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アインシュタイン-物理学+哲学=は計算できる!? YouTube「ことラボ」が語る言葉の不思議

  • 2022年3月2日
  • Walkerplus

言語をテーマに、言葉の起源や日本語の乱れ、幽霊文字などさまざまな雑学を紹介するYouTubeチャンネル「ことラボ」が人気上昇中だ。誰もが一度は思う「日本語にはどうして一人称がこんなにあるのか」「”ら”抜き言葉は間違い?」といった身近な話題、「単語ベクトル」など一見耳慣れないテーマもあり、思わず人に教えたくなる驚きであふれている。

本配信で解説をしているりょーさんは、言語に関する研究をしている大学院生。2021年6月の開設からまだ約8か月ながら総再生回数300万以上を誇る、いま注目の言語系YouTubeチャンネルだ。「ことばをキャッチーに科学する」彼が繰り出す言葉のおもしろさに触れてみよう。

■単語同士の計算を可能にする「単語ベクトル」とは
単語の意味を数値で表せたらどんなことができるのか、を紹介する動画が「『単語ベクトル』とは何か?」。単語同士の意味がどれだけ似ているのかを、ベクトル用いて表す試みだ。向きがぴったり同じ方向なら“1”、正反対なら“マイナス1”。単語ベクトルを計算するソフトを使うと、例えば「猫」と「犬」は0.878とかなり似ている一方、「猫」と「掃除機」は0.369にとどまり、あまり似ていないということが分かる。

この単語ベクトルを使うと「東京-日本+イギリス=?」「ドラえもん-猫=?」という計算もできてしまうのに驚く。普通の数式と異なるのは、ある単語がどれだけその解答にふさわしいのか(意味に近いのか)を数値で表すので、解答はたった一つではないこと。その中での最高値を正解とするなら、東京-日本+イギリスは「ロンドン」(0.744)、ドラえもん-猫は「デジタル」(0.584)、となる。ちなみに、アインシュタイン-物理学+哲学=の最適解は「ニーチェ」(0.858)になるそうだ。

単語を数値化すれば、「コンピュータ」「パソコン」「PC」などバラバラな表現も似たものと認識できるので、検索やAIの処理などで威力を発揮する。

「言語学というとなんだか文系のにおいがしますが、実は理系的なアプローチもあるんだよ、ということを示す動画です。個人的に文理の垣根を越えるような話は大好きですし、言語を研究している理由でもあります。高校の数学で習うようなベクトルと我々が普段使う言葉がどのように結びつくのか、興味ある人にはぜひ見てほしいです」

■言葉の始まりは「ワンワン」か「エイヤコーラ」か
言語がテーマなんて難しそう…という人にも楽しく、言葉のおもしろさに気づいてもらえるおすすめ動画の一つが「ヒトの言語はどのようにして生まれたのか?」。言語の起源について、動物の鳴き声の延長とする「ワンワン説(Bow-wow theory)」や、労働時の掛け声から派生した「エイヤコーラ説(Yo-he-ho theory)」などさまざまな説を紹介する。

さらに、言葉の階層構造にも注目する。たとえば「赤い魚をくわえた猫」は「赤い魚」「をくわえた」「猫」という要素に分解でき、さらにその「赤い魚」は「赤い」「魚」に分けられる。こんな目に見えない文法ルールに無意識に従って人は意味を理解するのだが、その構造はどこから生まれてきたのか。動画では、例えばはるか昔、異性にアピールする「歌」が複雑化して文法構造に似たものを持つようになったという「さえずり起源論」などを取り上げている。

「言語は、ほかの動物と人間を別つ大きな特徴の一つです。それらしいコミュニケーションをする動物はいますが、人間のようにさまざまな事柄を自由に言葉にしてやりとりする動物はほかにいません。そんな人間特有の言語が、およそ数万年前もの昔、どのようにして生まれたのか?という難問に関する動画。壮大なテーマにあるロマンを感じていただければと思っています」

■日本語の人称代名詞にある、隠れた上下関係の不思議
英語なら「I」だけで済むのに、日本語では「私」「俺」「わし」「わたくし」「僕」「拙者」「朕」…。世界一多いと言われる日本語の人称代名詞について解説しているのが「なぜ日本語の一人称はこんなに多いのか?」。

日本語の人称代名詞は、役割や立場を意識をして使われるのが特徴だという。例えば、先生が「先生も昔はヤンチャしていてね」と語るのは自然だが、生徒が「生徒はおなかが痛いです」と言ったら不自然に聞こえるだろう。ここには、目上の人は自分を表すのに人称代名詞を使うことができるという、目に見えないルールが隠れている。

また共感的同一化という使い方もある。泣いている男の子を前に女性が「僕、どうしたの?」と言った時、その僕とは女性ではなく、相手の男の子自身から見た「僕」のこと。これも、立場の高い人が低い人に向けて使うのが自然で、やはり立場や役割を無意識に頭に入れながら話している一例だという。家族関係や主従関係、相手の立場を思いやる文化が人称代名詞の多さにつながっているのかも、とりょーさんは推測する。

「『日本語』に関するトピックは、視聴者の方にとって身近なこともあってか反応が多いですね。言語のおもしろさの一つに、我々はふだん言葉をなにげなく使っているけど実は意識していないルールがたくさんある、というのがあります。その一例として、本動画では一人称の使用に触れています。まだまだ話したいトピックが日本語にはありますので、今後の動画にもご期待ください」

コメント欄では、動画の内容を受けて「日本語は、一人称の使い分けでキャラクターや出身地などがわかるのがおもしろい」「平仮名、カタカナ、漢字の使い分けで印象も変わる」などそれぞれの考えが披露されている。見ている人同士で意見が盛り上がるのもこの動画の魅力だ。

■「ことラボ」を開設したのは、実は「退屈だったから」
元々塾講師のアルバイトをやっていたりょーさん。人前でしゃべることには抵抗がなく、新型コロナで行動が制限され退屈だった時期というのもあり、YouTubeを始めた。

チャンネル制作にあたり、影響を受けたのは海外のYouTubeチャンネル「Vsauce 」と言う。「科学的な内容を紹介しているチャンネルなのですが、初めて見た時に『こんな専門的なことをこんなにおもしろく伝えられるんだ!』と衝撃を受けました。『ことラボ』の今のスタイルになったきっかけとも言えるチャンネルですね。このことに気づいている視聴者の方もいるみたいですが、『Vsauce』 のパロディ的な演出をよく取り入れています」

幅広い人に言語の魅力を伝えたいという。「日常にあるような身近な疑問やトピックを意識。また『ことば』に関して幅広い話題を扱うようにしています。言語というのは人間活動の根幹ですから、いろんな切り口で語ることができます」

視聴者から多くの反響があることに喜びも。「自分の知らないことを教えてくれるコメントは大変ありがたいですね。例えば、私は『〜とか』となにげなく言ってしまうのですが、本来は『〜とか、〜とか』というように2つ続けて使わないといけない表現だった、ということなど(笑)」

ほかにも「『エイリアンの言語ってどんなの?』という動画のコメント欄で、筒井康隆の『関節話法』という短編小説を紹介してくれた方がいました。実際に読んでみたのですが、これは全身の関節を鳴らすことによって会話する宇宙人の話で、動画の内容にも合っているし内容もかなりおもしろかったです。その回の動画のネタに使いたかったくらいですね」

動画の製作間隔が長いため、もっと早く次作を見たいという要望もあるが「ペースアップも今は考えていません。その分じっくり動画を作ってまいりますので、気づいた時にチェックしてくだされば幸いです。また、動画ページの概要欄には参考文献などありますので、動画の話題に興味を持った方は、ぜひそこから世界を広げてもらえると楽しいと思います」

取材・文=澤田佳代

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