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コロナ禍で風評被害の「大阪コロナホテル」。逆境でも前向きな理由とは?

  • 2021年3月20日
  • Walkerplus

新型コロナ禍で、予期せぬ被害を受けたホテルといえば、新大阪駅前にある「大阪コロナホテル」ではないだろうか。その名前から、昨今の社会情勢のあおりをモロに受け、悪戦苦闘。「改名したら?」「縁起が悪い!」など心ない風評被害を受け、大打撃を受けた。しかし、公式SNSではポジティブなツイートを発信し続け、たびたび話題になっている。なぜこんなにも明るく前向きなのか?Twitterの中の人に、話を聞いてみた。

■「まさかこんなことに…」創業50年目にして、予期せぬ風評被害
大阪コロナホテルのTwitterの「中の人」として、更新を担当している広報リーダー・藤井康平さん(28)。入社4年目で、当初は貸し会議室の営業担当を行っていたが、2020年1月より藤井さんが自ら申し出て、Twitterの更新を担当することになったとそう。

「会議室の営業を続けているなかで、当ホテルには自慢の朝食や新幹線が間近で見える部屋など、アピールできるところがたくさんあるにも関わらず、しっかりと打ち出せていないもったいなさを感じていました。そこで、昨年の年始の会議で『売り上げの拡大を目指して、SNSの運用をやってみたいと思います!まずは、フォロワー1000人を目指して!』と抱負を発表したところ、『やってみなさい』と快諾されて、あれよあれよと中の人に。個人としては、社内でオンリーワンな立ち位置を模索して、活躍するためのチャレンジでもありました」

大阪コロナホテルのTwitterアカウントは、5年ほど前に開設されていたものの年に数回、催事のアナウンスなどを行う程度で、フォロワーも300人ほど。藤井さんはまず、継続的な更新のために、ホテル内に展示されている数あるブタの置物の紹介からスタートした。

「オーナーが無類のブタ好きということもあって、当ホテルのロゴマークにもブタのアイコンが使われています。(裏付けはないですが)日本で3本の指に入るほどの豚コレクターで、世界中から集めたブタのアイテムがホテルの倉庫には数千点あるんです!館内にも常時、400〜500点展示されているので、まずは『大阪コロナホテル=ブタ』というイメージを持ってもらおうと、紹介ツイートをはじめました。こんなにブタちゃんがたくさんいるホテル、他にはないですからね(笑)」

徐々に、ホテルのSNSなのにブタちゃん推しのツイートを連発…。「なんだこのホテル!」「かわいい!」と少しずつフォロワーも増えていったという。しかし、Twitterを本格的に始動した昨年の1月といえば、新型コロナウイルス感染症が日本国内でも確認され、不穏なムードが立ち込め始めた頃…。

「最初にニュースで見た時、『大丈夫か?』と思いましたね。何かしら影響があるだろうなと。日々、エゴサーチをしていたところ、『縁起が悪いな』とか『予約しちゃった(笑)』みたいな、これまでとはまったく異なる形で大阪コロナホテルの名前があがるようになっていて。ネガティブなイメージの投稿が散見されました」

■SNSでの反響が後押し。今できることを最大限に
創業時からオーナーが変わっているため、大阪コロナホテルの名前の由来は分からないそう。「1970年創業というと、大阪万博の年。会場とほど近い立地ということもあり、太陽に関係する言葉である“コロナ”にポジティブなイメージをもって名付けられたのではないかと思います。あまりにも由来が分からないので、それらしい説を調べながら自分で立ててみた推察ですけど(笑)」と、正直に語ってくれた藤井さん。とはいえ、2020年まさかこのホテル名で大きな風評被害を被ることになるとは、誰も予期していなかった。

「『うちは新型コロナウイルスと関係ありません!』と当たり前のことを言っても届かない。ホテルには無言電話がかかってくるようになり、対応にも困り果てていました。しっかり発信しないと名前がマイナスにしかならないなと思い、1月末に正直な嘆きとして『コロナウイルスが憎い…』と投稿。すると予想外の反響があり(2021年3月時点で7万6000リツイート、21万4000いいね)、たくさんの方に当ホテルのことを知っていただける機会になりました」

この嘆きのツイートが転換期となり、当時のフォロワーは3000人にまで急増。広報の重要度が再認識され、社内で正式に広報部門が新設されることとなった。

「嘆きのツイートを機に、『応援しています!』だったり『行ってみたい!』といった、たくさんの“ぶたたかい(あたたかい)”言葉をお電話やお手紙、SNSのメッセージで寄せていただきました。社内でもどうしたもんかと、後ろ向きな議題ばかりになっていたところにTwitterがいい風を吹かしてくれて。新しいプランを作ってみたり、もっとしっかりとお客様を迎え入れる体制を整えることに集中しないといけない、何かしないといけないよねと、前向きに走っていく起点をつくってくれました」

「絶対に感染者を出さない!」という決意から、対策のため自慢の露天風呂は休止、朝食もビュッフェ形式を取りやめて個別に盛り付けての提供など、どこよりも早期に対応。創業50周年の年ということで、さまざまなイベントやプランを検討していたもののすべて白紙に戻した。

しかし一方で、ホテルだからこそできる24時間体制の荷物預かりサービスをこれまで以上に発信。新大阪駅すぐの好立地ゆえに、列車の音で苦情を寄せられることもあった線路沿いの部屋を逆手にとった、新幹線を間近で見られて撮影できる「撮れインビュープラン」を大きく打ち出してみたり。人が集まる駅で電車を待ちたくない人たちに向け、安心して待機してもらえるよう会議室を格安で提供する「ぴえんぴえんプラン」などユニークなサービスを開始。しっかりと対策をとりながら、今できることに徹していったという。

こういった前のめりなサービス展開やTwitterの反響もあり、旅行に行きにくいムードの影響でホテルの稼働率が1〜2割といわれている中、大阪コロナホテルは3〜4割の稼働率を保つことができた。

「うちから感染者が出てしまったら、もうシャレじゃなくなりますから…。対策は徹底的に行っています。自慢の露天風呂や朝食ビュッフェを休止するなど、苦しい戦いでしたができることを続けて、Twitterも変わらず明るく更新することにつとめました。その甲斐もあって、実際にTwitterを見て『ブタちゃんを見にきました!』とおっしゃってくださる方もおられたり。Twitter上でも普段接客しているなかでは聞くことができない、ご感想や“ぶたたかい言葉”がたくさん見えて、スタッフ一同の励みになりました。

また、フォロワー10万人を超えるインフルエンサーの方が宿泊してくださって、ホテルの魅力と合わせて『縁起悪くも怖くもなかったです。がんばれコロナホテル』とツイートしてくださり、大きな反響もありました。のちにSNS上でお礼を申し上げ、そのままコラボTシャツを制作して販売させていただくことにも。最近では、他のホテル広報の方と励まし合うなど、Twitterをしていなかったらなかった縁がたくさんあり、やりがいにつながっています」

■「投稿を見た人が、少しでも明るい気持ちになってもらえたら」
「GoToトラベル」事業への意見など、時折まっすぐに心中をさらけだしながらも、あくまでも明るく、前向きなツイートを継続。逆風にも負けず、ホテルの広報のイメージを覆す、オンリーワンな発信を続けている。

「サービス業のアカウントは、どうしても固いイメージがあるので、そこの壁を壊したいなという思いはありました。大阪のコテコテな場所で50年やっている老舗ホテルとして、にぎやかに。他にはない打ち出し方をしたかった。なにより私自身、昔から会議の場で急にダジャレを言ったり和ませたりするのが好きな性格が、ツイートにも表れているのかもしれません。ネガティブな投稿が多くなっている時代で、SNSを見ているとつらくなることが多いからこそ、私たちが『こんな名前のホテルでも、前向きにおもしろいことをやっている』という発信を続けて、見た人が少しでも明るい気持ちになってもらえたらという思いで投稿しています」

こうした前向きなツイートは、社内のバックアップもあってこそだと語る。

「現オーナーもスタッフも、ホテルで勤めることが初めての人がほとんどなんです。だからこそ、ホテルらしい固定概念を大事にするよりも、これまでにない新しいサービスやアプローチを積極的に取り入れたり。おもしろいことをやるためのバックアップをしてくれるので、どんどんチャレンジさせていただいています。少し攻めすぎたかなというツイートでも、怒られたことは一度もなく。『君の良さを抑えてしまってはいけないから、好きにやっていいよ』と放任していただけているからこそ、フットワーク軽くツイートできています」

■苦しいのはどこも同じ。旅行全体を楽しいイメージに変えたい
取材時は休止していた、朝食ビュッフェも緊急事態宣言が明けた3月8日より再始動。「朝食は1日の活力、元気の源だからこそ原価度外視でとことん!」という方針のもと、おいしく、喜ばれる朝食をプライドを持って提供している。少しずつ、トンネルを抜けてかつての日常を取り戻そうとしている今、藤井さんがこれからの未来に思うこととは。

「観光業全体が低迷している時代なので、特別当ホテルだけが風評被害を受けたわけではありません。どこも苦しい思いをしているからこそ、うちだけが盛り上がるというのは難しいですし、それじゃいけない。旅行全体を楽しいイメージにするため、なにかできないかと考えています。そのためにも、とにかく明るく。前向きに、楽しい発信をこれからも続けたいと思います」

最後に、今後の展望について語ってくれた。

「当ホテルとしては、去年の50周年に頓挫した、ブタちゃんルームや新幹線ルームといった企画を改めてやり遂げたい。そして、ブタちゃんだけにお客様がブッタまげるプランを、もっともっと打ち出していきたいです。今は『大阪コロナホテル』という名前でメディアに取り上げてもらうことが多いので、奇抜なプランや変なことやって頑張ってると、明るい話題で名前を世に出せたらいいなと。新型コロナウイルス抜きで、明るい話題を出したいというのが、今の目標です。

最近はYouTubeを始めてみたり、業界ではありえない新しいことにどんどんチャレンジしながら、何かのパイオニアになりたいなと思います。入口はアウトローかもしれないですけど、前向きな発信がお客様のため、旅行業全体のため、ホテルのためになると信じて。こんな世の中ですが、皆様を“ぶたたかく”お迎えする用意をたくさんして、お待ちしております」

取材・文=大西健斗

※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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