サイト内
ウェブ

ギャルが電子工作でデコる!テクノロジーをストリートに

  • 2021年5月24日
  • Walkerplus

ギャルが電子工作をする時代が来た!光るサンバイザーにアクセサリー、音を奏でるルーズソックスなど、自らハンダゴテを手に取り、ビカビカに輝くファッションやアイテムを制作する電子工作ギャルユニット「ギャル電」。元ポールダンサーのきょうこさんと、大学院生のまおさんの2人からなり、SNSやYouTubeを中心に“ギャルによる、ギャルのためのテクノロジー”を提案し続けている。

最近ではバラエティ番組で紹介され話題を集めたほか、企業とコラボ制作するなど、自由な発想でデコった作品のオリジナリティが注目を集めている。なぜ、彼女たちは電子工作を選んだのか。そもそもなぜ、ギャルカルチャーと掛け合わせたのか。今回はきょうこさんに、電子工作との出会い、ユニット結成後の道のりと今後の野望について聞いた。

■「ギャル×電子工作」で新しいカルチャーのパイオニアに!

――きょうこさんは、元々ポールダンサーをされていたということですが、どういった経緯で「ギャル電」を結成することに?

「ダンサーをしていながらもテクニックや演技が突出していたわけではなかったので、電子工作で派手な仕掛けの衣装を作ってみたのがそもそもの始まりです。電子工作はやったことがなかったけど、光り物が好きだったし、アクセサリーやファッションに取り入れているカルチャーがないなと。実際に作ってみてクラブ等で披露すると、『めっちゃイイね!』と言ってもらえたのですが、一緒に作ってくれる人はなかなかいなくって。どうせなら電子工作に詳しい人より、全然興味なくても“盛れてるもの”に興味がある女の子がいいなと、知り合いに『電子工作やりたいギャルいない?』って聞いて回っていたら、電子工学を学んでいる大学生のまおを紹介してもらい、2016年から2人で『ギャル電』として活動することになりました」

――ということは、まったくの独学で電子工作を始めたのですか?

「そうです。2012年ぐらいから“メイカームーブメント”という、ものづくりのブームがあって。ラジオやオーディオ機器を作ったりする昔ながらの電子工作とは違った流れで、メディアアートだったり、海外のイベントでは趣味で作ったという火を噴くロボットが披露されたり、おもしろいものを作る人たちが出てきてたんですよね。ものづくり自体が好きだったので、後追いする形でブームに乗って電子工作をはじめました」

――電子工作と聞くと難しいイメージですが、火を噴くロボットと聞いて好奇心をくすぐられました。

「私も『すげえ自由じゃん!』って、カルチャーショックでしたね。それと、昔からSFとかサイバーパンクが好きで、身体改造をしているテクノロジーやギャングが出てくる漫画とか小説を読んでいたのも影響していると思います。ウィリアム・ギブスンとか、『AKIRA』や『ブレードランナー』みたいな世界観に憧れていました。どう考えても、そういった作品が生まれた頃から比べると未来に近づいたはずなのに、SF作品みたいにギャングがテクノロジーを使ってねえなと(笑)。ギャングはダメですが、それなら私がテクノロジーの敷居を下げて、『ストリートに対して、参入障壁を下げるか!』ということで始めたところもあります」

――理系の流れに乗りながらも、根っこは文系なんですね。

「将来、文明が崩壊したとして、サイバーパンクみたいな世の中になったら、路地裏でギアを売るばぁさんになりたかったんですよ。『いい義手入ったよ』って、主人公に売ってくる定番のキャラクターいますよね。もしそんなSFの世界が現実になっても、今から電子工作をやっておけば、あのばぁさんになれるだろうと」

――「ストリートに対して、参入障壁を下げる」という意気込みもありましたが、きょうこさん自身がギャルだったからストリートにテクノロジーを持ってきたかったということでしょうか?

「私自身はギャルじゃなくて、思春期もギャルに憧れてるクラスの端っこの方の“非リア充”でした。この髪型が流行っているとか、靴下の丈が短いとか長いとか、クラスのイケてるグループの女の子たちから話をたまに聞くぐらいで。最近は新型コロナでストリートも何もないですけど、昔は『渋谷にはこういう人が集まっている!』みたいな雑誌で知れる文化があって。その街の仲間内で流行っている、アクセスしにくい情報やカルチャーが好きで憧れてました。考えてみると、今ではあんな変なカルチャーないんですよね。特に、90年代のギャルにはパワーがあったんです」

――ギャルの全盛期ですね。きょうこさんの好きな、ストリートなギャルとは?

「今のギャルはというとポジティブで素直で、常識にとらわれない自由な発想を持った、みんなに優しいイメージがあると思います。けど、私の好きなギャルは、90年代の渋谷とか新宿とか縄張り意識のある、コンビニの前にいたら怖い感じのバチバチしたギャル。まつ毛が剥がれたらアロンアロファでさらに盛ったり、メイクは五重に塗っちゃうようなサバイブ感があって、ギラギラしているギャルが好きなんです。けど、そんなかつて一世を風靡したギャルカルチャーも滅びて、多様化したことで昔のようなカリスマ店員たちもいなくなった。怖いギャルの先輩たちがいなくなったので、今こそ憧れていたギャルを始めようと」

――SFの世界観と一緒ですね。文明が滅びた世紀末に、新しい文明が生まれるみたいな。

「脈々と続いてきた文化が途絶えたから、勝手に『私が後継者!』みたいな(笑)。髪型とか靴下の丈の度合いにはセンスがなかったけど、イケてる電飾を作って着飾ることにはセンスがあったのかも。こんなこと誰もやってなかったので、これならパイオニアになれる。『めっちゃブルーオーシャンじゃん!』って、ギャルの新世紀をまおと2人で始めました。けど、あんまりみんなついてこなかったですね(笑)。ギャルサーみたいになればと思ってましたが、諦めて今は2人で世界に受け入れられる『ギャル電』という概念を目指しています」

■素人でもやればできる!ストリート流に電子工作を学ぶ日々

――ギャルサーは実現できなかったとはいえ、結成まもなくしてCMに出演、企業コラボを果たしたり、メディアでも早くから注目されていましたよね。電子工作を始めたばかりでも、自由な発想で作品を作って楽しめることを証明されたと思います。実際に、どうやってスキルを身につけたのですか?

「最初は、マイコンボードに繋げて、プログラミングしてどう光らせるかとか、解説書を読んでも1mmも意味わかんないしガイド通りにやってもまぁ動かない。材料も何を買っていいか分からないので、親切なサイトとか本を読んでみるのですが、難しすぎて1ページごとに『やってられっかよ!』ってブチギレてました(笑)。電子工作をしている人たちに、質問すればすごく丁寧に教えてくれるんですけど、これといった正解は無い世界だから誰も明言をしてくれない。初心者って、『大丈夫だよ』と安心できることを言い切って欲しいもんじゃないですか?だけど、頭のいい人は優しいんですけど、はっきりと言い切らないから煮え切らなかったですね」

――動かない可能性があるし、電気を扱うから事故があっても責任が取れないですからね。

「それに今までギャルが電子工作をすることがなかったので、ギャルの発想に基づいた電子工作なんて調べても出てこない。例えば、彼氏に渡しておいて、会いたい時にウェブ上から信号を送れば振動して気持ちを伝えられる『会いたくて震えるデバイス』とか。仕組みは難しくないんですけど、あまりにもバカバカしい発想なので、誰もどう実装すればいいのかわからないんですよね(笑)。なので、自分たちでネットで専門用語や仕組みを調べて、試行錯誤の繰り返しでした。私は電子工作のスキルがあるというより、検索のスキルが優れているから作れていると思ってます」

――膨大な情報の中から、ただでさえ専門用語などが多い電子工作を完成させるのは確かにすごい。ネット検索のコツなどありますか?

「クラブで初対面の人と話している感覚に近いんですよね。おもしろそうな人と出会って話をしている時、『音楽はなに聞く?』とか、その人が反応しそうなキーワードを拾いながらだんだん狭めて、いちばんおもしろそうな話しが出てくる引き出しを探し当てる、あのテクニックと似てるんです。なので、検索もほぼ会話みたいな感じでやっていて、『プラスチックを束ねるやつ』と文章で検索をかけたり。あまりにもわからない時は、画像検索をかける。そこから似てる画像を見て、名前を知る。それから、どう使うのかを調べたり。ストリートの世界で知らない人と仲良くなるのと同じように、インターネットやテクノロジーと会話しながら仲良くなってきた結果が今に生きてきています」

――最近、調べていてグッと仲良くなれたものはありますか?

「戦国時代の甲冑の仕組みがグッときましたね。『行列のできる法律相談所』で中居正広さんに着ていただく電飾を作らせていただいたんですけど、頭から看板が出ているみたいに、背中で棒を立てる方法がわからなくて。『背中、棒』で検索していたら、戦国時代の甲冑が出てきたんです。そういえば、旗印とかを背中に立てて戦ってるじゃないですか。あれは、背中で棒がブレないように腰と背中にホールドする仕組みがあるんです。なんだこれと思って、さらに調べていくと『がったり』というらしい。その瞬間、『コレコレ!がったりじゃーん!』って歓喜しました(笑)。そうすると、全然興味なかった甲冑にめちゃくちゃ興味が湧いて。自分たちを強く見せるために、兜の上になんか乗せたり、色を変えたり。『盛りたい欲求って、昔から変わらないんだ。武将もギャルじゃん』って新しい発見もありました」

――制作したものはどういったところで披露を?

「今もそうですが、SNSが基本ですね。あとは、やっぱりギャルは現場だろうという気持ちで、結成当初はクラブに光り物を着ていって『電子工作って知ってる?』って聞いて回ったり。その一方で、まおの当時のインターン先が開催していた、ものづくりのコミュニティイベントがあったので、私たちも作品を持ってプレゼンに参加してみたりしていました」

――クラブとプレゼンの両立!?

「『ギャルっぽく、オフショルとか着ていいかな?』とか言いながら派手な格好で参加して、『じゃあ、私たちが作ったIOT(Internet of Things)デバイス発表するよー!』って、偉い人たちの前でプレゼンしてました。怒られるかなと思ったら、結構ウケたんですよ。味をしめて、ピッチイベントにもよく参加してました。渋谷のクラブで聞いた『電子工作を知っているかどうか』のアンケートをグラフで入れてみたり、文章を書くのが嫌なので80pt以上の大きい見出しサイズの文字しかスライドにない、プレゼンなんですけどね。賢い人たちのプレゼンに混じって、急に私たちがプレゼンするとアイスブレイク的にウケるんですよね。それに、みんな賢いから意味を考えてくれるので、フィードバックがたくさんある」

――かしこまったイベントだからこそ、渋谷のギャルの生の意見やデータは新鮮だったわけですね。

「そうなんです。みんな、『渋谷の若者が電子工作をどう思ってるか考えたことがなかった』と楽しんでいただけて。賢い人にとっては私たちの活動は新鮮で、その人たちのノウハウは私たちにとって勉強になることばかりで。『なるほど、これがウィンウィンってやつかよ!』とか言いながら、ギャル流にサバイブしてきました」

■ウケるかどうかが大事。ギャルマインドで、価値観を変える発明を

――ギャルとして電子工作をしていく中で、大事にされていることはなんですか?

「普通はスムーズに動くとか、ちゃんと設計できてるかが大事なんですけど、私たちは目標が違って『ウケる!』かどうかでしかないんですよね。特に私の脳内にいる、90年代の渋谷のギャルが集まってるバーキン(バーガーキング)に持っていって、『何それウケる〜!』って言ってもらえるかどうかがすべてです。

もっと言えば、『それは考えたことなかった!』みたいな新機軸を提示して、『くやしい!ウケる!』っていう、見たことないものを見せたい。あの頃のギャルが、ルーズソックスをどうやってズレないように止めるか、編み出して広めていったみたいに。ちょっと治安の悪い、ストリートでもウケる電子工作をやりたいです。

なので、そんなに完璧さとか、永遠性を求めていないんです。適当にバックにほりこんで持って行って、お披露目した時に動かないとドン引きだから、その1回動けばいい。あとは、酔っ払ってもう一回見せてと言われた時に、もう一回だけ動くぐらいで上等。次会った時には飽きちゃいますから、みんな」

――これまで制作してきた中で、ターニングポイントになった作品はありますか?

「『光る大五郎』はターニングポイントになった発明ですね。4Lの焼酎が入ったペットボトルを光らせただけなんですけど、これはギャルが油性マジックでアイラインを書く発想に近いんです。電子工作を発信している人は、テクニックを上げたり、クオリティを向上させるために、難しいことがわかるようになり複雑なこともできるようになっていく。だけど、私たちみたいにバカバカしいものをバカバカしいまま作ってると、テクニックが単一なので新作も同じに見えるんですよね。なので、ある程度のものが作れるようになると、『光ってるだけじゃん』と思ってしまう。『見た感じはアガるけど、何が楽しいんだろう』って時期がありました。だけど、大五郎を光らせたら、めちゃくちゃ楽しかったんですよね。私の脳内にいるバーキンのギャルたちに、『まじかよ!』ってウケたんです」

――スランプを払拭した発明だったと。

「実際に、SNSでも好きになってくれる人が多くて、どこに持っていってもウケたんです。知り合いのアート系のテクノロジーを作っている人にも、『絶対に褒めたくないけど、あれだけは負けたと思った』と言われたり。知恵がついていくと、自分は何も成し得てないと思えてきます。頭が悪くても、ただ光るだけでも、やっぱり原点はストリートなんで、みんながぶち上がる発明だけをやっていこうと決心がつきました」

――他にも、マインドが変わった作品はありますか?

「まおがつくった、『ルーズソックスシンセサイザー』ですね。まおは元々ギャルとはいえ、平成後半のギャルなので、ルーズソックスは履いたことがないんです。ギャルらしいアイコンを使うのは、あからさまなので抵抗があったんですが、ルーズソックスの伸び縮みで演奏するおもしろさがウケて。これを機に、昔のギャルのファッションやアイテムも作品に取り入れるようになりました」

――ちなみに、最近はどんな作品を?

「パソコンの上に電飾を盛ったのを作ってみました。新型コロナでオンラインの打ち合わせも増えたので、気分が上がるようにデコトラとかガラケーみたいに、ノートパソコンをデコって。気合を入れなければいけない打ち合わせとかは、めっちゃ光らせたりしています(笑)」

――次はどんな作品が生まれてくるのか楽しみです!

「まだまだ、かつてのギャルが持ってたギラギラしたパワーのあるものは作れてないんじゃないかと思っています。最も尊敬しているのが、ヒップホップのパイオニアの1人として知られるグランドマスター・フラッシュ。彼が広めたターンテーブルを楽器にして、“スクラッチ”する技法で音楽シーンが大きく変わったんです。私も価値観がひっくり返るような発明ができているかを常に意識しています。既存のものを組み合わせて、ギャルのマインドとウケるエッセンスを取り入れながら、みんながアガる見たことない新しいものを生み出したいです。

あと、私たちも素人から始めたので、もっとたくさんの人に電子工作を気軽に楽しんでもらえたらうれしいですね。敷居は高く思えるかもしれないけど、やってみると案外なんとかなるし楽しいので。今はネットはもちろん、ホームセンターやドンキなど、どこでも手に入りますから。新型コロナが落ち着いたら、実際にいっしょに作ってみる、電子工作のワークショップもやりたいです!」

取材・文=大西健斗

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright (c) 2024 KADOKAWA. All Rights Reserved.