今年は沖縄復帰50周年。さらにNHKの連続テレビ小説「ちむどんどん」も沖縄が舞台のストーリーで、今、沖縄文化に注目が集まっている。そんななか、2022年6月5日に大阪市北区のザ・シンフォニーホールで「沖縄復帰50周年記念 琉球交響楽団 大阪特別公演」が開催された。
琉球交響楽団(以下、琉響)は、沖縄初のプロオーケストラとして2001年に結成。以前、その結成の経緯や活動状況を取り上げた記事を配信したが、創立20周年を迎えた今もなお財政基盤が厳しく、苦しい状況は続いている。
普段は沖縄県内での活動が中心だが、昨年初の県外公演となる東京公演を成功させ、今年は東京、大阪と2つの特別公演に臨んだ。一体どんな演奏を聴かせてくれるのだろうか?実際に足を運び、大阪公演の様子をレポート!
■沖縄初のプロオーケストラが大阪・福島に上陸!
本公演の指揮は大友直人。日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、大阪フィルハーモニー交響楽団専属指揮者、東京交響楽団常任指揮者などを歴任し、琉響の音楽監督も務める。今回は約50人の琉響のメンバーと共に、ザ・シンフォニーホールのステージに立つ。約1700人を収容できるホールはほぼ満席だった。
1曲目はブラームスの「大学祝典序曲 Op.80」。ブラームスが名誉博士号を贈られた返礼として作られた曲で、明るく軽やかな曲だ。約10分の演奏は1曲目とは思えない盛り上がりで、終了後は盛大な拍手が贈られた。
■ピアニスト・清水和音も出演!鳴りやまないアンコールの拍手
2曲目が始まる前、グランドピアノがステージ中央に運ばれてきた。今度は琉響とピアニスト・清水和音の共演で、曲目はチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23」。なじみ深い序奏も、清水の指から生み出される音色は重厚できらびやかに感じる。大友と清水は桐朋学園の先輩後輩にあたり、これまで何度も共演経験がある。それだけに息の合った演奏となった。
演奏終了後はアンコールを求める拍手が続き、清水はそれに応えてラフマニノフの「ヴォカリーズ」をソロで演奏。こちらは先の曲とはうって変わって、哀愁を帯びた繊細な曲。染み入るような音色だった。
■又吉直樹が「沖縄と家族」朗読で会場に笑いが
休憩を挟み、第2部はいよいよ萩森英明(はぎのもりひであき)作曲の「沖縄交響歳時記」の大阪初披露だが、その前にゲストとして又吉直樹が登場。
この日のために書き下ろしたという「沖縄と家族」と題したテキストを朗読した。父が沖縄出身の又吉は、父や祖母、沖縄にまつわるエピソードを笑いを交えつつ披露。ホールは和やかなムードに包まれた。ザ・シンフォニーホール初出演の又吉は「お客さんの笑い声の響き方も違いましたね」と公演終了後、感想を述べた。
■琉球音階と民族楽器を散りばめて沖縄の四季を表現
そして大阪初披露となる「沖縄交響歳時記」の演奏がスタート。第1楽章「新年」は、沖縄の海から初日が昇るような、清々しく雄大な曲想。随所に琉球音階や沖縄の民族楽器など沖縄を感じさせる要素が散りばめられている。それと同時に、クラシック音楽らしい構成で、クラシックと琉球音楽を両立させたオリジナリティの高い交響曲だ。
生命の息吹を感じさせる第2楽章「春」、まばゆい真夏の太陽や青い空を想起させるダイナミックな第3楽章「夏」と続き、沖縄の光や風がホールに満ちるようだ。ところどころに島唄のモチーフが織り込まれた第4楽章「秋」、春への期待を感じさせる第5楽章「冬」と、沖縄の風景が浮かぶようだった。
■カチャーシーを踊るような高揚感に圧倒!
そしてすべての集大成と言えるのが第6楽章「カチャーシー」。カチャーシーとは沖縄民謡に合わせ、両手を上げて、手首を回しながら踊る踊り方。沖縄では、何かうれしいことがあればカチャーシーを踊る。又吉は朗読のなかで、子供の頃に父と一緒に沖縄に帰省した際、親戚の前でカチャーシーを踊ったエピソードを披露している。その時は父よりも踊りがウケたせいか、「調子に乗るな」といさめられたそうだ。
カチャーシーがテーマの第6楽章は、今までの5楽章をすべて受け止めるようなメロディーが印象的。後半に向けて曲は盛り上がり、実際に踊り出しはしないものの、心のなかでカチャーシーを踊っているような気分になる。指揮者の動きですらカチャーシーのようだ。高揚した気分のままフィナーレを迎えた。
客席からは惜しみない拍手が贈られ、出演者はカーテンコールでそれに応えた。又吉は「クラシック公演のカーテンコールに出たのは初めて。ルールを知らなくて緊張しましたね。指揮者の大友直人さんの動きを見ていました」と振り返る。
大阪初披露の「沖縄交響歳時記」は、曲のすばらしさに加え、命を吹き込んだ琉響の情熱や力強さに圧倒された。沖縄にまつわる曲は多数あるが、これは間違いなく沖縄を表現した曲のトップクラスだ。また琉響が来阪してこの曲を演奏してくれることを願ってやまない。
取材・文=鳴川和代