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コーヒーで旅する日本/九州編|地方でこれからもずっと。「ミタニコーヒー」の優しいコーヒーとの向き合い方

  • 2023年1月30日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第61回は、福岡県福津市にある「ミタニコーヒー」。小さな集落にある民家を店として利用しており、狙って行かないとたどり着けないような目立たない立地だ。ただ、福津・宗像エリアでは人づてに話題を集め、土曜・日曜・祝日は時間枠を限った完全予約制にするなど、多くの人が足を運ぶ人気店になっている。その理由はこだわりのコーヒーはもちろんだが、同店ならではのゆっくりと流れる時間があるから。店主の三谷晃代さんが「ミタニコーヒー」に込めた思いを聞いてみた。

Profile|三谷晃代(みたに・あきよ)
福岡県福岡市生まれ。宗像市の大学に進学し、教員を志す中、長期の入院を経験したのをきっかけにコーヒーの世界に興味を抱く。福岡県内を中心にコーヒーショップを巡る中で、福津市のくつろぎ珈琲にて働き始める。いつかは自分の店を持つという目標を掲げ、2017(平成29)年に「ミタニコーヒー」を無店舗で立ち上げ。イベントや知人の飲食店などで出店を続け、2022(令和4)年9月、福津市奴山に念願だった実店舗をオープン。

■非日常感を大切に
「ミタニコーヒー」があるのは福岡県福津市奴山。福津市街から宗像方面へ抜ける国道495号から少し山手に入った小さな集落の一角に位置している。一帯にはポツポツと民家が建ち並ぶとても静かなロケーションだ。店舗前の駐車場は2台のみかつ、軽自動車しか停められないため、三谷さんからはあらかじめ「宝蓮寺さんの第2駐車場に車を停めてください」と言われていた。「ミタニコーヒー」までは徒歩約5分。のどかな風景を眺めながら歩いていくと、小さな手製の看板を発見。この看板や玄関の暖簾がなければ、ここがコーヒーショップであるとはきっと気付かないだろう。

玄関に入り、靴を脱ぎ、店に入ってみると驚いた。室内は外観からは想像できない空間が広がり、欄間や床の間など、随所に日本家屋の意匠を見て取れる。

「SNSなどではあえて店内の様子はアップしないようにしています。それは、初めて来てくださったお客さまに、驚きと非日常を感じていただきたいから」と話す店主の三谷晃代さん。実際、外目からだと変哲もない古民家の中が、こんなカフェスペースになっているとは想像できない。

■コーヒーは心を整えてくれたもの
三谷さんがコーヒーに惹かれたのは、大学生のころ。もともと教員を目指し、勉学に励んでいたが、教育実習などを経験する中で体調を崩し、長期間の入院を余儀なくされた。「昔から教員になるのが夢ではあったのですが、実際に現場に立ってみると、私が思い描いていたものとはなにかが違い、直感的に『教員になっても、幸せにはなれないかもしれない』と思ったんですね。そのころ、シアトル系のカフェチェーンでアルバイトをしていたんですが、長い入院期間中、強く思ったのが『カウンターに立ちたい。コーヒーを淹れたい』ということ。それで、私が本当に好きなものってコーヒーかも、って考え始めたのがきっかけです」

入院中、“行きたいコーヒーショップリスト”を作り、退院してからさまざまなコーヒーショップを巡る日々を送った三谷さん。「ラテアートセミナーなどにも通う中で、コーヒーと真剣に向き合う時間が自分自身の気持ちを切り替えてくれて、モヤモヤしていたことがスッキリと整理されることに気付いたんです。コーヒーを通して気持ちが整っていくというのでしょうか。そんな体験を多くしていくにつれ、一気にコーヒーの世界に引き込まれました」

三谷さんにとっては、等身大の自分で、無理なく付き合えるものがコーヒーだったというわけだ。そんな体験をきっかけに本格的にコーヒーのことを学びたいと門を叩いたのが同じ福津市にある、くつろぎ珈琲だった。「客としてくつろぎ珈琲さんに通う中で、エスプレッソマシンで抽出したいことを伝えたら、マスターが『やってみたらいいよ』という感じのゆる〜い学び始めでした。マスターのご厚意でマシンを使わせてもらっていたので、お店が忙しくなってきたら、皿洗いなどお手伝いをしたり。そんな日々を送る中で、自然とアルバイトを始め、少しずつ仕事を覚えていく中で店長を任されるようになって。結果3年弱、くつろぎ珈琲さんでお世話になりました」と三谷さんは振り返る。

■まずはやってみるところから
さまざまなコーヒーショップを巡り、くつろぎ珈琲で働く中、「ミタニコーヒー」という屋号を掲げ、独自に動き始めた三谷さん。福津市奴山の実店舗は2022(令和4)年9月オープンだが、「ミタニコーヒー」自体は6年前に立ち上げていたという。その行動力に驚かされた。
「くつろぎ珈琲に入った時にはすでに『いつかは自分の店を持つ』と決めていて、それをコーヒーショップの方々に話していたんですね。そしたら『店舗はなくても屋号だけ付けてやってみたらいいよ』とアドバイスを受けたんです。『え、いいんだ』と思い、すぐに『ミタニコーヒー』を立ち上げました」と笑う三谷さん。

イベントに出店したり、知り合いの飲食店の一角でコーヒーを販売したり、6年前から「ミタニコーヒー」として活動。もちろんその間も多くのコーヒーショップを巡り、各店の店主やスタッフと親交を深めた。中でも三谷さんに大きな影響を与えたのが、ROASTERY MANLY COFFEEの須永さんだ。「須永さんは同じ女性のロースター、バリスタだったこともあり、会ってお話させていただく度に刺激をいただきました。私がエアロプレスにこだわって抽出しているのも須永さんの影響です」

その言葉通り、「ミタニコーヒー」ではコーヒーの抽出はエアロプレスで行っている。その理由はたくさんあるが、中でもフレーバーをダイレクトに液体に落とすことができ、かつスムースな口当たりを表現できるエアロプレスの特性に惹かれているという。「イベントや飲食店の軒先で出店を続ける中で、淹れ方一つでエスプレッソのように濃く抽出できたり、逆にジュースのようにすっきりとしたテイストに仕上げることができる点にも魅力を感じましたね」と三谷さんは話す。

■だれもが気持ちよく過ごせるように
現在、「ミタニコーヒー」は定休日を除く平日は通常営業、土曜・日曜・祝日は13:00〜14:30、14:45〜16:15の時間枠のみの予約制という営業スタイルを取っている。その理由を聞いて、「ミタニコーヒー」が、やはりステキな店であることを再確認した。

「店がある奴山は普通の集落です。最初は土曜・日曜・祝日も通常営業していたのですが、満席の場合、どうしても店前でお客さまが待たれてしまいます。お客さまをお待たせするのも申し訳ないですし、近隣住民の方々もご自宅の近くに多くの人がいると落ち着きませんよね。それで時間を限った予約制にしました。時間枠は2部制で、各1時間半で設定しているのは、わざわざwebでの予約という一手間をかけてご来店いただいたお客さまに、できる限りのんびりとお過ごしいただきたいから。通常営業の場合、外で待っている人がいると思うと、気が急いてしまい、ゆっくりコーヒーを飲めないという方もいらっしゃいます。近隣に暮らされている方々含め、すべての人にとってストレスのない環境で店を営みたいんです」

回転率だけを考えれば、繁忙日に予約制とするのは効率が悪いのは言わずもがなだ。ただ、三谷さんは“永く愛される店に”という思いのもと、だれもが気持ちよく過ごせる方法を選んだ。

実店舗オープンを機に、焙煎機も導入し、自家焙煎にもチャレンジしている「ミタニコーヒー」。焙煎に関しては、くつろぎ珈琲の小田さんにアドバイスをもらいながら試行錯誤し、さらに壁にぶち当たれば先輩ロースターにもアドバイスを求めるようにしているという。「自分だけの力でなんとかするのも大事かもしれませんが、私はそれよりもわからないことがあれば素直に聞いて、一秒でも早く問題をクリアにするように心がけています。それは、お客さまに今の自分が表現できる最高のコーヒーをお届けしたいから」

自身の小さなプライドよりも、コーヒーを飲む人のことを常に想う。ただ店を営むだけではなく、コーヒーと人に寄り添う三谷さんの姿勢には、嗜好品であるコーヒーだからこそ、ゆっくりと楽しみ、そして心を満たしてもらいたいという思いが見て取れる。「おばあちゃんになってもコーヒーを淹れ続けたい」と話す三谷さんの夢は、この場所ならきっと叶うはずだ。

■三谷さんレコメンドのコーヒーショップは「マルハチ珈琲焙煎舎」
「福岡県北九州市にある『マルハチ珈琲焙煎舎』とはコーヒーショップを巡る中で出合いました。女性店主のみやこさんは抽出だけでなく焙煎もされていて、女性でも焙煎ができることを気付かせてくれたお店です。ステキな空間はもちろん、みやこさんが淹れるエスプレッソがとってもおいしいんです」(三谷さん)

【ミタニコーヒーのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル半熱風式3キロ
●抽出/エアロプレス、エスプレッソマシン(SYNESSO S200)
●焙煎度合い/中煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/150グラム950円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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