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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第96回 「対話」フォーラムの手法で考える日本のエネルギー問題

  • 2012年1月12日

特集/災いを転じて・・・(その3) 「対話」フォーラムの手法で考える日本のエネルギー問題

   長期的な温室効果ガス(GHG)大幅削減のためには、科学・政治の役割の重要さとともに、その取り組み主体であり、かつ気候変動のさまざまなリスク/負担と真正面から向き合わなければならない主体である社会の構成員(ステークホルダー、市民)の役割の重要性を強調したい。その強固な意思の存在と、それに基づく行動が重要だ。しかしながら、これまで日本で社会の構成員間での責任ある議論がなされてきただろうか。議論を行う仕組みや場も、ほとんど見当たらない。

 研究開発プロジェクト「政策形成対話の促進 長期的な温室効果ガス(GHG)大幅削減を事例として」(JST・RISTEX)はこのような問題認識に立ち、気候変動科学、環境政策、環境経済、対話方法論等の分野の研究者により立ち上げられた。低炭素社会づくり「対話」フォーラム(以下、対話フォーラム)は、この研究の一環として、2009〜2011年の約2年間にわたって開催してきたステークホルダーダイアログである。

 対話フォーラムは、社会を構成する多様な分野のメンバー(マルチ・ステークホルダー)が情報共有と徹底した議論を通じて、テーマについて熟慮と対話を行い、社会としての意思の形成につなげることのできる場の創出を目指した社会実証研究である。これまでステークホルダーは、属する組織・団体等の内部で意思を固め、政策決定プロセス(多くの場合、行政・官僚機構)に独自のチャンネルを通じて働きかけ、調整・決定を委ねてきた。また、対立する根源の追究は回避し、利害・意見調整の結果へのソフトランディングを期待し、曖昧に処理することが多かったのではないか。これでよいのかとの疑問へのアンチテーゼとしてプロジェクトは開始された。

ステークホルダーとは

 ステークホルダーの直訳は利害関係者だろう。しかし、この対話フォーラムでは、より広義に、扱う問題に対して何らかの接点で深い関わりを有している「問題当事者」を意味している。ステークホルダーは、経済・社会活動を通じてそれぞれ強い利害を持つとともに、豊富な経験に基づく見識と問題解決能力を持った経験的専門知を有する人びとである。また、GHG大幅削減に関する最も先鋭的な意見や、厳しい利害関係や意見の対立関係は、これらのステークホルダー間に存在しているという見方もできる。複雑系の問題であるGHG大幅削減問題には、国民的な大議論と政治決断が必要不可欠である。その議論と決断を、より的確なものとする上において、それぞれの利害・立場に立ったステークホルダーによる徹底議論を通じて得られた討議結果の意味に着目したい。

 対話フォーラムには、環境NPOや消費者団体、労働者団体、農林業、金融業、不動産業、製造業やエネルギー供給業など29名が一堂に会し、科学者・専門家との応答およびステークホルダー同士の対話を行った。会議は合宿も含め18回に及んだ。議論の結果は、公共的意思決定にとって有用な参照情報・判断材料となり、また国民的議論を喚起するものにつながることを想定し、リアリティを持った議論を試みた。会議運営は、上智大学環境政策対話研究センターに置かれた実行委員会事務局が担った。

 会議は、三つの段階に分け、議論すべき課題の設定についてステークホルダーの意志(イニシアチブ)を原則として進めてきた。そこでステークホルダーによって徹底議論すべきテーマとして選定されたのが(2010年3月時点)、「エネルギー供給のあり方:2050年に再生可能エネルギーをどこまで増やすべきか」(電気に焦点)、「低炭素社会に向けたライフスタイルのあるべき姿」の二つのテーマである。奇しくも、3.11を経た現在、わが国で最大の国民的関心事のテーマとなっている。

 対話フォーラムでは、この二つのテーマに関し、単に意見交換を行うのではなく、意見構造の明確化を目指した議論を行った。この「意見構造の明確化」とは、討議課題について議論を尽くし、できる限りの合意を目指すが、ぎりぎりの努力によっても合意し得ない場合には、意見・見解の違いを明らかにすること等により、ステークホルダー間の意見・見解の分布や、一致・不一致の状況を示し、さらにその理由・背景等までをも明確にしていくことである。対立する意見の根源の追究を極力回避して調整結果に頼りがちな日本人にとっては、最も難しいゴールを目指したともいえよう。

目指している対話機能
(作成=ポンプワークショップ)

エネルギー供給を議論

 「エネルギー供給のあり方」の議論の一端を紹介しよう。まず、環境NPOと電力会社の問題提起を皮切りに、ステークホルダーが同じ土俵で議論するための情報基盤の共有化に力を注いだ。具体的には、再生可能エネルギーの導入ポテンシャル、技術の現状や展望、発電種別のコストの現状と将来見通し、政策評価等について、問題に精通する専門家・科学者が丁寧な情報提供・問題提起を行った。これを踏まえ、ステークホルダー全員が「2050年に再生可能エネルギーをどこまで増やすべきか」という命題に対する立場と意見を表明し、「将来の環境リスクを下げる必要性から大幅導入を前提とすべきで、基幹的なエネルギー」とするグループと、「エネルギー供給の低炭素化において、コスト便益の観点から、補完的位置づけにとどまると考えるのが妥当」とするグループ、および「主力エネルギーの一つ」とするグループの三つに分かれた。議論すべき争点は、「コスト」「政策・負担」「産業振興」に絞り込み、ステークホルダー間でのディベート方式による徹底討議を実施した。

電源構成を考える際に考慮する事項の優先順位
(作成=ポンプワークショップ)
 対話フォーラムを終え、現在、結果の集約・評価を行っているが、社会実装に向けての課題や改善点も鮮明になりつつある。さらにわが国にステークホルダーが熟慮と対話を行う「場」を設けることの必要性や意味について、さまざまな主体(政治、行政、経済、NGO等)と意見を交わしていきたい。

 東日本大震災・原発事故以降、エネルギー問題を巡る国民を挙げての議論の必要性を訴えるマスコミの論調が日増しに強まっている。しかしながら、その具体的方法を、わが国は有しているのだろうか? 国会審議中の地球温暖化対策基本法案第33条は、「国は、地球温暖化対策に関する政策形成に民意を反映し……その他広く事業者及び国民の意見を求め、これを考慮して政策形成を行う仕組みの活用を図るものとする」としている(下線筆者)。しかし、その国会審議は一向に進まない。 www.sh-forum.net/


(グローバルネット:2011年7月号より)


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