サイト内
ウェブ

コーヒーで旅する日本/九州編|コーヒーもスイーツも、そして料理も。すべて妥協せずに“おいしい”を目指す。「BON POINT BLEU」

  • 2022年11月21日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第52回は、福岡市高砂にある「BON POINT BLEU(ボン ポワン ブルー)」。一見するとスイーツが主体のカフェの印象を受けるが、コーヒーへのこだわりも相当強い。オーナーの丹後雅弥さんは、京都本店を筆頭に東京などにも店舗を展開するコーヒーの名店・小川珈琲で約8年半にわたり腕を磨いた、確かな技術を持つバリスタ。一方で飲食の世界に飛び込んだ入口はパティシエだったこともあり、専門店顔負けのスイーツも評判を集めている。そして、ともに働くスタッフは料理人。コーヒー、スイーツ、ランチの3本柱で、さまざまな利用シーンを生み出す注目すべき一店。すべてに情熱を傾けるのには、丹後さんのある思いがあった。

Profile|丹後雅弥(たんご・まさみ)
1989(平成元)年、福岡県那珂川町(現・那珂川市)生まれ。高校卒業後、大阪の製菓の専門学校に進み、卒業後は京都のパティスリーに就職。およそ2年半働いた後、コーヒーの世界への興味から京都の小川珈琲の門を叩く。当初はカジュアルなスタイルのセルフサービスの店舗に配属されたが、コーヒーについての知識を深めたいと小川珈琲を選んだこともあり、独自にエスプレッソマシン、ハンドドリップの抽出の技術を磨く努力を続ける。競技会への出場権を獲得するための社内予選に参加し、日々の努力が認められ念願の本店勤務に。その後、バリスタとして店に立ちながら、ハンドドリップ、ラテアートなど各種競技会にも積極的に挑戦。最後の2年半は製菓部門のスーシェフとして従事し、スイーツ作りを主に担当。30歳で退職後、2020(令和2)年3月に「BON POINT BLEU」をオープン。

■料理やケーキはおいしいのに、コーヒーはなぜ?
昔から食べることが大好きだったという丹後雅弥さん。中学、高校時代から両親に連れられ、福岡のいわゆる名店と呼ばれるパティスリーやレストランで、おいしいものとの出合いを重ねてきた。その時に感じたのが「ケーキや料理はすごくおいしいのに、一緒に出てくるコーヒーがあまりおいしくないのはなぜ?」という素朴な疑問。

これは確かに往々にしてあることで、両方おいしければもっと良いのに、と感じたことがある人はきっと多いはずだ。丹後さんはそんな体験から、“スイーツも料理も、コーヒーもおいしい店”が自身が理想とするカフェだと実感。迷わず、高校卒業後は飲食の世界を目指した。

■今できる100%で未来を切り拓く
大阪の製菓の専門学校を1年で卒業し、19歳そこそこでパティスリーで働き始めた丹後さん。まずはおいしいケーキを作る技術を磨くために、パティシエの仕事を現場で学ぶ日々。2年半ほど勤め、次にコーヒーの知識・技術を身につけたいと選んだのが、当時、京都に多くの店舗を展開していた小川珈琲。今も東京にフラッグシップショップを設けるなど、日本を代表するコーヒーショップの一つだ。

丹後さんは「コーヒーやドリンクのことを勉強するなら、多くの人に愛されているお店が良いと考え、小川珈琲の門を叩きました。最初は人員の関係もあり、セルフサービスの店舗に配属となりましたが、そこにもエスプレッソマシンはあったし、YouTubeや書籍を参考に、自分なりにラテアートを練習したり、ペーパードリップの仕組みを理解するために勉強を重ねました」と当時を振り返る。結果、小川珈琲で技術を競う社内予選でその頑張りが認められ、念願だった本店勤務の機会を得た。

そんな話を聞いて感じるのが、丹後さんは自身が置かれた状況で、できることを自ら模索する人だということ。受動的ではなく、常に能動的なのだ。そんな性格もあって、ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップやジャパン ラテアート チャンピオンシップといった競技会にも積極的に挑戦。ハンドドリップ、ラテアートともにファイナリストに選ばれるまで、技術・知識を高めてきた。

トータル8年半ほど小川珈琲に在籍した丹後さん。最後の2年半はパティシエとしての経験を買われ、製菓部門に配属された。一度はコーヒーからは少し距離を置く形となったが、丹後さんはこの配属替えを機にいよいよ独立を現実的なものとして考え始める。10代後半から理想としていた“スイーツもコーヒーも、そして料理も、すべてに対して高い質にこだわる店”の実現だ。

■多彩な引き出しが増やしたリピーター
18歳から関西で暮らしたが、福岡は丹後さんの故郷だ。独立開業に際し、そのまま関西、はたまた上京するかなど、悩んだそうだが、最も理想的な形で店づくりができそうな福岡を選んだ。

「福岡は地元ではあるのですが、高校生までしかいなかったですし、やや郊外の那珂川町に住んでいたこともあり、正直、福岡市街の土地勘はほぼなく…。友人・知人も関西に多くいましたし、ホームというよりアウェイ感の方が強かったですね。しかも、開業してすぐにコロナ禍の影響を受け、正直どうなることか…と不安も多少ありました」と丹後さんは話す。

ただ偶然にも「BON POINT BLEU」が店を構える高砂エリアは、話題を集めるコーヒーショップが点在していたことから、カフェ巡りをする人たちが多かった。「BON POINT BLEU」もその選択肢の一つになり、一度同店を訪れて、その後、何度も足繁く通ってくれる常連が徐々に増えた。

何度も足を運びたくなる理由は、味わいのクオリティ、雰囲気の良さもあるが、いろいろなシーンで利用できるというのが間違いなく大きいだろう。コーヒーやドリンク片手にちょっと打ち合わせ、ランチをいただいた後にコーヒーでブレイク、ティータイムにスイーツとコーヒーを楽しむ、などなど。もし、これがコーヒーやドリンクのみの店ならば、利用シーンは狭まるかもしれない。そういう意味でも、多彩な引き出しを持っている「BON POINT BLEU」は、コーヒーショップの新しい、かつ理想的なスタイルと言えそうだ。

もともと開業時から、小川珈琲の元同僚が営むロースター・京都珈道の豆を使ってきた「BON POINT BLEU」。その後、福岡で知人の縁で繋がった通山珈琲、さらにはエルサルバドルの生産者と直接取引している京都のCOYOTEからスポットで豆を仕入れるなど、さまざまなロースタリーのコーヒーを提供してきた。一方で2022(令和4)年11月に自家焙煎にも着手した。

丹後さんは「自家焙煎を始めましたが、京都珈道、通山珈琲、COYOTEの豆はこれからも取り扱いを続けます。コーヒーは多様性が魅力の一つで、当店で焙煎した豆に限定するのはお客様にとって有益ではないと僕たちは考えます。ロースタリーによって使っている焙煎機も違えば、焙煎に対する考え方もそれぞれあり、正解は一つじゃない。お客様の好みの味わいをご提案できる選択肢は持ち続けたい」とコーヒーへの思いを語る。

これは丹後さんがコーヒーに対して柔軟な考え方を持っていると感じるメッセージだ。実際に「BON POINT BLEU」で焙煎を行うのは、主に調理を担当しているスタッフの堀内さん。丹後さんはバリスタとしてコーヒーを淹れることに重きを置いているからこそ、このような柔軟な考え方を持ち続けられるのだろう。こんな点もまた一般的なコーヒーショップの流れとは一線を画しており、とてもおもしろい。

最後にこれからの目標を聞いてみた。
「店を営む立場になって、まだまだ3年強の僕が言うのもおこがましいのですが」と前置きをした上で、丹後さんは「飲食業が憧れの職業になるような働き方を目指したい。飲食業というと、時間は不規則、労働時間が長い、賃金があまり良くないなど、ネガティブなイメージを持たれることもあります。ですからできる限り、ともに働くスタッフは社員として雇用し、心豊かに仕事ができる環境を整えていくのが今の目標です」と優しい笑顔で話してくれた。

■丹後さんレコメンドのコーヒーショップは「FAKE IT COFFEE」
「福岡市東比恵と意外な場所にありますが、いつも常連さんで賑わっている『FAKE IT COFFEE』。バリスタ経験豊かな店主・大瀬良さんが営むコーヒースタンドで、焙煎も自家で行っています。大瀬良さんはとんでもない“コミュ力おばけ”で、話し出したら止まりません(笑)。僕はもちろん、当店のスタッフもよく行くお気に入りの一店です」(丹後さん)

【BON POINT BLEUのコーヒーデータ】
●焙煎機/BULLET R1
●抽出/エスプレッソマシン(La Marzocco strada AV-2)
●焙煎度合い/浅煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム830円〜、200グラム1610円




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright (c) 2024 KADOKAWA. All Rights Reserved.