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Twitterフォロワー64万人『ゲイ風俗のもちぎさん』LGBT、毒親の呪縛からの解放、初恋の恩師との再会…今だから語れること

  • 2020年7月20日
  • レタスクラブニュース



ゲイ風俗業界で出会った人々との交流を綴った『ゲイ風俗のもちぎさん セクシュアリティは人生だ。』が大きな反響を呼び、4月に第二弾となるコミックエッセイ『ゲイ風俗のもちぎさん2 セクシュアリティは人生だ。』を発売したもちぎさん。
7月29日にはKADOKAWAから初の小説本となる『繋渡り』を刊行。SNSフォロワー数が64万人を超え、多くの人からの関心を集め続けるもちぎさんに『ゲイ風俗のもちぎさん2』についてお話をお聞きしました。




■性的マイノリティを取り巻く社会の問題に向き合った『ゲイ風俗のもちぎさん2』





――もちぎさんご自身のことやゲイ風俗ボーイの個人的な悩みについて書かれた1巻に対し、2巻は「アウティング」「性的加害」「カミングアウト」といった、性的マイノリティを取り巻く社会の問題にも切り込んでいく内容でしたね。

LGBTの人たちが直面する問題については以前からしっかり書きたい気持ちがあったんですが、いきなり社会問題風に取り上げて、「LGBTってなんか難しいよね」と思われてしまったら誰も耳を傾けてくれないと思ったんです。だから、まずは1巻でゲイ業界ってどんなところなのかとか、もちぎってどんな奴なのかを知ってもらうことにして、満を持しての今作なんです。

――反響はいかがでしたか?

ありがたいことにたくさんの温かい感想をいただきましたし、中には批判もありました。LGBT当事者にもいろいろな考え方があるので、たとえばカミングアウトの問題ひとつとっても「職場でわざわざゲイだと言う必要はあるか?」なんてのは意見が分かれるところなんです。そういう意味でも、あたいの発信が「全て正しい」というわけじゃ絶対ないけれど、問題意識をみんなで共有できたのはよかったなと思ってます。




――第1話ではゲイ風俗に来たお客さんが、ゲイとして生きるうえでの時代の変化について語るシーンがありました。もちぎさんご自身はどのような変化を感じていますか?

あたいが高校生の頃って、ゲイ同士が出会うのも面倒で気軽にはできなかったんですよ。位置情報サービスもなかったし、ネットで顔を晒すこと自体あまりいい方法では無い時代だった。ゲイとかなら尚更です。メールや掲示板でチマチマと探る感じです。それが今はSNSやゲイアプリが広まって簡単に繋がることができるようになりました。テクノロジーの進化の恩恵を受けて、個人的にはすごく生きやすくなったと感じてます。個人的なセックスありきの関係だけじゃなくて、ゲイ同士が友達として気楽にオープンに繋がることのできる時代になったのも嬉しいです。
それと、社会全体の意識もだいぶ変わってきたと思います。ゲイバーで働いていた時、お客の若い子たちは大学とかで「自分はゲイなんだ」って普通にカミングアウトしてるんですよ。ゲイバーにノンケの友達や女の子を連れてくることもよくあって、すごい時代になったなと。ネット上にも自分をゲイだと明かして活動しているインフルエンサーがたくさんいて、ファンもそれをすんなり受け止めてる。そういうのを見て育った若い世代が「隠すようなことでもないのかな」って思いはじめているのかもしれないですね。

■「(性別)らしさ」ってなんだろう? 多様な性について子どもに伝えるには









――日本の教育現場ではLGBTについて取りあげる機会はほとんどないのが現状です。多様な性について親として子どもに伝えていくにはどうしたらいいと思いますか?

LGBT当事者であっても意見が分かれることや、時代によって変わることもあるので、多様な性について子どもに「教えよう」というのはハードルが高いと思うんです。まずは日常の些細なことから偏見を捨てていくのが近道なんじゃないでしょうか。たとえば「男らしさ、女らしさ」を子どものうちから押し付けないようにする。お母さんが家事をするのは女だからじゃないよとか、男の子が化粧をしてもいいんだよとか、個人を尊重することは、そのままLGBTやジェンダーの問題と地続きになっていると思うんです。

――確かに、子育てをしていると「(性別)らしさ」ってなんだろう?という疑問に直面することはよくあります。ピンクが好きな男の子が友達に「ピンクは女の色だ」とからかわれて嫌いになってしまったなんて話を聞いたことも…。

うちの母親はいつも姉に「女の子らしくしなさい」と言う人でした。姉がショートカットにしただけで「女なのに髪の毛短くしたらダメ!」と激昂するのを、子どもの頃からずっと見て育ちました。
そんなあたいは19歳そこらの時に、トランスジェンダーの友人に対して「女性になったのに髪の毛短いまんまでいいの? 男性で生きてた時には伸ばせなかっただろうし伸ばせばいいのに」って思ったんです。すぐに、「いや違う。髪の毛を長くしなければ女になれないわけじゃない」と考え直したのですが、自分自身にもそういう偏見が無意識に刷り込まれていたことにハッとさせられました。
子どもは親や周りの大人を見て育つので、「(性別)らしさ」の刷り込みをしていないか、意識してあげられるといいですよね。


■母に包丁を向けられても虐待だとは思っていなかった









――母親の優しい眼差しが脳裏をちらついて、包丁を向けられても憎みきることができなかったという話が悲しく印象的でした。そんな母親の呪縛からどうやって逃れることができたのでしょうか。

当時、母親に包丁を向けられても実は虐待とまでは思っていなかったんです。「毒親」なんて言葉もなかった時代ですからね。ただの親子喧嘩の延長くらいにしか捉えてなくて、呪縛なんて意識したことすらありませんでした。
大人になってから当時のことを思い返してみたり、毒親持ちの人と話したりして、「やっぱりあの環境はおかしかったんだな」とはじめて気付くことができたんです。気付いた頃には結果的に生き延びちゃってたので、自分はただ運がいいだけのサバイバーなんですよ。
もし当時から自分の母がいわゆる毒親だと気付いていたら、そのことで心がしんどくなることもあっただろうし、ふらっと家を出るという選択もできなかったかもしれないです。

――前回のインタビューでは、子供時代を奪われたまま大人になってしまった少女のような母親だったとおっしゃっていました。そんなふうに自分の母親のことを客観的に見ることができたのはなぜですか?

ふたつの距離をとったからです。ひとつめは物理的な距離。当時住んでいた団地は、玄関開けたら居間も寝室も丸見えになるような狭い空間で、常に母親が目の前にいる環境だったんです。そこから離れてひとり暮らししたら、「なんで実家では机でご飯を食べちゃあかんかったんやろう」とか、母親のおかしな点を冷静に考えられるようになりました。
ふたつめは心理的な距離。物理的な距離をとったのと同時に「ひどい親でも実の親なんだから孝行すべき」という気持ちをバッサリ捨てたんです。母親のことを客観的に書けるようになったのは、このふたつの距離を何年も離していたからだと思います。

■「作家になりました」と言える今なら会える。初恋の恩師と15年ぶりの再会





――作中で中学時代の恩師で初恋のK先生との再会がありました。なぜ今、会おうと思えたのでしょうか。

先生とは15年以上会っていなくて、もちぎとしての活動も明かしていませんでした。すでに定年したおじいちゃん先生に、自分はゲイであなたのことが好きでしたなんて内容の作品を見せて負担をかけてしまうわけにはいかないから。でも今回、小説を出せることが決まったことで、あたいの人生で避けて通れぬ人として先生に会ってみようと思ったんです。どんな本かは言えなくても、国語の先生である彼に「作家になりました」という報告ができるのなら、今のタイミングで会ってもいいんじゃないかなって。

――久しぶりに連絡して、先生はどんな反応でしたか?

電話で「会えますか?」と聞いたら、「全然行けるよ!」とあっさり約束を取り付けてくれたことが嬉しかったです。小説のゲラ(※校正紙)をちらっと見せたら、「やるやんけ!自分の授業を受けて小説家になるって考えてくれた子は他にいなかったわ!」ってすごく喜んでくれて。先生は15年も経っても自分やクラスメイトのことをはっきり覚えていて、「お前が一番どうなったかわからなくて心配だったわ」と言われました(笑)。

――その時にまた恋心が再熱したり…なんてことは?

それが全然なかったんですよ(笑)。当時は周りにゲイもいなかったし、年上男性への憧れで魅力的に見えてた部分もあるのかな。今となってはゲイ業界にどっぷりはまって目が肥えすぎちゃったみたい(笑)。先生は至って普通のお方でした。 

――最後に今後もちぎさんが発信していきたいことをお聞かせください。

これまで過去の話を書いてきたので、これからは30代になった今のもちぎがどういう生き方をしてるのか、少しずつ発信していけたらいいなと思います。
昔の作家さんって本屋さんくらいでしか名前を見る機会がなかったけど、今はSNSでたくさんのフォロワーさんと直接言葉を交わし合うことができる時代。ツイッターでいつも見てるもちぎの本だから読んでみようと思ってもらえるような、身近な存在として寄り添っていけたら嬉しいですね。

――最後に、「いつかは自分の店のゲイバーを持って、ツイッターのアイコンだけじゃない生のもちぎを出していけたらいいなとも思ってます」と語ってくれました。淡々とした語り口調だけど、いつもそばにいて話を聞いてくれそうな、やわらかな空気を纏うもちぎさん。そんなもちぎさんにこれからも注目していきます!





取材・文=宇都宮薫

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