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コーヒーで旅する日本/関西編|お客との対話を重ねて、今の気分にど真ん中の一杯を。「喫茶ストライク」が目指す次代の喫茶店の形

  • 2023年2月21日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第53回は、神戸市中央区の「喫茶ストライク」。人気のオーダーメガネ店・めがね舎ストライクが、次世代の喫茶文化の創造を目指して、2年前にオープンした話題の一軒だ。喫茶と銘打ちつつも店内はバーを思わせる雰囲気、メニューにはコーヒーのみならず、コーヒーとアルコールを掛け合わせたカクテルも充実。対話の中からその人に合ったものを見つける“Bespoke”をモットーに、お客の好みのど真ん中めがけて淹れる一杯が、進化した喫茶店のくつろぎを体現している。

Profile|満田要 (みつだ・かなめ)
1994(平成6)年、奈良県生まれ。地元・奈良の人気コーヒーロースターで、スペシャルティコーヒーの味わいに衝撃を受けたことで、バリスタを志し入社。約4年の間に、店のリニューアルや店長も務め、ロースターの品質管理も経験。2022年春に「喫茶ストライク」に移り、2代目店主として、コーヒーカクテルの充実に力を入れる。

■会話を通してお客の好みに応える、“ビスポーク”な一杯
JR三ノ宮駅の南側。地元で話題のショップや飲食店が点在する磯上エリアに立つ、オフィスビルの2階。看板を頼りに階段を上ると、真っ白なフロアに、秘密めいた引き戸が。中から漏れる声に惹かれて、そーっと開けてみると一転、温もりあるウッディな空間が現れる。一枚板のカウンターを挟んで、蝶ネクタイ姿でにこやかにお客を迎えるのは、店主の満田さん。喫茶を屋号に掲げてはいるが、漂う雰囲気はバーの趣だ。オーダーメイドの眼鏡作りに定評のある、めがね舎ストライクの姉妹店として2021年にオープン。近年、失われつつある喫茶店の醍醐味を、新たな形で体現する場として生まれたのが「喫茶ストライク」だ。お客との対話を通した、一人ひとりのためのもの作り=ビスポークをテーマに掲げる、めがね屋ストライク同様、お客のど真ん中に届く、次世代の喫茶体験を提案している。

以前は、バリスタとして地元・奈良のロースターに勤めていた満田さんが、この店の存在を知ったのは、自身のための眼鏡を探していたことから。「しっくりくるサイズの眼鏡がなくて、オーダーで作ろうと思っていた時、神戸に眼鏡屋とバーが合体した面白い店があると聞き、訪ねたのが縁の始まり。昔から、“自分だけに合うのモノ”というのがすごく好きで、店のコンセプトである“ビスポーク”に共感するところが大きかった。喫茶の方にも足を運んでみて、眼鏡もコーヒーも会話しつつ、一人のお客のために仕立てる同じビジョンで提供されているのに惹かれた」と振り返る。この時、スタッフの募集はなかったのだが、オーナーを訪ねて直談判、昨春から2代目店主として、奈良から神戸へと仕事場を移した。

■手間ひま惜しまぬコーヒーカクテルの新鮮な取り合わせの妙
喫茶と銘打つからには、コーヒーも多彩にそろえるが、アレンジドリンクやアルコールを使ったコーヒーカクテルもあり、お客との対話の中から好みに応えるのが、この店のスタイルだ。中でも満田さんが惹かれたのは、コーヒーカクテルの幅広さ。「コーヒーとお酒の組み合わせは無限にあると、可能性を感じた。ここなら、やりたいことができるのでは」と、入店以来、メニューの充実に力を入れている。とりわけ、看板メニューとして好評なのが、オリジナルのコーヒーハイボール。といっても、単純に混ぜあわせるだけにあらず。コーヒー豆を直接ウイスキーに漬け込んで風味を調和させた、手間がかりの一杯だ。現在、11種のウイスキーが揃うが、それぞれの風味の個性に合わせて、異なる豆を漬け込む細やかさ。

「漬ける時間については企業秘密。味見しながら時期を決めていく。カクテルのレシピは姉妹店のバー ストライクのバーテンダーと共に考案。バリスタだけで作るとコーヒー寄りになってしまうが、酒のプロと共にカクテルとしての完成度を追求しています」という満田さん。例えば、スモーキーな香りが持ち味のボウモアには、ほろ苦い香味を持つインドネシア・マンデリンを合わせて。ほのかに立ち上るコーヒーの香りに、芳醇なウイスキーが重なり、ビターな余韻がすっきりと後味を締める。繊細にして複雑な取り合わせは、豆の漬け込みにかける時間と職人仕事の賜物だ。

また、エスプレッソベースのシェケラ―トには、4種の豆の焙煎度に合わせて、同じく4種の自家製コーヒーシロップを用意。ノンアルコールはもちろん、さらにリキュールを合わせるとより華やかな味わいに。まさに組み合わせの妙は尽きない。また、喫茶店らしくスイーツには定番のプリンもあるが、こちらもエスプレッソをカラメルに使い、カラメルをしっかり焦がしたビターな味わいだ。さらにリキュールを生地に混ぜ込んだ大人仕様も。一見、ミスマッチにも見える、コーヒーハイボールとプリンという取り合わせも、ここならむしろ新鮮なペアリングの妙を見せてくれる。

「コーヒーカクテルは、ゆったりと味わってもらうことにフォーカスしています。バーで一杯の酒を嗜むように、コーヒーを喫する時間を楽しんでいただく。だからここはバーではなく、あくまで喫茶店なんです」。なるほど、カクテルにもすべてコーヒーが使われている。そこにアルコールが加わることで、コーヒーの楽しみ方を広げ、好みの嗜好にも幅広く応える。この懐の深さとオリジナリティ、贅沢な余韻は、進化した喫茶店“喫茶2.0”を目指す、この店ならではの醍醐味だ。

■コーヒーのクオリティを支える、ロースターとの信頼関係
バーさながらの膨大な仕込みに労を惜しまないのはもちろん、コーヒーの質の追求も常に欠かさない満田さん。奈良のロースター時代には、コーヒーの品質管理も務めていた経験もあり、培ってきた知識と感度があるからこそ、多彩なアレンジも可能になる。定番で使うコーヒー豆は、週に一回、仕入れ先のBeyond Coffee Roastersに通ってカッピング。豆を変えたり、新しい銘柄を使う時も然り。「例えば、味に納得できない時に、自分が悪いのか、生豆の質が悪いのか、焙煎なのか、原因を究明することが必要。逆に、リクエストして、この店のために仕入れてもらうこともある。ブンさん(Beyond Coffee Roastersの店主)とのコミュニケーションは密にして、ハイボールのペアリングなども一通り一緒に判断する。ロースターとの距離感が近く、日々忌憚なく意見を交わせるのが強み」。時には、朝にカッピングした豆を、すぐに酒に漬け込んで試飲してもらうといった、スピード感もこの関係があってこそだ。

「店のことは一任されてる。アイデアを形にできる環境がありがたい」という満田さん。コロナ禍中のオープンで、当初はお客も少ない日が続いたが、毎週来てくれる常連に支えられてるという。「やるからには本気で旨いものをゆったりと喫することができる場所に。これからが本当のスタートになる」と意気を高める。同じ嗜好品を扱う喫茶店とバーは共通項が多く、かつては昼に喫茶、夜はバーという“二毛作”スタイルの店は数多くあった。ここはいわば、その現代版フュージョンともいうべき一軒。対話を通して、今の気分のど真ん中の一杯を届ける、新たな喫茶体験のさらなる深化を楽しみにしたい。

■満田さんレコメンドのコーヒーショップは「Cauda」
次回、紹介するのは奈良市の「Cauda」。
「地元の奈良に帰った時には、必ず寄るお店。自家焙煎のサイフォンで、こちらもバーっぽい雰囲気があります。コーヒーは産地によって味が違うんだと意識し始めた頃、この店のグアテマラのおいしさに感銘を受けて、ロースターにいた頃も何かと相談に乗っていただいた、コーヒーの師匠的な存在です」(満田さん)

【喫茶ストライクのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(Beyond Coffee Roasters)
●抽出/ハンドドリップ(オリガミ)、エスプレッソマシン(La Marzocco)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/ なし
●豆の販売/なし

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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