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コーヒーで旅する日本/関西編|普段使いだからこそ質の高い一杯を。コーヒーを起点に多様な人々の日常が交わる「HAKUBI COFFEE」

  • 2022年11月22日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第39回は、大阪府吹田市の「HAKUBI COFFEE」。関西大学のお膝元にあって、2年前のオープン以来、学生のみならず地元の人々や各国の留学生まで、幅広いお客が行き交う界隈の新たな拠り所として支持を得ている。店主・西浦さんは、エスプレッソへの興味が高じて自宅にプロ仕様のマシンを導入したり、開店にあたって焙煎機を自作したりと、旺盛な探求心と行動力の持ち主。自らが感銘を受けたロンドンのカフェカルチャーを体現するべく、焙煎や抽出のクオリティを追求しながらも、「コーヒーはあくまでツールの一つ」と言う所以とは。

Profile|西浦瑛(にしうら・えい)
1994(平成6)年、大阪府豊中市生まれ。10代でチェーン系カフェに勤めたことでコーヒーへの興味を深め、バリスタとして技術を磨く傍ら、自宅にマシンを設置してエスプレッソの抽出に熱中。一時は別の仕事に就きながらコーヒー店での間借り営業を経て、大阪市内のカフェのオープニングスタッフとして開業準備に携わり、店長も経験。コロナ禍でカフェが休業したのを機に独立を決意し、2020年、吹田市に「HAKUBI COFFEE」をオープン。

■イギリスで憧れを抱いた、“カフェのある日常”
関西大学の最寄駅である、阪急千里線関大前駅から線路伝いに歩いて数分。「HAKUBI COFFEE」があるのは、学生街らしい賑やかな界隈でも、人通りの多い交差点の一角。小さなスタンドには、学生から子供連れのママやお年寄り、さらに大学に通う各国の留学生が。一言二言、言葉を交わしながら入れ代わり立ち代わり。土地柄、学生が中心に思えるが、「この辺りは商店街でもあり、実は地元に住む方の方が多いんです」と店主の西浦さん。柔和な人柄に加えて、英語も堪能とあって客層は実に幅広く、開店2年目ながら、まさに街の拠り所として定着しているようだ。

店内ではエスプレッソもドリップコーヒーも提供するが、西浦さんにとってコーヒーの世界への入口となったのはエスプレッソだった。「10代の頃に、エスプレッソメインのカフェで働き始めたのが、コーヒーとの縁の始まり。当時はバリスタが職業として脚光を浴びた頃で、僕もここでラテアートの技術を覚えましたね」。やがて、関心はエスプレッソそのものへと移り、20歳の時には何と、セミオートのエスプレッソマシンとグラインダーをイタリアから個人で直輸入して、自宅に設置するまでに。

「当時で一式30万くらいしましたが、マシンを買ってなかったら、ここまでのめり込むこともなかったと思います」と振り返る。その後、別の仕事に就いても、空いた時間に大阪市内のコーヒー店・田﨑珈琲を手伝ったり、自宅で毎日のようにエスプレッソの抽出したり、コーヒーとの関わりは続いたが、あくまで趣味の範疇だった。それでもコーヒーへの関心はやむことなく、音楽の仕事に興味を持ってイギリスに1年間滞在した際も、毎日のようにカフェ通い。ここで、西浦さんの心境に変化が訪れる。「目的は音楽でしたが、現地のコーヒーカルチャーにも大いに刺激を受けました。日本よりもコーヒーが現地の人々のライフスタイルに組み込まれていて、何気なく立ち寄った店でもお洒落で、メニューのクオリティも高く、バリスタのコミュニケーションも巧みで。日常に溶け込んでいる店の姿が印象に残って、憧れみたいな感覚を抱きました」と振り返る。

■焙煎機を自作してつかんだ味作りの感覚
帰国後、次はオランダに渡るべく、資金を貯めるために再び田﨑珈琲の手伝いに入った西浦さん。しかし、この時は定休日の店を使って、屋号はそのままに独自のメニューに変えて間借り営業をスタート。「今思えば、開業のリハーサルのような感覚で、店を切り盛りする感覚を体感できました。その後、お客さんの紹介で大阪市内のカフェのオープニングスタッフに入ることになって、一から新規開業に携わり、1年ほどエスプレッソの担当や店長まで経験できたのは、開業準備にも活かされましたね」と西浦さん。しかし、折悪く、コロナ禍の到来で、カフェはあえなく休業し、居場所を失うことに。間借り営業やオープニングスタッフで経験を積んだ西浦さんは、ここで地元でコーヒースタンドを開くことを決意。半年後には「HAKUBI COFFEE」をオープンさせた。

当時はすでに日本にもサードウェーブの波が定着し、個性的なロースターが増え始めていた頃。開業にあたって、自家焙煎を始めることを決めていた西浦さん。とはいえ、予算的に余裕がないなかで考えついたのは、なんと焙煎機の自作というアイデアだった。「元々がメカ好きで、焙煎機の構造に興味があったので」と、自ら設計図を起こし、アルミ板を切断・加工。ホームセンターなどで揃えたパーツに、寸胴鍋や漏斗などを代用して組み合わせ、見事、半熱風式の焙煎機を完成させた。

「ただ、アルミ製だったので、高温になるとでボディがものすごく歪んでました(笑)。それでも、焙煎自体はうまくいって、開店から半年ほどは稼働していました。実は焙煎機の自作は思わぬ効果があって、中の構造を理解できたことが大きい。通常、機械で焙煎を始める時は、機械の中は見えないままで感覚に頼ってしまう。でも動作の仕組みや過程が分かっているので、うまく焼けない時も理由が具体的にイメージできたぶん、思ったより早く、自分なりの焙煎のプロセスをつかむことができました」

現在の豆の品揃えは、ブレンドが定番の深煎りと季節替わりの2種。エスプレッソには、定番ブレンドと同配合の中深煎りを使用する。「地元のお客さんは深煎りの嗜好が強いので、定番の豆は深めの焙煎。浅煎りはスポットでいろんなシングルオリジンをお試しで楽しんでもらう感覚です。全体に似た味にならないよう、バラエティを持たすことに気を遣っています」。一方で、中深煎りでも果実味が感じられるコロンビアを、シングルオリジンの定番に据えて、店の個性を打ち出す一つの基準として提案している。

■エスプレッソの抽出方法に注目した独自の提案
西浦さんが長年、追求してきたエスプレッソの抽出には、スイッチ一つで抽出できるポンプ式ではなく、レバー式のマシンを導入。見た目のインパクトもさることながら、レバー式ならではのメリットも考慮した上での選択だ。「ポンプ式は最大9気圧ですがレバーは最大12気圧までかけられるので、豆を細かく挽いてもしっかりコーヒーの旨みを抽出できます。またマシンの故障はポンプが原因になることが多く、レバー式ならそのリスクが減るのも理由の一つ。何より、ポンプ式はボタンを押すだけですが、レバー式は逐一レバーを倒して、戻るまで抽出の様子を見なければならないので、一杯ずつ向き合ってコーヒーを淹れる感覚があります。この仕組みだからこそ、目の前の一杯に集中するようになりましたね」

さらに、同じエスプレッソでも、抽出液の前半部分だけを供するモデルノ、すべてを抽出するイタリアーノと、2種の異なる抽出方法を選べる提案がユニークだ。「モデルノは、リストレットと呼ばれる抽出方法で、抽出の前半に出やすいアロマの広がりと華やかな酸味を楽しめます。イタリアーノは、抽出後半に出る苦味も含めて味のバランスを取った淹れ方。やってみると、思った以上にお客さんの好みが分かれるのが面白いですね」。ブレンドや豆の違いではなく、抽出方法の違いに着目するあたりは、メカ好きの西浦さんならではだ。

■日常の何気ない一杯だからこそ、質の高いコーヒーを
かつては深煎りの豆を使ったエスプレッソをミルクで割る、シアトル系の味が好みだった西浦さんだが、現在は中深煎りで豆の個性と酸味を感じるコーヒーが店の柱に。自ら焙煎も手掛けるようになってからは、味わいに対する意識も大きく変わったという。「豆を仕入れていた時は、細かいところに気が回らず、客観的に考えることをやめてしまう傾向がありました。でも、自分で焙煎を始めると、時に味がブレたりするので、意識して違いを見つけないといけない。その小さな差を感じることの大事さに気付けたのは大きい。今はお客さんの好みに合わせて微調整もできます。店が提供するものの細部まで突き詰めてこそ、お客さんが気持ちよくコーヒーを楽しんでもらえると思っています」

とはいえ、西浦さんにとって、コーヒーは一つのツール。その真意は、ロンドンで経験した、日常にあるカフェの存在が大きく影響している。「コミュニケーションのきっかけだったり、気持ちのスイッチの切り替えだったり、コーヒーは生活の中でさまざまな場面で飲まれるもの。抽出の様子が全て見えるオープンカウンターで、お客さんとの距離を近くしていることも、普段、コーヒーを楽しむ場としての工夫の一つ。店を訪れる理由は会話とか、気分転換とかでもいいんです。普段使いの一杯でも質の高いものをと思っていますが、コーヒーは主役でなく脇役。日常のお供としてより身近に感じてもらうと同時に、コーヒーを起点にして楽しいつながりを広げていきたいですね」

■西浦さんレコメンドのコーヒーショップは「喫茶 路地」
次回、紹介するのは、大阪市北区の「喫茶 路地」。「間借りで営業をしていた店の近所にあって、豆を卸してもらったり、イベントの手伝ったりするなかで、ご縁が深まった一軒。店名通り、細い路地にある古い建物独特のロケーションと、店主の岩金さんの穏やかな雰囲気がとてもマッチしています。直火焙煎のコーヒーも、スモーキーな香りも包み込むような柔らかな風味で、作り手の人柄が伝わる味わいです」(西浦さん)

【HAKUBI COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/Bideli(中国) 2.5キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(フラワードリッパー)、エスプレッソマシン(ACS)
●焙煎度合い/浅煎り~中深煎り
●テイクアウト/ あり(580円~)
●豆の販売/ブレンド2種、シングルオリジン3~4種、100グラム780円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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