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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第107回 グリーンエコノミー構想の後退と可能性

  • 2012年12月13日

特集/リオ+20〜持続可能な地球の未来に向けて  第107回 グリーンエコノミー構想の後退と可能性

 今年6月、地球サミットから20年という節目の年に国連持続可能な開発会議、通称リオ+20が開催される。その2大テーマの一つ、グリーンエコノミーを取り上げ、成果文書における国連の構想の後退について論じた上で、グリーンエコノミーの本質に立ち返り、その意義と方向について論じる。なお、以下の記述は5月末時点での交渉状況に基づくものであり、今後の交渉過程で大幅な変更がある可能性もあることに留意されたい。

国連構想としてのグリーンエコノミーの後退

 グリーンエコノミーの成果文書上の位置付けは交渉過程で大幅に縮小した。他の論点の記述が膨らみ、全体に占める比重が下がったことも一因であるが、その記述の中身自体も大きく後退した。

 まず、グリーンエコノミー全般の政策的な位置付けについて、欧州連合(EU)などは、持続可能な発展を達成する上で必要不可欠なツールであると主張していたが、途上国側からあくまで有用なツールの一つとして捉えるべきとの主張がなされ、それに近い弱い表現での調整がなされている。

 また、当初グリーンエコノミーへの移行は、2030年までの国際ロードマップに基づく長期プロジェクトとして構想されていたが、事実上の取り組みの強制につながる懸念から後退し、ロードマップという言葉自体が姿を消した。

 さらに、構想を進めるための具体的な仕掛けについても、目玉となるものは見当たらない。国連は当初、各国の政策立案や実施を支えるナレッジシェアリング・プラットフォームの創設を掲げていたが、既存の取り組みとの関係性などが争点となり、それらへの自主参加を促すに留まった。この他にも、各国ごとのグリーンエコノミー戦略の策定、革新的資金手段に関する国際プロセスの創設など、今年1月公表の原案にあった項目はいずれも記載自体がなくなるか、抽象的言及にとどまっている。

 では、なぜここまで後退したのか。第一の理由は、定義をめぐる戦略上の失敗である。国連は当初からグリーンエコノミーの定義付けへの努力を放棄していた。定義を曖昧にしたまま交渉を続けたことで、多くの国の消極的な賛意を得ることには成功したものの、とくに貧困や雇用など各国の関心事との関連を明確に描けず、積極的な賛同を得ることに失敗した。

 第二に、構想が内在していた環境・経済・社会の持続可能性の3本柱の位置付けの変更が理解を得られなかった。名称から明らかなように、グリーンエコノミーの政策手段の中心は環境と経済の統合である。これは一見、ヨハネスブルグ・サミットの成果からも逆行しているようにみえるが、本来の趣旨は社会面を後退させることではなく、むしろ貧困解消などの目標を政策手段としての環境と経済の統合によって達成することにあった。逆説的だが、背景にはますます環境・経済・社会の関係性が深化している世界の現状がある。気候変動や生態系の破壊によって被害を被るのは、それらに依存する途上国農村部の脆弱な層であるし、貧困解消のために10年以内に必要となる6億人の新規雇用はグリーン産業から創出することが期待される。そこで、3本柱それぞれの重要性は保持しつつも、手段の基軸を環境と経済の統合に置いた点に構想の挑戦があった。しかし、経済的手法だけで貧困や人権の問題が解決するわけでない。問題は、グリーンエコノミーとは別途、社会政策的な対応に関する方針を打ち出さなかったことで、グリーンエコノミーに批判が集中してしまったことにある。

 第三に、市民セクター側に“自然の商品化”に対する懸念が広がり、反発を招いたことが挙げられる。例えば、ETC Groupという市民団体は、昨年末に公表した報告書でグリーンエコノミーの狙いは収奪の対象を石油からバイオマスに鞍替えし、小規模生産者や先住民族から資源を奪うことだと糾弾した。こうした懸念は世界の多くのNGOに共有されており、3月の非公式交渉では市民団体から「ブラウンエコノミーの手法をグリーンに持ち込むこと」や「グリーンに名を借りたジオエンジニアリングや自然資源の金融化」への反発の声が聞かれたほか、会合後に食料や水の権利などへの言及を求める請願書が数多くのNGOの連名で提出された。

自然資本をベースとした新しい経済

 以上のような要因により、国連構想としてのグリーンエコノミーは成果文書上後退した。一方で、グリーンエコノミーの議論を初期の段階でリードした国連環境計画(UNEP)や経済協力開発機構(OECD)の構想から考えた場合、リオ+20の成果とは無関係に、今後、世界はグリーンエコノミーへの転換を迫られると考えられる。

 これらの構想に共通しているのは、自然資本をベースとした新しい経済の確立である。とくに重要なのが森林・土壌・水・漁業資源といった生態系が関わる自然資本である。実際、暮らしを支える財やサービスのほとんど、私たちの生存さえもが生態系の働きに大きく依存しているが、これまで人類はその貢献に正当な評価を与えてこなかった。本来は将来の安定的な所得のため資本を維持することが合理的であるにもかかわらず、一番肝心なところで忘れ、かけがえのない資本を食いつぶしてきた。

 しかしながら、新興国も加わった世界消費の急激な増大は人類が新たな制約の地平に入ったことを示している。今後人類が持続的に発展するためには、自然を単なる消費の対象と見るのではなく、経済や社会のベースとして維持し、その恩恵を将来にまでつないでいかなくてはならない。

図1:自然資本の機能
 図1:自然資本の機能

グリーンエコノミーの方向性

では、具体的にどのように新しい経済を構築していくのか。

 第一の方向性は、自然資本の量や質を改善する取り組みであり、その中心となるのは“自然資本への投資”である。例えば企業は将来の増産のために設備投資を行うし、将来の戦力増強のために教育や訓練を行う。同様に自然資本についても、将来の価値を得るために投資を行う、という考え方が成立する。良質の水を安定供給するために、莫大な金とエネルギーを使って貯水・浄水施設を作るかわりに、流域生態系に投資し、水の涵養や浄化を促進する。気候の安定のために設備更新で二酸化炭素(CO2)排出量の削減を図るだけでなく、熱帯雨林に投資し大気中のCO2の吸収力を高める。

 もう一つの方向性は資源効率性の向上である。さまざまなイノベーションや社会の仕組みづくりを通じ、自然資本から生み出される財やサービスの利用効率性を高めること、つまり、人工資本の効率性を高めることで、より少ない資源からより多くの価値を得る。 第三の方向性は、そもそも資源を必要としないライフスタイルや社会システムへの転換である。いくら自然資本を改善し、人工資本の効率を向上させても、資源消費や汚染量自体が拡大し続け、生態系の再生力と吸収力を上回れば、いずれ経済は限界に突き当たる。そこで、絶対的なデカップリングの達成に向けた広い意味でのソーシャル・イノベーションが求められる。そのためには政府や企業だけでなく、消費者やNGOなど幅広いステークホルダーを巻き込んだ取り組みが不可欠である。


グローバルネット:2012年6月号より


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