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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第87回 島の里山・里海再生を核とした「緑のコンビナート」

  • 2011年4月14日

第87回 特集/海と森の共生(その2) 島の里山・里海再生を核とした「緑のコンビナート」 隠岐の島町役場定住対策課長 岡田 清明さん

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 隠岐の島は松江、出雲の北東の日本海に位置する四つの島から形成されています。人口は1万6,000人、島の外周は約251㎞です。森林面積は約2万1,000ha、島の約87%が森林です。一人当たりの森林面積では世界のトップクラスで、島内の林道延長は182㎞あります。林道密度は1haあたり9mで、全国平均5m/ha、県平均3.3m/haを大きく上回ります。こうしたインフラ整備のおかげで木材の搬出は陸路から海路へうまくつながり、本土と比べるとコスト的に非常に優位な地域といえます。

隠岐の里海が抱える問題

 隠岐では気候や土壌条件などからスギやクロマツの森林が多く、住民が林業経営を主体に生計を立てていた時代もありました。しかし今は外材の輸入による木材価格の低迷で、林業従事者の高齢化、後継者不足、里山の管理放棄、切り捨て間伐材など多くの問題があります。また、近年はゲリラ豪雨が日本各地で頻発しており、隠岐の島町でも大雨による土砂災害が発生しています。林地の切り捨て間伐材や林地残材が流失し、二次災害の要因にもなっています。
 隠岐沿岸は島そのものが漁礁で海草の宝庫といわれています。しかし、崩壊した山林とそこからの土砂の流失、漂着ごみによる漁場環境の悪化、地球温暖化の影響による磯焼けなどの問題も忍び寄ってきています。また、魚介類についても、温暖化による海水温上昇で、年により魚が捕れるポイントが違ったり時期がずれたり、漁師の予測の及ばない状況が続き、漁獲高も減少しています。すなわち、里山でも里海でも環境悪化が共通課題となっているのです。

地域資源の里山・里海を利活用

 隠岐の島町ではこうした里山、里海の課題を地域資源と捉え、低炭素社会型の構築を目指した「緑のコンビナート構想」を計画しています(図)。緑のコンビナートとは、里山、里海の未利用資源を活用する施設群のことで、リグノフェノール製造工場、木質バイオマス発電所、木質チップ工場などを位置づけています。都会のコンビナートは公害をもたらすイメージが強いですが、緑のコンビナートは里山の林地残材や里海の漂着海草などを除去することで持続可能な産業をおこし、循環型の低炭素社会を構築するものです。この構築により、島内の雇用が新たに創出され、観光面での交流や人口の拡大にもつながります。とくにエネルギー産業などの見学や、里山・里海をフィールドとしたエコツアーなどは相乗効果があると考えています。
 また、隠岐諸島は2009年11月に日本ジオパークに登録されました。これを機に、ソフト面でジオパークを促進し、ハード面においては緑のコンビナートを構築することで“エコアイランド”を目指そうと思っています。
 次に、隠岐の島町バイオマスタウン構想についてご説明します。地産地消型エネルギーによる低炭素型の循環型社会の構築を目指す構想で、木質資源の利活用による里山の活性化、海洋資源の利活用による里海の活性化などをメインとしています。里山・里海をセットにしたバイオマスタウン構想は、全国初の試みではないかと思います。

「緑のコンビナート」の概要
※クリックすると拡大画像が表示されます。
(作成=ポンプワークショップ)

 この構想では、里山の未利用資源を木質バイオマスとして利用することで里山の再生を図ります。林地残材、未利用資源を活用する施設として、木質を化学処理してオフィスの家具などの原料となるリグノフェノールのプラント、それからパルプ材や燃料用チップ材等を加工する木質チップ製造施設を計画しています。とくに石油代替商品として期待されているリグノフェノールのプラントは収益性が高いので、収益の一部を里山に還元できる仕組みにしています。昨年度は、東京の旭有機材工業が林野庁委託事業として実証プラントを建設しました。この事業は5年間の継続事業で、プラントの運転、リグノフェノールの商品開発を重点的に行います。とくにリグニンの活用については、石油ルートから植物ルートへの新素材として大いに期待しています。

環境産業の離島モデル構築へ

 里海活性化プロジェクトは、隠岐の資源である海中の森に着目し、里海の未利用資源を活用することで漁場環境の保全と里海の再生を目指すものです。山が保全されると海の状態も良くなりますが、海の森を“昔の方法”により直接管理する必要もあります。

 例えば、ノコギリモクという食用にならない海草がありますが、これが密集している場合、伐採すると食用になるアラメやワカメが育ちやすくなります。アラメなどが成長すると刈り取りますが、刈り取った後はまた生えてくるのでこの作業を循環させます。当初、ノコギリモクや海岸への漂着海草からはメタンガスやバイオエタノールを精製しようと検討していました。が、採算性に問題があるため、現在は海藻に含まれている成分を活用して飼料化しようと考えています。また、漁師が伐採したものを20円/kgぐらいで買い取る仕組みができれば、海の資源を保全すると同時に、漁師の副収入にもなるかと考えています。

 今後は、まず高性能機械の導入、木材生産の団地化で林地での作業効率アップを図ります。島の里山・里海の再生を加速させ、最終的には島そのものを二酸化炭素の吸収源にすることを目指します。
 最後に、今年度の取り組みを紹介します。総務省のいわゆる緑の分散改革事業として、島内の木質バイオマスのエネルギー利用と持久力向上のために小型のバイオマス発電所(約2,000kW程度)の事業化を検討しています。現在、再生可能エネルギーの電力買い取り制度が検討されていることが、実現を加速してくれると期待しています。

 町では2008年、こういった緑のコンビナートやIT産業などの企業誘致を図るために「企業立地奨励条例」を制定しました。設備投資や雇用、通信費などを一体的に助成する内容です。
 島の里山、里海再生を目指した緑のコンビナート構想は、まだ始まったばかりで課題山積ですが、何とか隠岐の島町において環境産業の“離島モデル”を構築したいと思っています。

(グローバルネット:2010年10月号より)

 

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