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【漫画】妻に先立たれ1人残された夫と、猫又になって寄り添う飼い猫ニイの田舎暮らしご飯漫画「ねこまたとあさごはん」がかわいい尊い

  • 2023年1月27日
  • Walkerplus

漫画家の清水アイ先生がWebメディア「MATOGROSSO(マトグロッソ)」で連載する「ねこまたとあさごはん」は、妻に先立たれた「とーちゃん」と、猫又になった妻の飼い猫「ニイ」、残された2人の物語だ。病気で妻を亡くし、生きる気力を失って呆然としていたとーちゃんの前に現れたのは、ぐうう〜〜っと空腹にお腹を鳴らす巨大になった妻の飼い猫ニイだった。

とーちゃんとニイのほのぼの田舎暮らしにとても癒される。けれどこの作品の魅力はかわいさだけではない。大切な人を失った経験のある読者から、共感したとたくさんのコメントや手紙が届いたという。多くの人の涙を誘い、反響を得た「ねこまたとあさごはん」の制作秘話、物語にこめた思いを清水アイさんに語ってもらった。

■「むのこに」はブロッコリー、「むぬめに」はブルーベリー、じゃあ「とのとの」は?
「むのこに」「むぬめに」「とのとの」、猫又(ねこまた)ニイのしゃべる、ちょっと舌足らずな“ニイ語”は他にもたくさんある。ちなみに「とのとの」はチーズのこと。食いしんぼうのニイらしく、ニイの言葉は食べものの名前が多い。

立ち上がれば人間よりも大きな体で、人間の言葉を話し、おいしそうに何でも食べる。寿命を迎えようとしていたおじいちゃん猫だったニイは、この世界に残るために猫の妖怪、猫又になることにした。とーちゃんが1人きりになってしまわないように。

ニイはとーちゃんのつくったご飯を食べ、とーちゃんと一緒に二足歩行でお散歩に出かける。「おにゃかちいたにょ〜(おなかすいたよ〜)」とご飯の催促もしてくる。夜は一緒のベッドで眠り、朝になれば顔を洗って朝ご飯をつくる。そうして八ヶ岳の麓の美しい自然の中で、とーちゃんとニイはゆっくりと季節を数えていく。失った大切な人の思い出を胸にしまって、ときどき取り出しては大事に愛おしみながら。

■ちょっと不器用なおじさんと猫の組み合わせ、くすっと笑えるギャップを描きたかった
「猫おじさん」という言葉があるくらい、男性と猫は相性がいい。年齢や経験を重ね、どんなに立派な仕事をしていても、猫ちゃんのかわいさの前にはついつい目尻が下がってしまう。かわいいものはかわいい、そう感じる気持ちに性別も年齢も関係ない。

脱サラして田舎暮らしをするとーちゃんこと、朝野宗一郎を主人公にしたのは男性と猫の組み合わせを描きたいと思ったから。生真面目で、てきぱきと仕事をこなすサラリーマン男性のようでいて、実はちょっと不器用なところもあるとーちゃん。そんなおじさんと猫の組み合わせ、くすっと笑えるようなギャップを描きたかったと清水さん。

そして、とーちゃんのよき相棒であるニイは、猫は猫でもなんと猫又。とーちゃんと並んで食卓に座り、とーちゃんと同じメニューをもぐもぐとおいしそうに食べる。猫だけど妖怪だから、タマネギだってケチャップだって平気だ。1人と1匹は、今日も仲良く並んで幸せな朝ご飯を食べる。

もしも猫ちゃんが人間くらい大きなサイズだったら?ぎゅっと抱きしめて、思う存分にもふもふできたら?猫と暮らす人なら一度は想像したことがあるかもしれない。清水さんいわく「ニイを大きな猫又にしたのは自分の願望」とのこと。

とーちゃんとニイが暮らすのは大自然に囲まれた田舎だ。壮大な山々、どこまでも続く広い空、木々を渡る風や、雨上がりの大地の匂い、美しい描写から情景を肌で感じることができる。庭で朝ごはんを食べたり、直売所で新鮮な野菜を買ったり、山菜を採ったりと、都会から移住してきたとーちゃんとニイの毎日を通して、田舎暮らしを擬似体験しているかのようだ。田舎暮らしという設定にしたのには理由がある。清水さん自身が生まれ育った八ヶ岳南麓の自然や、四季を楽しみながらそこに暮らす人たちの日常を描きたかったのだそう。

雑誌の連載のためではなく、自分の好きを詰め込んで自由に漫画を描いてみたい。清水さんのそんな思いから誕生した「ねこまたとあさごはん」。当初は個人のSNSアカウントで発表していたが、あっという間に人気となった。物語に共感してくれた、たくさんのファンから思いのこもったメッセージが届いたという。

■生きていく中での別れ、残された人たちに寄り添える物語を
物語を思いついたきっかけは、病気で祖父を亡くした経験からだったそう。清水さんの活躍をいつも応援してくれ、作品を楽しみにしてくれていた祖父は、清水さんに「ずっと楽しい漫画を描いてね」という言葉を残してくれた。どんなに大好きでも、ずっと一緒にはいられない。生きている限り別れのときはいつか訪れる。痛みを抱えながらどうやって生きていこう、つらく悲しい日々はどこまで続くのだろう。それでも必ず朝はくる。だからこそ、残された人たちに寄り添えるような物語を。そうして生まれたのが「ねこまたとあさごはん」だ。

妻を失ったとーちゃんはすっかり生きる気力を失ってしまう。それでも生きていればお腹はすく。誰かのぬくもりがほしくなる。無邪気にとーちゃんに甘えるニイと、それを受け止めるとーちゃん。今まで料理はあまりしてこなかったとーちゃんが、ニイのために台所に立つ。

妻を失ったとーちゃんと、かーちゃんを失ったニイ、最愛の人を失ったもの同士で一緒に生きていく。かーちゃんの分まで、毎日のささやかな幸せを楽しもう。1人と1匹の、喪失と再生の物語だ。そんな物語のテーマが大切な人を失った読者の心に届いた。喪失から立ち直れずにいた自分と物語を重ね、少しずつ前を向けるようになったという感想を届けてくれる読者もいるそう。

■卵を焼いてみる、ブロッコリーを茹でてみる、そんなところから始まる究極の初心者レシピ!
タイトルに「ごはん」の文字が入っている通り、料理もこの作品のテーマの1つだ。けれど、「ねこまたとあさごはん」は他の料理漫画とは少し違う。料理初心者なとーちゃんが作るご飯は、トースト、目玉焼き、焼いたウインナー、切っただけのトマトとキュウリなど、決して手の込んだものではない。作品に登場するのは、手をかけずに自分でも作れそうなメニューばかりだ。「男性が一人暮らしになったらここから始めるのかな」そんなメニューを考えていると、清水さんは言う。

オムレツがきれいに焼けなかったり、シチューのニンジンがまだ硬かったり、とーちゃんは料理に挑戦しながら失敗もする。生クリームを泡立てたこともなければ、ブロッコリーの茹で方だってわからない。初心者こそのあるあるは、むしろ普段料理をしない人のハードルを下げてくれる。ちょっとやってみようかな、そんなふうに思えるメニューを目指しているのだそうだ。

そんな清水さん自身も普段はあまり料理には凝らない方だと言う。それでも、近所に旬のブルーベリーが売っていたら買って煮てみる。初めての挑戦にわくわくしたり、ジャムが作れたという達成感や満足感を味わうことができる。できあがったジャムだってちゃんとおいしい。そういった経験がもとになっているそう。ちょっとずつ積み重ねていく小さな幸せを、作品では丁寧に描いている。これからも、とーちゃんの料理の腕がいきなりレベルアップするということはない。一歩一歩、ゆっくりと成長していく姿を見守ってほしい。

■残された1人と1匹の、世界はこれからも少しずつ広がっていく
田舎暮らしのコミュニティはどうしても顔見知りが多くなる。妻を亡くしてふさぎこんでいたとーちゃんが、お腹をすかせたニイのために外にでかけていく。そこで出合う景色、出会う人々、出合う物語。これから先、とーちゃんとニイの世界は少しずつ広がっていく。現在発売されている単行本1巻では、すでにご近所さんが登場している。大きくて、立って歩いて、おしゃべりもする猫又に出会った地元の人々は、みんなどんな反応をしめすのか。びっくりする?怖がる?正解はぜひ、単行本やSNSでチェックしよう。

変わらず続く毎日、ずっと一緒にいること、あたりまえだと思っていたことが、本当はいつか終わってしまうということ。誰もが知っているはずなのに、忙しい毎日の中でつい、忘れてしまいがちだ。天気がいい、卵が上手に割れた、きれいな花が咲いていた、ふと見つけた日々の小さな幸せを大切にしてほしい。そう、清水さんは話してくれた。「ねこまたとあさごはん」はそんな思いが込められた1人と1匹のやさしい物語だ。



取材協力:清水アイ(@aiai_shim)

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