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「もっとおもろく!」吉本新喜劇・川畑泰史の30年。転機は小籔の加入、憧れはチャーリー浜

  • 2021年8月18日
  • Walkerplus

吉本新喜劇の座長・川畑泰史が、1991年の新喜劇入団から30周年を迎えたことを記念して、「川畑泰史 新喜劇生活30周年記念公演」が9月10日(金)になんばグランド花月で開催される。“バタヤン”の愛称で親しまれ、2007年には入団16年目にして座長に就任し、長くお茶の間に笑いを届けてきた。

同公演には、現新喜劇座長の小籔千豊、すっちー、酒井藍のほか、同じく芸能生活30周年を迎えるナインティナインや博多華丸・大吉、星田英利、宮川大輔、矢野・兵動ら同期の豪華メンバーも出演。今回は、新喜劇生活30周年の集大成となる、1日限りの特別な公演にむけて川畑座長にインタビュー。これまでの30年を振り返りながら、新喜劇の魅力についても話を聞いた。

■「どうやったらおもろなるか」と試行錯誤の30年

――新喜劇生活30周年、振り返ってみていかがですか?

「ほんま、あっという間でしたね。NSC(吉本総合芸能学院)を卒業してから、どうしようか迷っていたところ新喜劇に入れてもらったのが30年前。最初は新喜劇だけで食べていけるようになろうと頑張っていて、次はもっといい役ができるように、今度は座長を目指して…といった感じに、高みに登ろうと必死にやってきたら、いつのまにか30年も経ってました」

――立ち止まることなく、がむしゃらに。

「このままやってくと、おもろなくなるんちゃうかなって考えたことはありましたよ。昔、好きでよく行ってたスキーと似ていてですね。ちょっとずつ上手くなるのが楽しくて何回も行くんですけど、『上達してきれいに滑れるようになったら、おもろなくなるんとちゃうか』という不安がよぎることがあって。新喜劇生活でも、座長を目指してみたものの『座長になってしまったら、もうおもろなくなるんじゃないか』って思ったこともありました。それでもなったらなったで、うまいこといかんことがいっぱいある。それを『もっとこうしたら、おもろなるんちゃうか』というのを考えるのが楽しくて、よりよくしたい一心で続けてきました」

「例えば、台本を1か月かけて作っても、完璧やと思える台本ってなかなかできないんですね。月曜日の夜に稽古して、火曜日に本番を迎えないといけないから金曜日には製本して出さんとあかん…という時間の制約がある中で、一番詰めた台本にして持っていく。稽古をしながら色々変えて、ギリギリまで試行錯誤して作っても、いざ本番が終わって緊張感がとれた時におもろいことが浮かんだりするんです。『あぁ、間に合わへんかった…』っていうこともよくあるので、その浮かんだアイデアを次にどう生かそうかまた考える。ある意味で未完成のまま、どうやったらもっとおもろなるか、ええもん作れるかという毎日でしたね、ほんと」

――「もっとよりよく」という想いに果てがないから、完成することはないのですね。

「そうですね。今も試行錯誤の連続です。去年の緊急事態宣言で、舞台が完全に公演ができなくなった時も頭が止まってしまうのが怖くて、毎日何本も映画を観て『これを新喜劇に落とし込むにはどうしたらええもんか』とずっと考えていたり。完成してしまうと、おもろなくなるんちゃうかなと思いながらも、精力的にいろんなことを聞いたり、見たり吸収しながら日々研究しています」

――試行錯誤の毎日の中で、新喜劇の先輩や仲間との出来事で特に印象に残っていることは?

「新喜劇に入ってから数年した頃に、(池乃)めだかさんに話を聞いてもらった時の言葉がずっと残っていて。僕が『あいつ全然、頑張らんのですよ』みたいな愚痴をこぼしたら、『頑張らんやつがおってもええやん。そういうやつがおるから、お前みたいに頑張ってるやつが浮かばれるんとちゃうか?そう思わんとしんどいぞ』と。『みんな頑張ったら、めちゃめちゃ頑張らなあかんやないか。そんなんでいちいち腹立てても仕方ないから、自分は自分で頑張ってたらええ』と言ってくださって。その言葉のおかげで視野が広がったというか、気持ちにゆとりをもってできるようになったので、今でもすごく覚えていますね」

「あとは、いつやったか同期の博多華丸の華丸くんの言葉も残ってますね。博多華丸は福岡吉本の1期生で、月に1回だけ大阪の新喜劇に出てたんですよ。彼は『留学』と言うてましたけど(笑)、その時に飲みながら僕が今度は先輩の愚痴を言うてもうて。そしたら華丸くんが『いろいろ言ってくれる先輩がいるだけありがたいよ。俺らなんか先輩いないから』って。それを聞いて、確かに叱ったりしてくれる先輩がいるだけありがたいなと思えて、気持ちが楽になったこともありました」

■「小籔くんが入って、新喜劇も僕もいい方向に転がり出した」

――新喜劇生活30年の中でも、やはり座長就任は大きなターニングポイントに?

「一番大きいかもしれませんね。正確には、座長に就任する前の小籔(千豊)くんが新喜劇に入った時で、そこから新喜劇も僕もいい方向に転がり出しました。小籔くんは、新喜劇に入る前はビリジアンという漫才コンビで、同じ吉本やから元々知ってはいたんです。同じ沿線の電車やったんで、隣の車両でも見つけたら挨拶をしにきてくれる礼儀正しい子やなってぐらいの印象でした。それがある日、初めて大衆演劇と吉本がコラボしたイベントを新喜劇メンバーと若手漫才師が一緒に出ることになり、そこで初めて小籔くんと一緒になって。何組か出てたんですけど、小籔くんがダントツで新喜劇ぽかったんですよね。ほかの子もおもしろいんですけど、芝居の流れをわかりながらちゃんとネタを入れてきてて、すげえなと」

「そんな小籔くんが新喜劇に入ってくれて、稽古の時とかにも『ここってどうなんですか?』っていろいろ聞いてきてくれるんですね。質問されて初めて、『外から見たら変に感じるんや』『漫才の子らからしたら、そうやって見えるのか』って僕も勉強になって。『ほんならここ、こうしよか』と、ふたりで喋りながらやりたいことを固めていくことが増えたんです。それから質問してもらったり、僕からも『これどう?』って意見を聞いたりしていくうちに、『こんな新喜劇をやりたいですね』って話すようになりました。自分にとっては、この時のことがなにより大きいターニングポイントになってると思いますね」

――共に試行錯誤しながら、小籔さんが2006年、川畑さんは2007年に座長に就任されていますね。

「座長になるきっかけも、今思ったら若気の至で恥ずかしい、とんでもない話なんですよ…(笑)。たまたまプロデューサーの方と飲みに行かせてもらった時に、小籔くんと二人でいろいろネタとかも作っていたこともあり、僕が酔っ払った勢いで『俺らの方がおもろい!』『俺らにもやらせてほしい!』とか言っちゃって。小籔くんは性格的に『まぁまぁ』って止めてくれてたと思うんですけど、プロデューサーが『ほんなら、あらすじだけでも持ってこい!』と。『言うてはみたけど、どうしようか…』ってなって(笑)。でも小籔くんと作ったのがえらい評判良くて。それから『二人で考えてみたら』と言ってもらえるようになって、定期的に公演もやらせてもらえるようになって、二人とも座長に就任することに」

――小籔さんが先になられた時の率直な心境というのは?

「うれしい反面、『なんでやねん!』とも思いましたね(笑)。けど、『川畑みたいにツッコミの方ってどうしても目立たへんし、小籔が先になるかもしれんなぁ』と前から色んな人に言われてたので、そらそうやなと。わかりやすいし、おもろいから。その時、正直なところ『なんやねん』って腐ることもできたんですけど、どう見ても小籔くん自身が座長になれたのにうれしそうじゃなかったんですよ。とことん一緒に座長を目指してきたのに、先輩の僕がなってないから手放しで喜べなかったんですよね。そうなったら自分も早くなって、二人で本気で喜びたいなって思うと、より火がついたのを覚えてます。そこから小籔くんのサポートもあり、座長になることができたので変わらず切磋琢磨したり情報共有しながら、今度は座長として一緒に新喜劇を大きくしていこうと取り組むようになりました」

――川畑さんから見た、新喜劇の魅力はどんなところでしょう?

「子供の頃から数えると50年近く見てることになるんですかね。昔と比べると細かい構成とかお笑いの雰囲気やスピード感なんかは、時代に合わせてすごい変わってるんですけど、社会の中での『新喜劇』のポジションってずっと同じところにあると思うんです。これがすごいところやなと。例えば、子供の頃はずっと見てたけど、高校生ぐらいになったらちょっと離れる時期もあると思うんですね。でもその人たちが結婚して子供ができたりすると、また一緒に見るようになったりする。関西ではそのサイクルがずーっと続いてきたし、『これが新喜劇!』というイメージがどの時代にも変わらずある。世の中の状況が変わったり、出てる人もやってることもめちゃくちゃ変わってても、見てくれてるみなさんの中の新喜劇の位置付けもイメージも変わらないまま、お馴染みに思ってもらえてるというのは、ならではの魅力だと思いますね」

――ずっとある実家のような安心感のような存在でもありますよね。新喜劇ならではの真似したくなるようなギャグや心温まる展開、ベタと意外性の緩急なんかを見て、家族で笑っている時間にホッと落ち着いてる自分がいたり。

「ベタの中に、意外性は必ずいれるようにしてますね。子供の頃の新喜劇は花紀京や岡八郎さん、間寛平さんしか笑かさへんかったのが、今では意外なところで女性が笑いをとる展開もある。ベタなところでいえば、オナラをこいて誰も名乗り出なかったら昔は花紀さんだったり寛平さんやったのが、いまは若い女の子だったりしますから」

「小籔くんがよく言うてるんですけど、新喜劇の教科書みたいなものがあれば、それを出してきて横に置きながら僕たちは今の新喜劇を作ってやらせてもらってる。その教科書をそのまま元の棚に返すのではなくて、そこに1ページ足したり、文言を書き加えてよりよくしながら返していく作業が必要やと思うんですね。今までそうしてきたからこそ、分厚くなり、濃くなってきている。なので50年前と今とでは、ぜんぜん違うものになっていて当然なんです。だけど、そうやってゆったり右肩上がりに教科書を大事に更新してきたからこそ、中身が変わって『新喜劇らしさ』は何十年経っても変わらないまま、同じイメージ、ポジションのままあり続けてこれたんやと思いますね。急に変わったことしたら、『これ新喜劇?』『なんか変わったな』ってなっちゃいますからね」

■ナイナイ、華大ら同期も登場!新喜劇生活の新たな歴史を刻む

――9月10日(金)になんばグランド花月で開催される「新喜劇生活30周年記念公演」は、そうやってこれまで受け継がれ更新し続けてきた、新喜劇の教科書に新たな1ページを刻まれる1日になりそうです。さらに今回は、川畑さんと同期であるナインティナインや博多華丸・大吉なども登場する豪華な顔ぶれに。

「去年は同期みんなの30周年として、仕事先なんかで会うたびに『みんなで周年公演をやろう!』と言うてたんですけど、緊急事態宣言の影響で叶わず。とはいえ、今年は今年で30周年迎える下の世代の子らもいるから同じようにやるわけにもいかなかったところ、会社から『川畑さんが、新喜劇に入って30周年としてやりませんか?』と声をかけていただいて。それで去年集まれなかった同期のメンバーに声をかけたものの、みんな忙しいから難しいと思いきや…なんと全員来れることになって!うれしいけど、ギャラは高額になるなぁ(笑)」

――これまで培われてきた、川畑さんの人望ですね!

「ただただ運が良かっただけです(笑)。このメンバーが、ちょうど本番に間に合うなんて奇跡やと思います。それこそ当日しか来れなくて稽古ができない人もおれば、次の仕事ですぐに出なければいけなかったり。それにテレビでオンエアするタイミングで、裏番組にかぶってしまう時間には出れない人もいたりするので、パズルを組むようにして楽しみながら台本を作ってます。一回こっきりなので、舞台で一体何が起こるのやら…僕自身もすでに楽しみです!何が起こるか分からないからこそ、小籔くんとかすっちー、(酒井)藍ちゃんたち座長のほか、めだかさんたちベテラン勢などお馴染みの新喜劇メンバーも出てくれるのはなにより心強いですね」

――これまで同期の皆さんと、同じ舞台に立たれることは何度かあったのでしょうか?

「岡村くん(ナインティナイン)は今田耕司さんの新喜劇で一緒になったり、特番にゲストで出てくれたりはありますが、他の同期はほとんどなかったんですよ。相方の矢部くんとかも、毎年9月9日にやってた『ナイナイの日』のライブにちょっと出させてもらって絡むぐらいで。宮川大輔とか、ほっしゃん(星田英利)とかも、楽屋で話すぐらいで全然なかったですね。新喜劇のメンバーはお決まりのネタがあるんですけど、同期のみんなはキャラがないからどういう形で登場するのか、そこはお楽しみで!」

――この日が新たなターニングポイントとなって、今度は40周年50周年とさらにパワーアップした公演にも繋がりそうな予感がします。

「次の周年の時に、みんなで新喜劇やろう!となってもおもしろいですね。このイベントをきっかけに、『実はあれが始まりやねん』って言われるような舞台にしたいなと思います」

――最後に、川畑さん個人の今後の展望についてもお聞かせください。

「個人としては、そろそろ座長を退いた後のこともイメージしたいなと思ってます。それこそ『いくつになっても元気やな、助かるわ!』って言われるのがいいんでしょうけど、そんな年取ったらパワーもないし、『今回は外そ』って言われるのも嫌やし(笑)。次の世代の子が座長になっても、『ぜんぜんセリフ覚えてへんけど、出てきてくれたら助かるなぁ』と思われるような存在に。自分の中ではまさにチャーリー浜さんが、イメージしている理想像ですね。後半はセリフを覚えてなかったりするから、事件の台帳を読むふりをする場面ではほんまにセリフを書いておいた紙を読んでたんですけど、たまに先週の紙を持ってきて読んだりするから話が合わへんかったりすることもありましたからね(笑)。それでも、ああだこうだ言われながらも一緒に舞台に立ちたい存在やったので、僕もチャーリーさんみたいにずっと新喜劇に携われたらなと思っています」

取材・文=大西健斗
撮影=北田瑞絵

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