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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第34回 原材料調達における「持続可能性」とは?

  • 2006年11月9日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/原材料調達における「持続可能性」とは?
原材料調達における「持続可能性」とは?
地球・人間環境フォーラム
満田 夏花

無断転載禁じます

隠れたフローと隠れた影響 一国環境主義の落とし穴

 日本における物質フローを見てみると、国内の経済活動に投入される天然資源等18億5,800万tのうち、7億7,100万tが資源または製品の形で輸入されている。この図には表されていないが、実際に使われた物質以外に、資源の採取・採掘の際に廃棄された「隠れたフロー」が大きい。環境白書によれば、この隠れたフローは、国内からは10.9億t(採取11.2億tの0.97倍)、海外分としては採取28.3億t(採取7.2億tの3.9倍)の計39.2億tであると推計されている(平成17年版循環型社会白書)。

図:日本の物質フロー(2002年度)

 この数値は廃棄された物質量であるが、これらの資源の採取や生産の段階あるいは廃棄物投棄などの際に、生態系への影響や公害等の「隠れた影響」が生じていることに注意が必要だ。

待ってはくれない自然資源の危機的状況

 このような「見えづらい影響」を理解し、数量化し、企業活動や政策に落とし込むために、自然資源の消費量を土地面積で表したエコロジカル・フットプリントや、製品の原料生産のために移動された物質量を表したエコロジカル・リュックサックなどの指標の適用も試みられている。また、生態系の劣化や社会問題などの「質」的影響をいかに評価し、ライフサイクル・アセスメント(LCA)に組み込むかについては今後の研究が待たれるところだ。

 一方で、自然資源の枯渇や生態系の破壊は待ってはくれない。森林を例にとれば、1992年の地球サミット以来14年にもわたって毎年森林をめぐる国際会議が繰り返され、森林の持続可能な経営をいかに評価するかの議論が行われているかたわらで、森林の減少はとどまることを知らない。

 毎年、世界中で進行する天然林の減少は1,300万ha(日本の国土面積の3分の1)、種の絶滅のスピードは1時間に3種、過剰漁獲または枯渇していると評価された魚種の割合は1970年代半ばには10%だったのが2000年代前半には25%にまで増加した。WWFの「生きている地球指数」(世界の生物多様性の状態を示す指数)は、1970年から2000年の間に40%も低下した。

 こうした自然資源の危機的状況と、私たちが使用している原材料との間には密接な関係がある。例えば東南アジアのオイルパームプランテーションや南米の大豆プランテーションの急激な開発は、熱帯林や保護価値の高い生態系に大きな圧力を与えている。漁業資源の枯渇の大きな要因として、最新技術を備えた大型トロール船や延縄漁船による広範な操業が挙げられる。

解決に向けて〜企業の調達基準

 実際問題として、原材料として使用されている一次産品の種類を挙げればきりがなく、そのすべてを追跡調査することは不可能であろう。よって、問題が現に生じていると指摘されているもの、あるいは問題が生じるリスクが高いものから優先順位をつけて問題の解決を図っていくしかない。

 企業にとっては、まずは自らの取り扱っている原材料のリスク評価を行い、指摘があるもの、重要と考えられるものから順に、なんらかの調達基準を作成することが必要になろう。

 例えば、大手スーパーマーケット・チェーンのミグロ社(本社・スイス)は、2002年1月、ヨーロッパの小売業者としては初めて、取り扱うパーム油を生産するためのプランテーション開発が、天然林の転換を伴っていないことをサプライヤーに確認することとし、パーム油生産における環境・社会基準を策定した。ミグロ社は、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議、本部:マレーシア)の創設メンバーの一員であり、その後のRSPOにおける持続可能なパーム油のための基本原則策定の議論に大きく貢献した。漁業の例では、ウォルマート社(本社・米国アーカンソー州)が、今年2月、なんらかの方法で持続可能な漁業であると認証された漁業からの魚介類だけしか取り扱わないという目標を今後3年以内に達成すると発表した。

 調達基準の策定に当たっては、可能な限り、原材料を生産現場にまで遡って知ること、どのような環境・社会影響が生じがちなのかを、NGO等も交えた関係者との対話を通じて認識することが重要である。

 さらに、違法伐採からの木材など回避するべき最低ライン、認証材など増やしていくべき目標値を定め双方からアプローチしていくことが求められる。

認証制度の可能性

 認証制度では森林分野が最も先行し実績がある。FSC(森林管理協議会)、PEFC(Programme for the Endorsement of Forest Certification)などの国際認証のほか、日本独自のSGEC(『緑の循環』認証会議)などがあり、需要側の企業や個人に対して、「この木材は持続可能な森林経営により生産されたものだ」ということをわかりやすく示すツールとして有効である。その際、認証制度自体の信用を高めるため、審査の独立性、情報の透明性がカギとなることに注意が必要だ。

 漁業分野においては、近年、MSC(海洋管理協議会)の認証ラベルつきの製品が、欧米を中心に流通している。将来的には、パーム油や大豆、金属などの分野にも認証制度が広がるかもしれない。

 認証制度の課題としては、取得の際のコスト、そのコストの負担は誰が行うのかということが挙げられる。小規模な生産者が取り組み可能な認証制度の構築や、将来的には伝統的に培われてきた地元独自の生産手法や国・地域の独自性などの多様性に対する考慮も必要となってくるかもしれない。

 とはいえ、企業や消費者にとって、持続可能な生産に取り組む生産者を見分けるために、現在ある認証制度を最大限活用することは有用な手段である。

金融機関の環境・社会配慮

 資源の持続可能性を考えるとき、石油・ガス・鉱山開発、プランテーション開発などの際の融資が大きな役割を果たす。1980年代後半から、融資決定の際に環境・社会面からの審査を行い大規模な環境問題や社会問題を引き起すリスクの高い事業には融資をしない、あるいは融資の際に一定の環境・社会配慮を求めるといった内容の方針・政策が世界銀行等の国際金融機関によって採用されてきたが、近年、こうした方針は民間の銀行にも広がりを見せている。

 2003年6月には、5,000万米ドル以上のすべてのプロジェクトファイナンスにおける環境・社会配慮に対する方針を内容とした赤道原則が採択され、現在、輸出信用機関も含む41行によって批准されている。

 さらに、独自の融資方針を公表する銀行も出てきた。シティグループが、RAN(Rainforest Action Network)による4年間にわたるキャンペーンを受けた結果、保護価値の高い生息域の転換や劣化を伴う案件には原則融資を行わないことや、違法伐採対処のための積極的な融資方針を採択したのは象徴的である。

 しかしここで問題なのは、金融機関側の融資判断が、これらの方針・政策に沿ったものなのかどうか、外部からはうかがい知れないことが多いことである。今後は、金融機関側からの環境審査の過程に関する透明性の向上が課題となってくるだろう。

 資源の問題は、突き詰めていけば、私たちが現在豊かさを享受している地球の経済・社会システムを問うような、あるいは限られた地球の環境容量の中の人間活動そのものを問うような問題だ。資源の生産現場の情報に基づく現状認識を踏まえた緊急の行動が必要とされている。

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