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コーヒーで旅する日本/九州編|独特な空気感と叙情的という言葉が似合うコーヒー。「Rainyday’s Coffee」

  • 2022年12月12日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第55回は、大分市大道町にある「Rainyday’s Coffee」。人通りは決して多くない駅裏の住宅地にあり、建物は昭和を思わせるノスタルジックなたたずまいが印象的。店の前には「OPEN」と書かれた小さな看板だけが飾られ、どんな店なのか知らないと、ドアを開けるのにはなかなか勇気がいりそうだ。店内に入ると漂うコーヒーの香りと、陽光があまり入らない重厚な雰囲気が昔ながらの純喫茶を思わせる。「強いインパクトではなく、あえて個性を主張しすぎないコーヒーが目指すところ」と話す店主の近藤一輝さん。トレンドに左右されることなく、自身のポリシーを貫く「Rainyday’s Coffee」の魅力を探る。

Profile|近藤一輝(こんどう・かずき)
1989(平成元)年、長崎県上五島生まれ。大学進学を機に大分県に移り住む。学生時代に経験したイタリアンレストランのアルバイトをきっかけに接客のおもしろさに開眼。調理も経験したが、純粋にお客さんと過ごす時間が自分にはしっくりくると、バリスタを志す。大分におけるスペシャルティコーヒーの先駆け、タウトナコーヒーで5年強働き、独立。2019(令和元)年9月に「Rainyday’s Coffee」をオープン。

■たおやかに、穏やかに
「Rainyday’s Coffee」の店主、近藤一輝さんは独特な世界観を持った人だ。まず屋号に“雨の日”と付けているのがどこか繊細なイメージを抱かせた。店を訪れてみると、JR大分駅からも徒歩圏内の立地ではあるものの、幹線道路から一本裏手に入ったマンションやアパートが建ち並ぶ住宅街にひっそりと店を構える。看板も控えめに、目立つことはなく、外観から近藤さんのゆかしい人柄がうかがえるというものだ。

上五島で生まれ育った近藤さんはクリスチャン。社会貢献や奉仕という精神が自然と根付いていたからか、サービス業である接客に魅了された。「大学生の時に経験したイタリアンレストランでのアルバイトが飲食の入口です。ホールでお客さまと接することが自分の考える“奉仕”を表現できるのではないかと直感的に思いました」と近藤さん。「Rainyday’s Coffee」の店内には多くの書籍が並んでいるように近藤さんは読書家。理論的にというより、感覚を大切に物事を考えるタイプであることも現在に繋がっていると感じた。

■コーヒーならではの接客
レストランで働いたことを機に飲食の道に入った近藤さんが、料理人ではなく、なぜバリスタの道を選んだのか。
「コーヒーショップはほかの接客業と比べてお客さまに気軽にご利用いただけるものであるのに、その割に充実感は大きく、生活に寄り添えるサービスだと私は思うんです。以前、イタリアを10日間ほど旅行した時に、現地のバールにも行ったんですが、客である私に対してバールマンはすごくさっぱりとしていましたが、それが気持ちの良い対応に感じました。コーヒーを通したコミュニケーションが成り立っていて、言葉を交わさなくても関係性を築くことができる。スピード感や一貫性からもレストランのサービスとの違いを感じ、『自分にハマるサービスの形の理想な気がするな』と思いました」と話す近藤さん。

そういった思いから、調理場で働いていたもののバリスタに転向することを志し、大分のスペシャルティコーヒーのパイオニアとして知られる、タウトナコーヒーの門を叩いたのが、近藤さんのバリスタの第一歩となった。

■「おっ」と思わせず、スッと飲める味わいを
5年強勤めたタウトナコーヒーではバリスタとしてコーヒーを淹れる日々を送った。2号店の店長を任されるまでになり、自然とベクトルは自分の店を持つ方に向いたそうだ。

「Rainyday’s Coffee」がオープンしたのは2019(令和元)年9月。開業当初から自家焙煎に着手し、コーヒーに自家製スイーツという、いわゆる王道の喫茶スタイルでスタート。イタリアンレストランの厨房で働いた経験があったことで、スイーツを作る基礎はあったものの、お店を始めて独学で身につけた部分も大きい。コーヒーの焙煎も然りだ。「コーヒーの入口がタウトナコーヒーさんだったこともあり、当店で取り扱う豆も自然とスペシャルティコーヒーを選んでいましたね。スペシャルティコーヒーは味わいのクオリティが高いですし、欠点豆も少なくて扱いやすい」

一方で焙煎機は開業当時、大分で導入している店舗はなかったDIEDRICHを採用した近藤さん。「私が考える理想のコーヒーは甘さを軸に、フレーバーや酸味などほかの要素が優しく寄り添う味わい。それを引き出したいと考え、DIEDRICHの焙煎機を選びました。コーヒーの産地、豆の品種はそれぞれで、さらに精製処理方法などで特徴的なフレーバーを引き出すのが昨今の主流のように思いますが、私はどちらかというと、お客さまに飲んだ瞬間に『おっ』と思わせない味わいを作りたいんです。コーヒーを一口飲んだ時に何かしら作業をしているとしたら手を止めさせない、お話しているのであればそれを遮らない。難しく考えさせないというんでしょうか。スッと飲んで、強い印象を与えないまま、ただ『おいしかった』と思っていただけて、後々思い返していただけるような余韻の生まれる焙煎、抽出を心がけています」

強烈なインパクトではなく、さりげなく日々に寄り添うようなコーヒー。ついついキャラクターを主張しがちなコーヒー業界において、近藤さんは「あえて個性を主張しすぎないスタイルでいたい」と続ける。これもまた「Rainyday’s Coffee」らしさだろう。

「雨音に安らぎを覚える、雨の日が好き」。近藤さんが「Rainyday’s Coffee」に込めた思いはこの一言に凝縮している気がする。「雨の日って億劫に感じることもあるでしょうが、雨がないと人間も植物も生きていけませんよね。そんな感覚で普段は気にしていないけど、ふとあの店のコーヒーが飲みたいな、と思っていただけるような存在でいたいと思っていて。当たり前に毎日を過ごしている中で、たまに不思議と行きたくなるような。すごく抽象的ですけど、お客さまにとって、そんな存在でいられたら」と近藤さん。

そんな話を聞くにつれ、雨の日に一人、本を片手に「Rainyday’s Coffee」で過ごす情景が浮かんでくるのは、近藤さんが穏やかな空気感を醸し出しているからだろうか。

■近藤さんレコメンドのコーヒーショップは「タウトナコーヒー」
「『タウトナコーヒー』は私のコーヒーの入口で、オーナーの山下さんは師匠のような存在です。最初にコーヒーを勉強した店がここで良かったなと思っています。山下さんは機械に強く、今も焙煎機のメンテナンスなどを手伝ってもらうことも。なんでも相談できる先輩ですね」(近藤さん)

【Rainyday’s Coffeeのコーヒーデータ】
●焙煎機/DIEDRICH IR-1 1キロ
●抽出/ハンドドリップ(CAFEC フラワードリッパー)、エスプレッソマシン(Nuova Simonelli Appia Life V 1Gr)
●焙煎度合い/中煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム670円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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