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ブームでも知名度に地域差ありの“サウナパンツ” 西日本を中心に広がる独自文化、その境界線はどこ?

  • 2022年12月16日
  • Walkerplus

2019年頃よりじわじわとブームの波が押し寄せている「サウナ」。新施設のオープンやリニューアルのニュースは未だ絶えず、ブームは衰えるところを知らない。

さて、唐突ではあるが、「サウナパンツ」という物をご存知だろうか。

「サウナパンツ?まったく知らない」「存在は知っているけれど見たことはない」「よく行くサウナに常備されているのであるのが当たり前」など、認知度は人によってさまざまであろう。いずれにせよ、サウナパンツについて深く意識することは少ないかもしれない。

サウナパンツとは、主にサウナ施設内で着用するトランクス型のパンツのこと。「サウナ室→水風呂→小休憩」という流れを3回ほど繰り返すのがサウナの入浴法として定着しつつあるが、サウナパンツはサウナ室に入っている間に着用することが多い。また、小休憩(いわゆる“ととのいタイム”)の間に着用することも多い。一般的にスーパー銭湯などには置かれておらず、一部のサウナ専門施設で採用されている物だ。

水風呂に入るときは基本的に脱ぐ必要があるので、サウナパンツは次から次へと交換していくのが一般的。着用する目的としては「裸で過ごすことの羞恥心をやわらげ、じっくりとサウナ浴に専念する」というのが主だろう。「直接座らないことで、サウナ室の衛生を保つ」という施設側にとってのメリットもあるはず。また、施設によっては下着代わりとして、館内着のズボンの下に着用する場合もあるという。

このサウナパンツを初めて採用したのは、カプセルホテルを初めて導入したことでも知られる大阪・ニュージャパングループだと言われている。それゆえに、サウナパンツは西日本のサウナ施設で採用されているケースが圧倒的に多い。一方、関東のサウナ施設でサウナパンツを採用している施設は希少。関東在住のサウナーが西日本のサウナ施設を訪れ、サウナパンツの利用法がわからずドギマギしてしまうというのもよく聞く話だ。

さて、さきほどから大まかに“東”と“西”に分けて話を進めているが、サウナパンツ文化における東西の境目は、具体的にどこなのだろう。独自に検証してみた。

■サウナパンツの境界線ハンティング
サウナ検索サイトの情報を基に、電話などで独自調査を進めると「サウナパンツがある」という回答を得たのは、全国で39施設(2022年12月現在、内1施設は廃止予定と回答)。そのうち関西地方は15施設と圧倒的に多い。サウナパンツ発祥の地とされる大阪府で採用している施設は8軒。サウナ専門施設はもちろん、ホテルにあるサウナ付き大浴場でサウナパンツを採用しているケースも3軒あった。やはり関西にはサウナパンツ文化が根付いているのがわかる。

その影響は、東海地方にも及ぶ。天下分け目の関ヶ原からもほど近い、岐阜県大垣市は市内のいたる所から美しい水が湧き出る“水の都”。その大垣の湧水を湛えた水風呂で全国のサウナーから支持を得ている「大垣サウナ」(岐阜県大垣市)でも、サウナパンツが採用されている。

「大垣サウナ」の林 亨支配人に話をうかがうと、大垣サウナにサウナパンツがある理由については「深く考えたことがない」としながら、「サウナパンツの境界線は名古屋になると思います。かつて名古屋のサウナと言えば、冨士商事(サウナ&カプセル フジなど)、大和観光(現・ウェルビー)、日新観光(ニューグランドなど、現在サウナ事業からは撤退)の3強でした。いずれもサウナパンツがあったので、名古屋のサウナは関西圏の影響を受けているでしょうね」と自身の見解を聞かせてくれた。

実際に“東海地方のサウナの雄”的存在の「ウェルビー」の3店舗(栄、今池、名駅)に加え、後述する「リラクゼーション&スパ アペゼ」(以下、アペゼ)の合計4店舗(いずれも愛知県名古屋市)がサウナパンツを採用しており、それより東の「サウナイーグル」(愛知県知立市)、「メンズサウナプラザ」(愛知県豊田市)、「サウナオーギ」(愛知県豊橋市)では採用していない点を見ると、一応の境界線は「名古屋」と仮定して問題がなさそう。

なお、サウナイーグル、メンズサウナプラザ、サウナオーギは、同じ愛知県でも尾張地方に属する名古屋とは異なり、「三河」と呼ばれる別の地方にある施設だ。

独自の文化圏、経済圏を形成している名古屋であるが、“西日本”“東日本”の分類ではどっち付かずなことが少なくない。しかしサウナパンツに限って言えば、西日本の影響を受けていることは興味深いところである。

「サウナパンツがある or ないの境界線」を名古屋と仮定したうえで地図上に線引きを行う。すると、名古屋の市街地を細かく分断する“日付変更線”のようないびつな線となった。この理由については、後述する“問題”によるところが大きい。

■アペゼにはあるのにサウナフジにはない問題
サウナパンツの境界線を探るうえでぶち当たる、1つ目の問題。同じ冨士商事グループの施設にもかかわらず、アペゼには“あり”、「サウナ&カプセル フジ栄」(愛知県名古屋市。以下、サウナフジ栄)には“ない”のだ。しかもサウナフジ栄は、アペゼより西にある。これは大問題だ。

サウナフジ栄の越智一将副店長に話をうかがうと、「同じグループであっても、方針などはそれぞれの店長に決定権があるので、『最初の方針がそうだった』としか申し上げることができないですね」という回答。

そこで冨士商事のサウナの歴史を紐解くと、男女利用可のアペゼの前身として、名古屋・今池に男性専用の「サウナフジ」(以下、フジ今池)が開業。1970年のことである。

続いて、1997年にサウナフジ栄が開業している。老舗の風格が漂うサウナフジ栄だが、アペゼの前身たるフジ今池と比べると随分新しい。フジ今池の開業当時は「名古屋のサウナにサウナパンツあり」が当たり前の時代だったと推測されるが、サウナフジ栄がオープンした平成初期は地域性に縛られず、施設側に「サウナパンツを置く or 置かない」の選択肢が出てきたのかもしれない。

越智副店長は「サウナパンツの導入で“衛生を保ちやすい”という側面はあると思います」と述べつつも、今のところ導入は考えていない様子。さまざまなサウナ施設への取材を通して判明したことではあるが、着用したまま水風呂に入ってしまうなどのマナー面、洗濯や補充などのコスト面など、サウナパンツを置くことに関してはメリットもある一方で、デメリットもあるのかもしれない。

ただ、「2022年7月のリニューアルで、名物のプールを囲んでととのう“大人の漢の令和モダン”をコンセプトとする空間に生まれ変わりました。そういう意味では、サウナパンツを着用してリラックスされた方が浴場の雰囲気もよくなるかもしれませんね」と添えてくれた。

■三河地方だがサウナピアにはある問題
先ほど「愛知県・三河地方のサウナ施設にサウナパンツはない」と述べたばかりだが、実はイレギュラーが1つある。愛知県豊橋市にある「サウナピア」だ。

こちらにもサウナパンツが、気持ちいいほど整然と積まれている。4代目となる犬飼智久支配人に話をうかがうと、丁寧にも創業者にコンタクトをとってくれた。どうやらサウナピアの創業者が、かつて岐阜県岐阜市にあった「大和サウナ岐阜」(名古屋より西なのでサウナパンツあり)で修行をしたことが影響していることがわかった。

■西麻布のサウナ・アダムアンドイブにもサウナパンツあり
「サウナパンツの境界線は名古屋」「岐阜のサウナの影響を受けたサウナピアが最東端」と結論付けたいところだが、東京にもサウナパンツを備えているサウナ施設がある。サウナ好きならすでにピンときているかもしれない。東京・西麻布に店を構える「サウナ・アダムアンドイブ」(以下、アダムアンドイブ)だ。

サウナパンツを置いている理由についてムン・テッキュ社長に尋ねたが、「先代からずっと置いてあったのを継続したまでで、特に理由はありません」との回答だった。

そこで筆者の仮説をムン社長にぶつけてみた。まず、アダムアンドイブは「オロポ発祥の店」としても知られている点がひっかかる。“オロポ”とは「オロナミンC」と「ポカリスエット」をミックスした、サウナー御用達として今や全国的に広がっているドリンクのことだ。

浴室内の電話で注文すると、浴室内にドリンクを持ってきてくれるサービスが有名なアダムアンドイブ。サウナ上がりにそのまま浴室内でオロポを楽しみながらくつろぐという風習がある同店にとって、サウナパンツは合理的だったという筆者の説。また、西麻布という土地柄もあってか、芸能人も足繁く訪れるというアダムアンドイブ。プライバシーを守るのにも一役買っているのかもしれない。

これらの説に関しても「そこはあまり関係ないんじゃないかな」という回答であり、残念ながらサウナパンツがある理由についての明確な答えは得られなかった。

しかし、アダムアンドイブの場合、しっかり洗い流しさえすれば、サウナパンツを着用したまま水風呂に入るのもOKという独自のルールがあることを教えてくれた。また、着用するかしないかは自由であり、ムン社長自身もサウナに入るときは着用しないのだとか。ちなみに常連客はほとんど着用せず、若い客ほど着用する傾向があることも取材を通してわかった。

アダムアンドイブのほかに関東地方では、「リーガロイヤルホテル東京」の大浴場にもサウナパンツが常備されていることが判明。ホテルを運営しているロイヤルホテルの本社所在地は大阪であるため、その影響である可能性が高い。

また、「ホテルニューオータニ幕張」の会員制スポーツジム内の浴場にもサウナパンツが常備されていることが確認できた。ニューオータニ直営のため、本社は東京都とのこと。問い合わせてみたが、「なぜサウナパンツがあるのかはわかりかねます」とのことだった。ただ、国内屈指の名門ホテルであるニューオータニ。関西方面出身者のニーズにも応えているのではないかと推測する。かなりのイレギュラーである。

■サウナパンツは今後どうなっていくのか
「サウナパンツの境界線」を引くうえで、もう1つ見過ごせないのが、北陸地方の名サウナとして名高い「スパ・アルプス」だ。首都圏や東海、関西地方のサウナとは離れた立地であるが、サウナパンツが常備されている。

倉知 悟マネージャーに問い合わせてみると、「都市型サウナ施設の歴史は大阪から始まっており、当店も長い歴史を持つサウナ施設ですので、創業当時に超繁盛店となっていた大阪の老舗サウナ施設の流れでサウナパンツを設置したということだと思います」とのこと。北陸新幹線開業以前、北陸は関西との結び付きが強い地域であったため、間接的に影響を受けているものと筆者は推測する。

「サウナ室でサウナパンツを履くことが定着すれば、サウナ室内が清潔に保たれることと思います」と述べる倉知マネージャー。一方で「タオルのように安価なものではないため、購入コストがかかります。また、清潔感のための利用となると、何枚でも替えて使える方式をとらないと意味がないので、洗濯のコストや手間もかかっています」とやはり、サウナパンツを設置することに関しては一長一短のようだ。

加えて「当店におけるサウナパンツは、サウナ利用時だけではなく、館内着の下着代わりに着用される方も多いです。サウナは全裸で入り、お風呂上がりにサウナパンツを履いてから館内着を着るという独特な文化ができてしまっています」と、サウナパンツの着用に関する実情も教えてくれた。

さらに調査を進めると、2022年9月にオープンした会員制個室サウナ「精神と時の部屋」(静岡県静岡市)にも、サウナパンツがあることが判明。サウナパンツの境界線はますますファジーになってしまったワケだが、愛知県豊橋市のサウナピアの犬飼支配人はこうも見解を述べていた。

「特に東日本から来られるお客様に多かったのですが、以前はサウナパンツの存在自体をご存知ない方もかなりいらっしゃいました。当店のサウナパンツを手にとって、『これどうやって使うの?』という反応も多かったです。それが昨今のサウナブームで、『サウナパンツというものがあるらしい』という情報は全国へと行き届くようになりました。今後はメリットとデメリットを天秤にかけ、サウナパンツを導入する新しいサウナ施設が地域性に関係なく誕生していくのではないでしょうか」。

サウナの名脇役的なサウナパンツ。サウナブームで脚光を浴び、一気に勢力を東へ伸ばす日も近い!?


取材・文=安田 淳

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