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コーヒーで旅する日本/東海編|おいしいコーヒーをきっかけに、人が集える寺にしたい。「カフェ茶房 宗休」

  • 2023年2月1日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第7回は、岐阜県関市にある「カフェ茶房 宗休」。店主の佐橋和馬さんは「人が集える場所にしたい」という住職の思いに共感し、奥様の由華さんと一緒に2021年11月から境内の一角でカフェを営んでいる。夫婦でカフェ巡りをして知ったコーヒーのおいしさ。会社員生活に終止符を打ち、「やりたいことに挑戦してみよう」と通ったコーヒー教室。そこで初めて知ったコーヒーの多様性。そして関善光寺の住職と出会い、「カフェ茶房 宗休」の店主に。「店を始めた当初はまだまだ素人だったと思いますが、コーヒーは知れば知るほどおもしろいです。生産国によって異なる個性もそうですが、同じ豆でも抽出器具によって違いが出るところも奥が深い。この楽しさを知ってもらえるような店にしたい」とやりがいを感じている佐橋さん。2人の生活は、コーヒーを中心に動き始めた。

Profile|佐橋和馬(さはし・かずま)
1988(昭和63)年、岐阜県可児市生まれ。会社員時代の忙しい日々に体調を崩し、やりたいことに挑戦すべく「カフェ・アダチ」(岐阜県関市)のコーヒー教室に参加。由華さんは2020年にコーヒーインストラクター検定2級を取得するなど、夫婦でカフェ開業を目指す。コーヒー教室の主催者である小森さんの紹介を受けて、2021年に「カフェ茶房 宗休」の二代目店主となった。

■寺の境内にあるコーヒー専門店
山の稜線を望むのどかな自然に囲まれ、刃物、鵜飼といった歴史と産業が息づく岐阜県関市。日本唯一のマンジ戒壇巡りや岐阜県最大の木像仏である本尊・丈六阿弥陀如来で知られる名刹「関善光寺」の境内にカフェが誕生したのは2018年のことだった。「人が集える寺にしたい」という住職の思いにより、物置として使われていた建物をリノベーション。1日1組限定の宿坊を備える「カフェ茶房 宗休」としてスタートを切った。

「カフェでは和風のランチやスイーツを中心に提供していましたが、前のオーナーさんが辞めることになり、2021年11月に私たち夫婦が店を引き継ぎました。始めるにあたって『自分たちができることを精一杯やろう』と決め、ランチをやめて、好きだったコーヒーとスイーツを提供する店にリニューアルしています」と話すのは、二代目店主の佐橋さん。

コーヒーは、同じ関市内にある自家焙煎珈琲店「カフェ・アダチ」が手がけるオリジナルブレンドを柱にブラッシュアップ。スイーツは、由華さんがコーヒーの味に合うよう試行錯誤して完成させたキャロットケーキを目玉に据えた。

■思った通りの味を表現する技術を学ぶ
佐橋さんは、店を始める前、12年にわたり会社勤めをしていた。「当時からコーヒーは夫婦共通の趣味で、よく2人でカフェ巡りをしていました。今から4、5年くらい前に犬山城下町にある『珈琲ボタン』で自家焙煎のコーヒーを飲み、そのおいしさに感動。やがて、『いつかは夫婦でカフェをやってみたい』と夢を抱くようになりました。そして、日々の忙しさから体調を崩したことをきっかけに『このまま働くことが自分に向いているのか。自分が本当にやりたいことは何だろう?』という思いが湧きあがり、好きだったコーヒーをちゃんと学んでみようと決心。『カフェ・アダチ』のコーヒー教室に参加したのです」

カフェ開業を目標にしながらコーヒーについての理解を深め、コーヒー教室で身に着けた"豆に寄り添う"抽出方法を実践する佐橋さん。すっきりとした味わいを目指す時はサッと、コクと香りを引き出したい時はじっくりと、豆の様子を見ながら抽出していく。

佐橋さんがコーヒー教室で学ぶ一方、由華さんはコーヒーインストラクター検定2級に挑戦し、今まで感覚に頼るところが大きかった抽出についての知識を修めた。「お湯の温度や時間で味がどのように変わっていくのかを知り、味の提案や淹れ方のアドバイスもできるようになりました」と由華さん。夫婦揃って同じ目標を見据え、少しずつ準備を始めていた。

そんな折、コーヒー教室を主催する「カフェ・アダチ」の小森さんから「カフェ茶房 宗休」が後継者を探していることを聞いた佐橋さんは、夫婦で話し合って店を引き継ぐことに決めた。それから約1年間の準備を経て、新しい「カフェ茶房 宗休」が始動した。

■コーヒーを楽しんでもらうための工夫
新生「カフェ茶房 宗休」を営むうえで、佐橋さんには「コーヒーを楽しんでもらいたい」という気持ちがあった。「私はもともと、どちらかといえば甘さのあるコーヒーが好きだったのですが、『珈琲ボタン』で飲んだ一杯をきっかけに、苦味のある深煎りコーヒーが大好きになりました。そして、酸味のあるコーヒーは苦手だったのですが、いろいろなコーヒーを飲んでいくうちに、酸味の中に潜むフルーティーな味わいもいいな、と思うようになりました。コーヒーはいろいろな国で生産されていて、それぞれ個性のある味がおもしろいです。『コーヒー』とひとくくりにはできない、それぞれが全然違うということを知ってほしいですね」と佐橋さん。

とはいえ、生産国や農園名をメニュー名にしても、コーヒー好きにしか伝わらない。直観的にわかりやすく味わいを伝えるために、ブレンド名は「すっきり」「まろやか」「コクと香り」とした。このうち、「すっきり」はオープン当初から提供している店の基本ブレンド。「ブラジル、キリマンジャロ、メキシコから成るこのブレンドは、後味のすっきり感をイメージした焙煎になっています。そこで、基本よりも挽き目を少し細かくして、豆の量を減らしています。飲んだ時に少し苦味を感じますが、軽やかな余韻があり、すっきりとした飲み心地に。オープン当初からの常連さんには『同じ豆なの?味が大分変わったね』と驚かれます」と、抽出技術による味のコントロールにも気を抜かない。

さらに、2022年夏からはカリタの水出し器を導入し、水出しアイスコーヒーをスタート。秋からはシングルオリジンのランナップを見直し、月替わりで登場する「今月の珈琲」を追加。さまざまな観点からコーヒーの多様性を伝えられるように工夫を凝らしている。

■古き良き日本の姿がここに在る
「店を訪れる人の7~8割が、Instagramを見て足を運んでくれているそうです。小さい子供を連れたママさんも多く、時には赤ちゃんの声が聞こえますよ」と佐橋さん。古来、集落には寺社が作られ、地域住民の集会所としての役割を担ってきた歴史がある。近所のお年寄りが集まって話に花を咲かせ、子供たちが元気に駆け回る光景は、かつての寺では普遍的だったのだろう。高度経済成長、核家族化、地方の過疎化などにより寺社に人が集まることがめっきりなくなった時代を経て、今また境内に子供の笑い声が響き、幅広い年代の人々が集まりコーヒー談義を繰り広げている事実に胸が熱くなる。

「会社員時代はせわしない日々を過ごしていましたが、今はこうして1杯ずつゆっくりとコーヒーを淹れる時間が楽しいです。コーヒーをきっかけに、寺に活気が戻ってきたこともうれしいですね。これからも、コーヒーの楽しさを知ってもらえるような店で在り続けたいと思います」

■佐橋さんレコメンドのコーヒーショップは「珈琲ボタン」
「愛知県犬山市にある『珈琲ボタン』は、私たち夫婦がカフェ開業を目指すきっかけとなった店です。昔はコーヒーの味によっては少し苦手に思うこともあったのですが、こちらの自家焙煎コーヒーを初めて飲んだ時、素直に『おいしい!』と感動できました。それからというもの『カフェをやるなら、こういう店にしたいね』と2人でよく話し合ってきました。私たちの原点であり、目標であり、大好きな店です」(佐橋さん)

【カフェ茶房 宗休のコーヒーデータ】
●焙煎機/なし
●抽出/ハンドドリップ(CAFECフラワードリッパー)、ウォータードリップ(カリタ水出し器)
●焙煎度合い/中煎り~深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム650円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二

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