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コーヒーで旅する日本/関西編|コーヒー・ピクニック・アンティークのトライアングルで、穏やかな憩いと暮らしの楽しみを提案。「WIFE&HUSBAND」

  • 2022年12月13日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第43回は、京都市北区の「WIFE&HUSBAND」。その名の通り、店主の吉田恭一さん、幾未さん夫妻が開いたロースタリーカフェだ。2015年に創業して以来、2人の感性が行きわたった空間と染み渡るようなコーヒーの味わい、賀茂川でカフェタイムを楽しめるピクニックセットなど、洗練されたユニークな提案でファンを広げてきた。2018年には、焙煎所兼アンティークショップの「Roastery DAUGHTER/Gallery SON」もオープン。コーヒーとピクニック、アンティークの三位一体で、穏やかなくつろぎの時間と、暮らしの楽しみを届けている。

Profile|吉田恭一(よしだ・きょういち)
1972(昭和47)年、兵庫県加古川市生まれ。関西のファッションビルで紅茶専門店の店長を10年務めた後、ビルの館長として運営に携わり、雑貨や化粧品ブランドの開発・営業なども経験。退社後、結婚を経て、2015年、京都市北区にカフェ「WIFE&HUSBAND」を創業。2018年に下京区に、焙煎所&ギャラリー「Roastery DAUGHTER/Gallery SON」をオープン。
※「吉田恭一」の吉の部首の上部分は「士」ではなく、下が長い「土」が正式表記

Profile|吉田幾未(よしだ・いくみ)
1979(昭和54)年、京都府亀岡市生まれ。幼い頃から雑貨屋に憧れ、雑貨店併設のティーサロンでアルバイトを経て、正スタッフとして勤務。結婚を機に退社後、恭一さんと共に「WIFE&HUSBAND」をオープン。
※「吉田幾未」の吉の部首の上部分は「士」ではなく、下が長い「土」が正式表記

■“いつか自分のお店を”。2人の夢が1つになった理想の空間
扉一枚へだてて、まるで別の世界へと誘われる。日常のなかで起こる、そんな体験は、喫茶店やカフェに惹かれる理由の一つだろう。その意味では、ここ「WIFE&HUSBAND」での体験の密度は、群を抜いて濃密だ。店内に一歩、踏み入ると、レトロな古道具やアンティークの食器、生活雑貨の数々…床から壁、テーブル、天井に至るまで彩る空間は、ふと目線を変えるだけで発見があり、やがてその世界観に身を委ねる心地よさが湧いてくる。

「元々は住まいとして探しあてた場所。長らく空き家でしたが、年季を重ねた佇まいを見て、2人とも“ここだ”と確信できる存在感がありました」と、店主の吉田さん夫妻。2人にとって、建物はもちろん、店内で見えるもの、触れるものすべては、ここにある意味を持つもの。2人の感性が、すみずみまで行き届いているからこその、他にない“体験”は、開店以来、多くの人を魅了してやまない。

いつか、自分の店を持ちたい。互いに共通する思いを持ち続け、形にできたのは、開業に至るまでの得難い経験が土台になっている。以前は、関西のファッションビルに勤めていた恭一さんは、テナント内の紅茶専門店で10年にわたって運営に携わったのを皮切りに、新たな雑貨ブランドの開発、ギャラリーの運営などを経て、最終的にはビルの館長も務めた。「紅茶専門店ではサービスや販売はもちろん、毎日の抽出やテイスティングで、嗜好品に対する味覚の判断基準ができました。その後の仕事を通して、アンティークの良さを知ることができましたし、プロダクトの企画・制作なども携わったのも貴重な経験でした。振り返ると、この時に実践してきたことが、今につながっていますし、何より、店をすることの楽しさを実感できたのは大きいですね」と振り返る。一方の幾未さんも、幼い頃から雑貨屋さんになる夢を持ち、雑貨店併設のティーサロンでアルバイトを始め、そのまま正スタッフに。以降、雑貨はもちろん、カフェの仕事にも面白みを見出していった。結婚を経て、2人の目指すものは一つに合わさり、この場所に出合ったことで、目に見える形になった。

それにしても。長らく紅茶専門店にいた恭一さんだが、店の顏に据えたのは自家焙煎のコーヒー。少々、意外にも思えるが、「店を続けるにあたって、オリジナリティのあるものを提案することが大切と考えていて。コーヒーは、原料の生豆を自分の手で加工できるのが大きな魅力。味作りに独自の個性が出せますし、少量から焙煎できるので、鮮度がコントロールしやすいのも理由の一つ」。さらに言えば、自身が大のコーヒー好きであり、開店を考える以前から、自宅でも手焙煎をしていたほど。それも、幾未さんと交際を始めた最初の日に2人で焙煎をしたというから、「WIFE&HUSBAND」のストーリーは、この時から始まっていたのかもしれない。

■店の中で、青空の下で、趣向を変えたカフェタイムを提案
紅茶とコーヒー、一見、対極にあるようにも見えるが、根は同じ嗜好品。湯で抽出するというプロセスも共通している。それゆえ、長年、紅茶の世界で培った経験は、コーヒーにも存分に生かされている。「求めるのは、深煎りでも透明感のある味わいで、体に染み渡るような感覚。嗜好品ならではの醍醐味を大事にして、日常をリセットするような一杯に」と、理想の味を追求し、試飲を繰り返し、コーヒーの風味を捉える感覚に磨きをかけてきた。とはいえ、最初は抽出方法の違いに戸惑ったという。

「紅茶は抽出する過程で味を確かめつつ、完成までを“線”で捉えられたのですが、コーヒーは完成までが一続き。淹れきった後の“点”で捉えるしかない。途中で止められないことに、なかなか慣れなくて、当初は味のばらつきも多かったですね。初めは円錐型のドリッパーを使っていましたが、手の動きに左右されやすく、最後に湯の味が残ってしまっていたんです」。そこで、行き着いたのがメリタのドリッパー。滴下がゆっくりで、注湯がしやすいのが、恭一さんの感覚にピタリとはまった。

そこから、さらに工夫を重ねた抽出法は、豆を蒸らした後、途切れることなく湯を注ぎ続ける独特のスタイルに。「間隔をあけて湯を落とすのではなく、注ぎ続ける湯量をコントロールして、最初に豆の成分を出し切らずに飽和したまま引っ張り続けるイメージ」と恭一さん。看板ブレンドであるDAUGHTERは、深煎りのコクのある香味を引き出しながら、透き通るような余韻はあくまで軽やか。じんわり広がる清々しい温もりが、大らかに憩いの時間を満たしていく。家でくつろぐ間隔で飲んでもらいたいと、カップは気取らず大きめのマグで。幾未さん曰く、「たっぷり入ったコーヒーを飲んだ後は、お風呂に浸かった時に思わず“プハーッ”って言いたくなる感じに近い」とは、まさに言いえて妙だ。

実は、ここでコーヒーを楽しむのは、店内に限らない。メニューの中には、ピクニックバスケットが用意されていて、すぐ近くの賀茂川べりへおでかけできるのも、開店前から2人が温めていた提案の一つ。気候のいい日は、魔法瓶に入れたコーヒーにラスク、マグが詰まったピクニックセットを手に、出かけるのも一興だ。「実際に、僕たちもよく出かけていて、店をするなら川の近くでしたいと思ってました。外でコーヒーを飲むと気持ちがいいんです。しかも、紙カップでなくちゃんとした食器や設えで飲むと、いっそう贅沢に感じられます」。ピクニックに限らず、インテリアやメニュー、使うアイテム一つに至るまで、2人が実感を持って勧めていることが、ここにしかない体験を生み出す所以だ。

■新しい拠点の誕生で、理想のトライアングルが実現
「まずコーヒー店として重きを置いていますが、そこにピクニック、アンティークを加えた、三位一体を表現したかった」という恭一さん。当初はカフェで雑貨の販売はしていなかったが、店で使う道具を求める声が増えたのがきっかけで、1年くらいして雑貨の販売も始めた。とはいえ、小さい店ではスペースに限りがあり、しばらくするとコーヒーの焙煎も追いつかなくなってきた。「もっと多くのお客さんにコーヒーを届けたい」との思いから、焙煎所となる新たな拠点を求めて、京都中を探し始めて1年。遠く郊外まで足を伸ばしていたが、灯台下暗し。出合いは意外にも近いところにあった。京都駅のほど近く、偶然目に留まった古いビルに巡り合ったのが縁で、2018年に「Roastery DAUGHTER/Gallery SON」が誕生した。

店内は1階がロースタリー、2階がアンティークショップの2フロア。通りからも見える1階の窓際には、新たに導入した10キロの焙煎機が鎮座する。機体は一気に10倍にサイズアップしたが、「入れ替えた最初は苦労しましたが、とにかく使い込むことで新しいメソッドを確立していきました。今思えば、最初に使っていたハマ珈琲の1キロ焙煎機は、アナログ度の高い焙煎機だったため、毎回同じにするのが難しいのが逆に良かった。操作の違いによる味の変化から、ビギナーとして焙煎の仕組みを理解しやすかったことが、今も役立っています」と恭一さん。店頭に並ぶ豆は、ブレンドが3種とシングルオリジンが5種。見た目からは、すべて深煎りの豆に思わるが、恭一さんの捉え方はちょっと違うようだ。

「焙煎度に当てはめると深煎りになりますが、自分がおいしいと思うポイントで煎り止めたところが深煎りだった、という方が合ってますね。飲んだ時の染み渡る感覚を一番に考えて、冷めてもおいしいというのがうちの基準。酸が出てくると、飲みにくさが出てくるけど、深く焼きすぎるとコクが重くなるので、“深煎りの入口”のイメージ1点にフォーカスして焙煎しています」。それでも、お客が求める味とのギャップがほとんどないというから、それだけこの店の味が定番として支持されている証だ。「自分は作るより飲むことからコーヒーに関わって、遡る感じで抽出、焙煎ときました。焙煎の技術を上げるためにも、希少な豆よりむしろ実績があり、収穫が安定している豆を求めていて。同じ豆を繰り返し焼くことで練度が上がると思うので」と現在、シングルオリジンの豆は、徐々に年間契約での仕入れにシフトしているところだ。

■“妻と夫”、“娘と息子”、家族が揃って始まる新たなストーリー
一方で、この間に新たな定番ブレンド・SONが登場したのに続き、期間限定販売から定番化したデカフェのブレンド・MOTHER、さらには月替わりで季節のブレンドも提案。より質の高いコーヒー体験を作りだすことに腐心してきた。その上で、今後はさらにコーヒーを楽しむ人の裾野を広げたいという。「焙煎量を増やすとともに、コーヒーを飲めない方や苦手な方、まったくコーヒーとの接点がない層へのアプローチに取り組んでいきたい」と恭一さん。質を高めながら裾野を広げる。新しい試みとして、今年6月に初めて熊本のイベントに参加。「今はスタッフも増えたので、出張カフェの機会が多くなるかもしれないですね」

ただ、少しずつ新たな試みを重ねつつも、開業以来の芯の部分は揺らぐことはない。「今後、お店を増やすことは今のところ考えてないですし、お客さんにずっと親しまれる“定番”を届けていければ。ここにきたら、必ずあの味がある、という安心感を持ってもらえるような場所であり続けたい。常に質を追求しているのは、そのため。自分たちがおじいちゃん、おばあちゃんになっても、この店を続けたいと思っているので、目先のことだけでなく、いかに息長くやっていけるかを大事にしています」

創業時にはなかった、コーヒーの焙煎所とアンティークショップが加わったことで、ようやく2人が思い描く理想の店の三角形が出来上がった。「だから、本店・支店というよりは、2軒を合わせて1つの店の形ができたという感覚ですね」。娘と息子を育てながら店を切り盛りしてきた2人にとって、我が子と成長を共にしてきた店への感慨はひとしおだろう。店の名を並べてみれば、WIFE&HUSBANDにDAUGHTER、SON。吉田さん一家と同じ、4人家族が揃ったこの店の新章を楽しみにしたい。

■吉田さんレコメンドのコーヒーショップは「資珈琲」
次回、紹介するのは、京都市北区の「資(たすく)珈琲」。
「私たちの北大路のお店からすぐご近所に、1年ほど前にできた新しいカフェです。店主の河合さんの人柄がそのままお店になったような、オープンな雰囲気がとても居心地のいいお店で、すでに地域の皆さんに愛されている存在に。今では、ランニングの後や、ちょっとできた時間に、ふらりと立ち寄るのが日課のようになっています」(吉田さん)

【WIFE&HUSBANDのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル 10キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(メリタ)
●焙煎度合い/深煎り
●テイクアウト/ なし
●豆の販売/ブレンド4種、シングルオリジン5種、200グラム1600円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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