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「書くことが辛かった」50歳で退社し、文章を書き始めた私が伝えたいこと【堀井美香さんインタビュー】

  • 2024年5月17日
  • レタスクラブニュース


TBSアナウンサーとして28年勤務し、50歳を機にフリーに転身した堀井美香さん。ジェーン・スーさんとの大人気ポッドキャスト「OVER THE SUN」を始め、ナレーション、朗読会やシャンプーのCM出演まで多忙を極めています。50歳というオトナになってからの“第一歩”を綴った初のエッセイ本「一旦、退社。~50歳からの独立日記」(大和書房)を上梓した美香さんに、オトナの新しいチャレンジについてお話を伺いました。

退社発表のタイミングで3社から同時に執筆オファー!


――アナウンサーとして話して伝えることが主なお仕事だったと思うのですが、「書く」ことも得意分野だったのですか。

堀井美香さん(以下、堀井) 長い文章を書く作業は、本当に学生以来したことがなかったんですね。子どもたちの連絡帳にちょっとした文章を書いたりとか、自分で日記をつけたりはしていましたが、それもシステム手帳に3行くらい。

しかも、「こんなことがあった。幸せ」「モヤモヤする」「ありえない!」って書き出してるだけで、どうして幸せなのか、何にモヤモヤしているのかには考えが及ばず、ただ気持ちを書き殴るだけのものでした。長文で何かを考えて書くってことはやってこない25年間だったんだと思います。

ネットニュースで「2022年3月末に退社します」って発表した日から、一気に3社くらいの出版社さんから執筆依頼のお話をいただいて(笑)。それぞれ、「話し方について」とか「生き方について」とかいろんなテーマでご依頼いただきました。

その中で一番やりやすそうな「日記形式でいいですよ」「毎月連載じゃなく、好きなタイミングで月に2本くらい出してください」みたいな企画をくださった大和書房さんにお願いすることに。それが「一旦、退社。~50歳からの独立日記」です。




決まりごとの少ないエッセーは自分なりのスタイルを見つけるまでが試練


――テキスト本と違って、フリースタイルのエッセーを書くのは大変でしたか。

堀井 本当にちゃんと文章を書いたことがないので最初は結構辛かったです(笑)。学校で習ってきた時も文章には起承転結があったり、大学時代の課題を思い出してもすごく細かく参考資料などを調べたり、たくさんの決まりがある中で書いてきたので、自由に書いていいとなると逆に難しいなと思えてしまって。

ワンテーマ書くのに1日、2日かけて書いていたので、さらっと書くって感じではなかったんです。最初の方は締め切りがくると、編集の方にいろんな言い訳メールを送っていましたね(笑)。

そうやって締め切りを伸ばし伸ばしにしながら苦労して書いていたけれど、不思議なもので3ヶ月くらい経った頃からそこまで時間をかけずに書けるようになってきました。多分、「最初にこれを決めちゃおう」「こういう流れにしよう」という書くときの“手癖”みたいなものが自分でわかってきたんだと思います。私ってこういう書き方するんだなって。それに準じて進めることでスムーズに書けるようになりました。

初心者なのであえてその“手癖”を変えようとは思わなかったし、自分なりの書き方の癖がわかってからは、作業時間はかなり短縮されました。


――エッセーを書き上げた今、話すことと書くことに大きな違いみたいなものを感じていますか。

堀井 そこは全然違いますね。ラジオやポッドキャストでしゃべっていても、(編集後の)完全なパッケージとして考えてしゃべっているわけじゃないんです。でも、執筆の場合は筆を持った瞬間、どこからどうやって着地させようとか、完成形を見据えて書かないといけないですよね。このテーマってどうしたらいいんだろうってしばらく考えてからじゃないと難しいです。ジェーン・スーさんと一緒にいるからってなんか書けるって勘違いされるパターンが本当に多くて(笑)。

「いやいや私、本当にエッセイストじゃないんです!」って言いたくなるようなお仕事をよくいただくんですけど、本当に時間がかかるし、究極に言えば私の本業は別にあるので、「書く」お仕事はそのプラスの余白の部分でやることかなと思っています。





オトナのチャレンジは誰にも迷惑かけないから、気軽に一歩を踏み出して


――書くことで、今までと違うスキルは身につけられましたか。

堀井 書くことですごく整理されるのはわかります。自分はこう思っていたんだって意識がもう一回整理できる。本当にボーッと見ていたこと…例えば「悲しそうだな」と一次元の感情で止まっていたものが、なんで悲しいんだろうと文章を書くことで感情を探ることになるし、その感情の周りも色々広げて見ようとします。

それは深く汲み取ろうってする力を働かせなきゃならないので大変なんですが、書くことで今までの見方とは違う、もっと多面的な見方ができるんだなっていうのはすごく実感しますね。

――エッセイは初めてのお仕事でしたが、“初めて”に躊躇されることはあまりないのでしょうか。

堀井 私、喋り方がゆっくりなのでびっくりされちゃうんですが、基本的にせっかちなんです。だから、もう決まったらポンって一歩出ちゃう。広くリサーチして足場を固めてからっていうタイプじゃない。一歩を踏み出すのがすごく早いっていうのは私の特徴の一つとしてあるんです。だから、新しいことをやるのに躊躇するというのがあまりないかもしれません。

でも、失敗したら…とか今更かな…とか躊躇しちゃう人もたくさんいると思うんです。そういう方達に伝えたいのは「誰にも迷惑かからないから大丈夫」ってことですね。

「これをやりたいんですけど」って誰かに話しかけたり、この仕事に応募してみようって行動に移したりしても、人様に迷惑をかけることじゃないじゃないですか。年甲斐もなくとか、変なおばちゃんって思われるだけで、別に誰にも迷惑かけてないし、自分の捉え方だけなので気にしないですね。間違えたり、失敗したりしたら「すみませーん、次行きまーす」って方向転換すればいい。それがスモールビジネスの基本ですから。もし、悩んでいる人がいたらもっと気軽に一歩を踏み出してほしいですね。



▶プロフィール
堀井美香(ほりい・みか)


1972年、秋田県生まれ。ʼ95年TBSにアナウンサーとして入社し、2022年に退社しフリーに。現在は数々の人気番組のナレーションのほか、ジェーン・スーさんとのPodcast番組『OVER THE SUN』が人気を集める。その他朗読会などのイベントも手掛ける。著書に『一旦、 退社。~50歳からの独立日記』(大和書房)など。
2024年8月12日(月)の新日本フィルハーモニー交響楽団「Hello!! シネマミュージックin Summer」にナレーション・司会として出演予定。

取材・文=竹林和奈

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