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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第47回 [第1作業部会]より確かな自然科学的知見

  • 2007年12月13日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/地球温暖化は人間活動が原因!〜IPCC第4時評価報告書が90〜95%の確からしさで断定
[第1作業部会]より確かな自然科学的知見
地球環境フロンティア研究センター特任上席研究員
近藤 洋輝

無断転載禁じます

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第1作業部会(WG1)は、2007年1月29日〜2月1日に、パリのユネスコ本部において第10回会合を開き、「自然科学的根拠」をテーマとした、第4次評価報告書(AR4)の担当分を完成させました。

 会議では、行ごとの詳細な審議の末、修正、補足などを経て、「政策決定者向け要約(SPM)」を承認し、そのよりどころとなった本文(専門要約〈TS〉および1〜11章)を、SPMとの整合性やミスプリなどの形式上・編集上の技術的訂正を前提として受諾しました。会議は長時間にわたり、全体の終了は午前1時となりましたが、最も時間を要したのは、不確実性に関する表現についての討論でした。ここではSPMを中心に、どのような自然科学的知見がまとめられているかを紹介します。

温暖化の現実化とその背景

 WG1によるAR4の第1の特徴は、現在までの観測事実の解析から、「気候システムの温暖化には疑う余地がない」と明記し、もはや温暖化が現実化していることを確認している点です。図(左)はこれらの気候変化のうち、測器による主な観測事実を示したものです。

 第3次評価報告書(TAR、2001年)では、2000年までの100年間に世界平均の地上気温が0.6℃上昇したことを示したのに対し、AR4では、2005年までの100年間では0.74℃上昇したと指摘し、たった5年の間に上昇率が増えています。最近50年間では、10年あたり0.13℃(100年あたりにすれば1.3℃で、過去100年の約2倍)であり、温暖化傾向は加速しています。このほか、過去1,300年間にわたる解析成果でも最近の50年が最も高温であることも示しています。

 海面水位に関しても、20世紀に、17cm上昇(年平均1.7mm上昇)したと見積もり、1961〜2003年では年平均1.8mm上昇、さらに1993〜2003年では年平均3.1mm上昇としており、最近の上昇加速が顕著です。海面水位の上昇には、温暖化による海水の熱膨張のほか、氷床、氷河や氷帽(氷床、氷河以外の陸域の氷)の溶解などの要因があり、それらによる寄与を見積もると観測された海面水位上昇量をほぼ説明できます。とくにTAR以後に得られたデータでは、グリーンランド氷床や南極氷床の減少(降雪による蓄積を上回る溶解)が1993〜2003年の海面水位上昇に寄与した可能性がかなり高いとしています。また、積雪面積も南北両半球で縮小しています。

 一方、温室効果ガスに関しては、氷床コアに閉じ込められた気体の分析などから、過去1万年にわたる大気中濃度の変化において、産業革命以後の変化(増加)がこの時間スケールで見ていかに異常であるかを示しています。

温暖化の原因特定:確信を深めた結論

 温暖化といっても数十年周期の自然変動の一端を見ているのではないか、観測もモデルも不確実性が多くて原因特定など信頼性が乏しいのではないかという疑問に対し、AR4では一段と確信をもって答えられる知見が示されています。

 温暖化を予測している大気海洋結合気候モデルの信頼性を確かめるには、少なくとも、観測されている20世紀の気候を再現する能力を調べてみる必要があります。TARでは、気候再現実験は英国のハドレーセンターのモデルによる実験のみであったのに対し、AR4では日本をはじめ世界の先進研究機関により多数の実験が行われました。

 図(下)は、そのような実験の結果です。気候の変動は、太陽活動の変動や火山噴火など自然起源の要因によるほか、温室効果ガスなどの人為起源の要因が考えられます。これら二つの要因を考慮して多くの再現実験を行った結果、観測された全球平均の地上気温と比較すると、かなりの程度実際に起きた変動を再現していることがわかります。自然起源の要因だけならどういう変動が生じたかを示したものを見ると、とくに20世紀後半に現実に起きた変化との違いは顕著で、人為起源の要因なしには説明できません。しかも、TARより高度化されたものを含む多数のモデルの実験結果です。

気温、海面水位および北半球の積雪面積の変化 全球平均地上気温の変化

作成:ポンプワークショップ

 TARにおいて、「過去50年間に観測された温暖化の大部分は、温室効果ガス濃度の増加によるものであった可能性が高い(66〜90%の確からしさ)」としていた評価に対し、AR4では、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い(90〜95%の確からしさ)」としています。これが、AR4の第2の特徴といえるでしょう。この結果は、過去50年ほどの昇温傾向が変動の一部ではなく、人為起源の温暖化であることが「疑う余地がない」ことを裏づけています。

進展した気候変化予測

 将来の気候変化に対する予測では、TAR以降、多くの研究グループにより、大気海洋結合モデルに基づく予測実験が多数行われるようになりました。観測に基づく研究の進展により、気候の変化をもたらす人為起源の影響に対し、かなり信頼性の高い見積もりができるようになったことも大きく貢献しています。とくにIPCCと研究プログラムである世界気候研究計画(WCRP)の協力により、選定された排出シナリオのもとでのモデル比較実験が行われたことが、原因特定とともに予測に関しても、重要な役割を果たしました。

 TARに比べ予測モデルの数も質も進展し、一つの排出シナリオに対する気温変化予測値に関し、最良の見積もりや可能性が高い範囲(予測幅)も出すことが可能となりました。このように、より信頼度の明白な予測を示していることが第3の特徴といえます。その結果、バランス重視のエネルギー源の高成長型社会シナリオ(A1B)では、20世紀末から2100年世紀末までの気温上昇の最良の見積もりは、2.8℃[1.7〜4.4℃]です([ ]は予測幅)。高排出シナリオの化石エネルギー源重視の高成長型社会(A1FI)では、4.0℃[2.4〜6.4℃]、持続的発展型社会シナリオ(B1)では、1.8℃[1.1〜2.9℃]です。海面水位上昇に関しては、モデルの改善でモデル間の差が大きく狭まった一方、氷床からの氷流出が大きいことが判明し始めてはいるもののまだ不確実であるため、予測幅のみが示され、A1Bでは21〜48cm、A1FIでは26〜59cm、B1では18〜38cmです。さらに、大雨、熱波などの極端現象の増加傾向や、台風やハリケーンなどの強度が増大することなども予測されています。

 その他、土壌を含む陸域生態系などによる炭素循環が、温暖化により、大気中のCO2をさらに増大させるという正のフィードバック効果を生じるという重要な新知見が出始めたことが示されており、今後の長期安定化の議論に大きな影響が予想されます。

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