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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第33回 持続可能な社会に向けての日本のビジョン〜ハイテク・アニミズム国家の構築

  • 2006年10月12日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/企業経営情報としての環境・CSR報告書〜環境コミュニケーションシンポジウムより
持続可能な社会に向けての日本のビジョン〜ハイテク・アニミズム国家の構築
国際日本文化研究センター教授
安田 喜憲さん

無断転載禁じます

アニミズムが地球環境を救う

 21世紀の日本をどうするかについて私なりの提言をしたいと思います。現代の近代ヨーロッパ文明、そして近代工業技術文明は地球環境問題を引き起こしました。私たちは今大きな危機に直面しています。その危機を回避するのには、新しい生命文明をつくらなければならない。生命文明をつくる新しい精神がアニミズムだというのが私の結論です。

 1989年、所属している国際日本文化研究センターのニュースレターの中で「21世紀はアニミズム・ルネッサンスをやらなければ人類は滅亡する」と書きました。そうしたら世界中から反論が来たのです。「中南米にあるアステカ帝国やマヤ、インカ文明は平和で穏やかな文明であった」と書いたことに対して欧米の人は「心臓をえぐって何人もの人間を太陽にいけにえにした、そんな文明がなぜ平和で穏やかだと言えるのだ。そういう危険思想の持ち主を国際機関に置いておくとはけしからん」と言ってきた。

 そこで、反論を書いたのです。「アステカの人びとはどうして太陽に人間をいけにえにしたかと言うと、太陽は東の空から昇り、西の空に沈む。毎日運動していると疲れてくる。だから人間の赤い血を太陽に捧げることによってこの現世の秩序を維持したいと考えた。何もいけにえを捧げる儀式を復活させようと言っているのではない。自らの命をこの地球の命ある、生きとし生ける物の世界を維持するために捧げようとした心、太陽の恵みに対する感謝の気持ちが崇高であり、その心を思い起こすことが重要なのである」と。

 同じ時期、ヨーロッパでは小氷期に入り、気候が悪く、穀物が穫れない。その心の苦しみを誰にもぶつけることができずに弱い女性にそのうっぷんを晴らしていた。これが魔女裁判なのです。環境が悪い時に弱い者いじめをする中で、自分たちの心の安定を求めたのです。太陽にいけにえを捧げる心と魔女を生み出す心とは、どちらが野蛮なのか。

自然循環システムを活用し、豊かな大地を生み出す稲作漁労民

 アンデスのマチュピチュ遺跡には美しい棚畑があります。土壌浸食を防いで、完璧なまでの水の循環システムを利用しながら、急斜面でも美しい棚畑を作ったのです。それがスペイン人やポルトガル人にはまったくわからなかったのです。ミルクを飲んでパンや肉を食べる畑作牧畜民は、こういう急傾斜では羊やヤギを放牧するだけです。羊やヤギはまたたく間に草を食べるため、土壌浸食を受けて荒地になってしまうのですが、反対に稲作漁労民は、これがおじいさんの棚畑だ、これは私のですよ、これは孫のものだ——と、不毛の大地に自らの持っているあらゆるエネルギーを注いで、豊かな大地を生み出すことが喜びなのです。そういう精神がアンデスの人びとや稲作漁労民の中には流れているのです。この心をもう一度取り戻す必要があります。

マチュピチュ遺跡に残る美しい棚畑
マチュピチュ遺跡に残る美しい棚畑

 さらに、利他の心、慈悲の心がないと水田稲作農業の社会では生きられません。自分の田んぼに入ってきた水をきれいにして次の人が使えるようにしなければなりません。必ず自分だけではなく他人の幸せも考えて生きなければ暮らせないのです。時々干ばつがあるので当然水争いが起こりますが、言葉や習俗、民族の違ういくつかの少数民族が争っても最後はきちんと和解をするのです。絶対に殺し合いまではいきません。昔の日本でもそうです。そこにも文明システムの違いというものがはっきり表れます。

図:稲作漁労民の流域経営

 たった一つの地球の命の秩序を維持することは、人類だけではなくこの宇宙にとっても、大きな問題で重要なことです。その秩序を大事にしてきたのが日本の神道なのです。私たちは、神社の背後にある森や山にある命が調和ある営みを続けながらこの地球で生き続ける、そのことを祈っているのです。例えば、目の前にある大木は命あるものです。その命あるものの姿こそが最高の価値を持っていると考える、それが私たち日本人の心です。これをアニミズムと言います。巨木を破壊できる人と、巨木を見たらそこにしめ縄を巻く人間との心には大きな違いがあります。

アニミズムによる新たな産業技術社会の構築

 21世紀に、自然に学ぶというアニミズムの心に立脚した新しい産業技術社会をつくれば日本は救われると思っています。例えば、ヤモリは垂直の壁を登ることができる。そのヤモリと同じような足を持った車を作れば、われわれは垂直に壁を登ることができるわけです。1億年以上自然に適応しながら獲得された、こうした動物たちの叡智を学び、近代工業技術社会の技術とハイテクノロジーと結託させながら新しい社会をつくっていくことが大切です。

 さらに、21世紀、われわれが目指すべきものはアジア太平洋の「アニミズム連合」です。日本とよく似たアニミズムの世界を持っているのは、オロチョンやギリヤークという少数民族、モンゴルの人びとです。また、インドや東南アジアの人びと、さらに、もっと環太平洋に広げてネイティブアメリカン、インディへナ、メラネシアやポリネシア、マオリの人びともアニミズムの心を持っています。残念ながら、中国は元々は持っていたのですが、今の共産主義体制では難しいのです。アニミズムの心を持ったやさしい人びとが団結して国際社会をつくっていく、そして「ハイテク・アニミズム国家」をつくっていってはどうかと思います。

 そして最後に日本がやるべきことは「全球アニミズム化運動を展開しろ!」ということです。日本の文明の原点には、縄文時代以来のアニミズムの心がずっと残っています。これは、中国文明や南蛮文化が、明治以降に欧米文明がやってきても結局破壊されなかった。

 21世紀に必要なのはテクノロジーの転換です。今までは自然を支配し、自然からいかに効率良く搾取するかというテクノロジーを一生懸命に近代ヨーロッパ文明から学んできました。しかしそれを今、もう捨てる時です。かつて、日本人が鉄砲を捨てたように、われわれは自然を支配して自然から一方的に資源を搾取するテクノロジーを捨てて、自然を再生させ自然の叡智に学ぶ、自然と人間が共存できる社会をつくる、そういうテクノロジー社会にこれから大きく変えることが必要なのです。

(2006年1月25日東京都内にて)

安田喜憲さん

安田喜憲さん
1946年三重県生まれ。理学博士。「環境考古学」という分野を日本で初めて確立した。著書に『日本よ、森の環境国家たれ』(中公叢書、2002年)など多数。


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