
おにぎりの具材で目や鼻をつけた“顔おにぎり”をはじめ、みそ汁に蕎麦を入れた“みそ汁蕎麦”や、わざわざ「揚げずにからあげ」を使って作った“揚げてしまったからあげ”など、87歳の「おばあ」が作るユニークな料理が大人気の「おばあめし」。
その魅力をさらに伝える、2021年1月にスタートした月イチ連載もいよいよ最終回!そこで、これまでに紹介したメニューを総ざらいし、そのなかから孫の大迫さんにとって特に印象的だったものをピックアップ。一体どのメニューが思い出に残ったのか?
■斬新なビジュアルでも、いつだって味は抜群!
時の流れと共に奇抜さが増していき、“貼り付け系”や“埋め込み系”という新たな領域に到達していた「おばあめし」のおにぎり。そうしたおにぎり群を前に、大迫さんは優しい表情で「過激なおにぎりが出てくると、『どんな味なんだろう?』って、ワクワクしていました」と話す。
「最初の頃の具材はシンプルな焼き鮭でしたからね。それがだんだん様子が変わってきて、ボイルしたホタルイカを貼り付けてみたりリアルすぎる顔にしてみたりと、冗談みたいなおにぎりになっていきました。だけど、どのおにぎりもうまかったですよ。見た目じゃなく、本当は中身で勝負だったんですね」と、当時を懐かしそうに回想する。
■見る者を笑顔にしてきた“顔おにぎり”
学生時代から数えると、ゆうに6000個以上ものおにぎりを食べ続けてきたという大迫さん。真っ先に挙げたのが、今ではおばあめしの代名詞である“顔おにぎり”だ。
「これは外せないでしょう。種類に関係なく、どのタイプもいい顔してるんですよね。『よくこの具材で作ったな』と感心するものもあれば、『リアルすぎて食べるのがもったいないな』というのもありました。これは、おばあが元気になったら最初に作ってほしいおにぎりですね」
そしておばあの好物ということで、たびたび登場した「キムチのおにぎり」も印象深いという。適度に水気を取ったキムチで周囲をぐるりと包んだおにぎりで、ひと口噛めば口いっぱいにニンニクの香りとほど良い辛さが広がったという。
「これは忘れられませんね。これから仕事で人に会う!っていうときに、キムチがいっぱいですからね(笑)。おばあの好物で、よく冷蔵庫にあるものなので登場回数も多かったような気がします。ご飯とキムチってよく合うので、味は完璧です!」
忘れてはいけないのが、おばあの創意工夫の精神。具材をそのまま貼り付けるばかりではなく、おばあなりのクリエイティブ魂を発揮させ、今まで見たことがないおにぎりを作り上げる。
「その急先鋒は、ししゃもを細かくちぎったものを入れたおにぎりでしょうか。おばあならそのまま貼り付けそうなものなんですけど、おそらくししゃもが大きすぎたんでしょうね。荒々しい感じを鮮明に覚えていて、まるで漁師さんが作ったような力強いおにぎりだなと思いました」
奇抜さや驚きばかりではなく、意外と季節性を取り入れたおにぎりも多い。クリスマス当日に登場したのが、カニの缶詰をたっぷり使ったおにぎりだった。
「おばあに『参った!』と言いそうになりました(笑)。確かに年に一度のイベントですが、なんの前触れもなくカニがどっさりでしたから。“度肝を抜かれる”っていうのはああいう状況のときに使うんでしょうね。数の子がいっぱいのときもありましたよ」
また、おばあはもともと料理が得意ということもあり、見た目に徹底してこだわったおにぎりも数多く見られた。どのような職人技でここまでキレイに仕上げることができたのか。プロも顔負けのおにぎりも印象的だったと大迫さん。
「根本的に料理が好きなんだと思うんです。生ハムを美しく巻いたおにぎりを作っていたときはもはや芸術家だなと。あとレイアウトセンスも抜群で、小さなカツ3枚が正確な位置に置かれているものもありましたよ」
大迫さんはこれまでに作ってもらったおにぎりを回想しながら、涙を流していたように見えた。現在おばあは料理をお休み中だが、料理への意欲を見せ始めているんだとか。「近いうちにまたおにぎりが登場すると思うんで、またそのときはSNSで報告させてもらいますね!」と明るく話してくれた。
■“食のマリアージュ”こそ「おばあめし」!
大迫さんいわく、「おばあめし」の真髄は“食のマリアージュ”だそう。本来出合うはずのない食材や調理方法が出合い、一見ケンカしそうに見えても口の中でちゃんと仲良くしてくれる。それが「おばあめし」なんだという。その良い例として挙げてくれたのが、カレーと大根おろしのマリアージュだ。
「『カレーの革命だ!』と思いました。付け合わせなら福神漬けやらっきょうと相場が決まっていますが、佃煮入りの大根おろしですからね。『これはさすがに合わないだろうな』と思ってみたら…うまかったんですよ(笑)。あんなにカレーがあっさりした味わいになるとは、まさにカレー革命が起きた日でした」
そしてマリアージュとは、「足す」ばかりではなく「引く」ことでも生まれる。ある日の食卓に並んでいたのは、マヨネーズがかけられていないポテトサラダだった。
「ポテサラ=マヨネーズというイメージでしたから、弱りましたね(笑)。しかたなくテーブルコショーをかけて口に運んだら、さわやかな辛味がマッチして驚きました。そういう出会い頭の恋のような、素敵な料理も頻繁にありましたね」
そうした数々の料理を食べてきたなかで、大迫さんにとってうれしい思い出として残っているのが、おばあの87歳の誕生日の出来事。大好物のケーキを頬張りながらうれしそうな表情を見せるおばあが忘れられないという。
「おばあの手料理ではないんですけど、スイーツを食べるときの表情が1番良いです。忘れられないですね。今年もまもなく88歳の誕生日を迎えますが、ケーキを食べて元気を出して、また料理を作れるように回復してほしいと思っています」
大迫さんは現在、おばあのために「孫めし」を作り、これまでの恩返しをスタートし始めている。復活後のおばあは、一体どんな料理を作るのだろうか?多くの人々をほっこり笑顔にさせてくれる「おばあめし」。これからも見逃せない!
取材・文=橋本未来