
そんな時、打ち合わせ相手の編集者から、とある漫画家のヘルプアシスタントに入れないかと打診される。その漫画家は、累計1億部越えの大ヒット漫画の作者「花神臥龍」。アシスタント経験のない真坂が突然、大物漫画家の作品制作を手伝うことになったのだ。
仕事場にて、生原稿を前に「はみ出ないように」と緊張する真坂だったが、力を込めるあまりペンからインクをこぼし、キャラや背景が既に描かれたコマを潰してしまう。大失敗に平謝りで「僕って最悪だ…」とどん底に沈む真坂。だが、失敗した箇所を確認した花神先生は、「ここの背景の描き直しは君に任せる!!」と、叱るどころかまさかのオーダーを下した。
うろたえる真坂に、花神先生は「頑張って描いた物ならそれは読者に届く！」と激励。失敗したことがきっかけで、子供の頃から憧れた作品の背景を描くことになった真坂だが、その顔には不思議な高揚感が浮かんでいた。
描き直しを経て、無事背景を描き終えた真坂。後日、編集者との打ち合わせに臨んだ彼の表情は、迷いなく前を見据えていた――、というストーリー。
■「僕も含め多くの方が持っている」努力が実を結ばないキャラに共感
自分の夢を再確認した真坂の変化はもちろん、そのきっかけを与えた花神先生の言葉も心に響く作品。『龍とカメレオン』本編では、無名漫画家「深山忍」と身体が入れ替わってしまった花神臥龍が、漫画家としての誇りをかけて戦いを挑む漫画家バトルを描いている。
石山さんは、今回の番外編を描いたきっかけについて「『龍とカメレオン』本編は『新人漫画家と主人公が入れ替わる話』がスタートなので、入れ替わり以前の主人公・花神臥龍も描きたいなと考えたエピソードです。また『龍とカメレオン』をより多くの方に知って欲しいという思いもありました」と話す。
本編には登場していない真坂というキャラクターの視点から描かれた番外編。「花神の救いの言葉を読者の方に身近に伝えたかったので、出来るだけ沢山の人が感情移入できるキャラクターを視点役にと思い、真坂というキャラクターを考えました。努力が中々実を結ばない経験は、僕も含め多くの方が持っているんじゃないかなと。多くの温かいご感想を頂けて、このキャラクターを生み出して本当に良かったと思います。お気に入りです、真坂君」と、作者自身としても思い入れのあるキャラクターになったと振り返る。
時系列では本編がはじまる前のエピソードにあたる番外編。本編主人公の「花神臥龍」の過去を描く上で意識した点について質問した。
「花神のキャラクター性は変わらないのですが、本編では新人の立場から昇り詰めていくというストーリーなので、どうしても熱い部分を魅力として描いています。番外編ではベテラン作家として新人作家と関わるので、“熱い”よりも“温かい”が出るだろうと意識して描きました。花神自身、精神は超人的ですが人の気持ちに寄り添えるキャラクターですので、そこがこの番外編で読者の方に伝わってくれれば嬉しいなと思います」
2023年4月21日(金)にはコミックス第1巻が発売となる『龍とカメレオン』。石山さんは、番外編をきっかけに興味を持ったユーザーに向け、「とにかく絵もお話も熱量を持って描いています！エピソードは実体験から肉付けする事が多いので、真に迫る熱いドラマを是非読んで欲しいです。新人漫画家と身体が入れ替わった大人気漫画家の主人公が活躍する“漫画家バトル漫画”『龍とカメレオン』よろしくお願いします！」と、本編の見どころを教えてくれた。
取材協力：石山諒 / スクウェア・エニックス
『龍とカメレオン』 (C)2023 Ryo Ishiyama/SQUARE ENIX
