【介護のピンチ、解決します!】自宅にいるのに「帰りたい」という要望。どう対応できる?

  • 2025年5月10日
  • レタスクラブニュース
「うちはここでしょ」と説得しても通じないんですよねぇ
「うちはここでしょ」と説得しても通じないんですよねぇ / (C)稲葉 耕太(くろまめさん)



予約のとれない介護施設『くろまめさん』をご存知ですか?
「介護×田舎暮らし」をコンセプトに、高齢者が昔ながらの生活を取り戻し、心身ともに健やかに過ごせる環境を提供しているとして注目を集めるデイサービスなんです。

そんなくろまめさんを運営する稲葉耕太さんが、介護で起こるさまざまな困りごと、大ピンチの対処法を紹介。稲葉さんの提案する「めっちゃ笑える介護!」を参考に、介護のピンチを解決していってみませんか?

家にいるのに「帰りたい」

「うちはここでしょ」と説得しても通じないんですよねぇ

自宅にいるのに「うちに帰りたい」と言われて戸惑う――。これもまた介護をしている人なら一度は直面する事態でしょう。「うちはここでしょ」と、いくら理屈で説明をしてもわかってもらえない……。くろまめさんにもそういう方がいます。

太一さん(84歳)の口癖は「家に帰りたい」。くろまめさんにいるときだけじゃなく、自宅にいるときもしきりにそう言ってはリュックに荷物を詰め込みます。

ご家族は、太一さんが外へ出ようとするのを引き留めますが、そうされればされるほど太一さんは興奮して「帰りたい!」と訴えます。あるときなど、ひとりで出かけて迷子になり、交番で保護してもらったことも。

そこである日、太一さんが「家に帰りたい」と言い出したとき、僕は「じゃあ一緒に帰りましょうか」と共にくろまめさんを出ました。すると太一さんは自宅方向ではない道を、すたすた歩きはじめました。

足腰の丈夫な太一さんは僕よりも速いくらいのペースで、くろまめさん周辺の農道を、しっかりとした歩みで進んでいきます。僕は黙って彼についていきました。太一さんの頭の中には今、どんな思いがあるんだろうなあと考えながら。

30分ほど歩き続けると、前方に喫茶店が見えてきたので、「お茶でも飲みませんか?」と太一さんに声をかけました。僕たちはアイスコーヒーをゆっくり飲んで休憩してから、「そろそろうちに帰りましょうか」と太一さんに促すと、彼はすっきりとした顔つきで、
 「うん。帰ろう」
そして僕たちは来たときよりものんびりとした歩調で、くろまめさんに帰りました。

それ以来、太一さんが「うちに帰りたい」と言い出したら、スタッフの誰かが太一さんと一緒に散歩をするようになりました。

■ピンチを分解
「うちに帰りたい」というのは「どこかへ行きたい」という気持ちのあらわれなのだと思います。太一さんの場合は、自宅やくろまめさんの中にずっといることにストレスが溜まって、その思いを「帰りたい」という言葉で表現していたのではないかな、と。ただ、本人の意識の中でそれが「外出」という言葉と結びついていなかった。

もし今度お年寄りから「帰りたい」と言われたら、「コンビニに行かない?」とか「ちょっとお茶でも飲みに行かない?」と口実を作って散歩に誘ってみてください。しばらく外を歩くと、ふしぎと落ち着く場合も多いです。もしも相手がひとりで歩きたい様子だったら、少し離れて、後ろからついていくのがいいでしょう。「ここが家だから!」とガチンコでぶつからず、しょうがないなとやり過ごすことも大切です。

※本記事に掲載されている情報は2025年4月時点のものです。掲載の内容には細心の注意を払っておりますが、万が一本記事の内容で不測の事故等が起こった場合、著者、出版社はその責を負いかねますことをご了承ください。

【著者プロフィール】
稲葉 耕太(くろまめさん)
1983年生まれ、京都府出身。株式会社ひだまり介護代表取締役。京都府船井郡京丹波町で介護施設『くろまめさん』(デイサービス)を運営。「介護×田舎暮らし」をコンセプトに、高齢者が昔ながらの生活を取り戻し、心身ともに健やかに過ごせる環境を提供している。介護技術を教える『介護の寺子屋くろまめさん』も開講、年16回ほどある講座はすぐに予約が埋まる。また、くろまめさんに通うおばあちゃんの料理と田舎ピザを提供する『おピザはん』を運営するなど、地域と介護をつなげる活動もしている。

※本記事は稲葉耕太(くろまめさん) 著の書籍『介護の大ピンチ解決します』から一部抜粋・編集しました。

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