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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第105回 東日本大震災の歴史的位置付けと今後の方向性

  • 2012年10月11日

特集/シンポジウム報告 創造と連携〜市民による東日本大震災からの復興  第105回 東日本大震災の歴史的位置付けと今後の方向性

コンクリートの寿命は200年 1,000年かける津波対策を

 東日本大震災はどういうことであったのか。歴史的、人類史的に位置づける作業が必要です。人間の一生はたかだか100年ですから1,000年に1度起きることに一体どう対処したら良いのか。過去の人類はそんなことはわかっていませんでしたから、今生きている人類だけに与えられた課題だと思います。私はこの機会だからこそ、極めて長期的な視点をあえて持つことが重要だと思います。

 東日本大震災では、マグニチュード9クラスの大地震とそれに伴う大津波、原発の炉心溶融等々が起きてしまった。マグニチュード9クラスの地震としては869年の貞観地震以来と言われていますが、1,000年に1度となるとわれわれの想定を完全に超えていた。津波防御に役立ったのは、島々が点在する松島の自然の配置ぐらいしかなかったのではないか。

 私は専門が材料屋です。例えば防潮堤を作るとなると材料はコンクリートです。200年後に来る津波のために防潮堤をコンクリートで作っても実はもたないのです。それでは1,000年後の津波にどう備えるのか。田老(岩手県宮古市田老地区。高さ10mの堤防を今回の津波は乗り越えた)は津波対策で有名ですが、私も東日本大震災の前年に岩手県全域を自分の車で回ってみました。

 田老の防潮堤は二重になっていましたが、それが津波の防御にならなかった。田老と同じ対処方法で津波を全面的に防御、回避しようとすると、高さ15mでも足りず、ビルの5階建て以上の高さにする必要がある。コンクリートは200年ぐらいしかもたないですから200年ごとに建て替える。あるいは高台のみに居住して海岸の漁業施設と別々に住む。いろいろなシナリオがあるのですから、自由に柔軟な発想を持って考えることがわれわれに突きつけられた現実ではないかと思います。

 松島湾の奥は津波の被害は少なかったと言われます。日本地理学会が松島湾に関して津波被害の統計をとりましたが、沖合の小島に津波が当たって比較的被害が少なかった。湾の入り口が細いから当然なのですが、沖合の海に、ある構造を持った防潮堤を作るのも一案かもしれません。コンクリートではもちませんから、島を作るつもりで、1,000年かけて100年ごとに少しずつ作っていく発想も必要かもしれません。

 住宅は高台に移転する案は南三陸町の伊里前地区で進んでいます。漁業者は毎日、海辺の漁業施設まで通勤することになります。完璧な防潮堤があり得ないとしたら、5階建ての漁業施設を建ててここに住むことも可能かと思います。

原発抜きのエネルギー供給をどうするか

 原子力発電なしのエネルギー供給をどのように考えていくか。なかなか難しいですが、日本でこういう事態が起きたのですから、日本人の責任として原発なしでエネルギーを供給してみるという考えは持つべきだと思います。

 1850年頃から化石燃料文明が始まって、まず石炭を使い始め、さらに石油が使われ始めて二酸化炭素の排出量が増えてきました。2000年のデータですが、一国が豊かになるには一人あたり1万5,000ドルぐらいの所得が必要で、そのためにはどうしてもエネルギーを比例的に増やしていかなければいけない。エネルギーを増やさないと金持ちになれないというのがエネルギー文明の本質です。その中で原発が一つの手法として選ばれたのです。石油という資源が偏在し、先進国にはないのですから、他の技術でやらなければならないとなったわけです。化石燃料はあと300年ぐらいでなくなってしまいます。それから先は自然エネルギーです。

 自然エネルギー文明はあり得るのか。日本は原発事故があり、人口が早く減っていく国ですから、わりと早く自然エネルギー文明が築ける可能性があるかもしれません。自然エネルギーで最終的に頼りになるのは地熱、潮流、海上風力。このエネルギーを持っているのは東北です。将来は東北と九州がエネルギー生産地になってくるシナリオになる気がします。早ければ50年後ぐらいです。

 もう一つは原子力文明ですが、ウラン235の埋蔵量には限界があり、世界中の電力を原子力で賄おうとすると、あと20〜30年といわれますから問題になりません。高速増殖炉を使うとか、トリウムの原子炉を使うと数百年は続けられる可能性はありますが、人間がそれをちゃんと理解して使えるところまで成長すればという話です。

 長期的に22世紀ぐらいまで考えるべきだと思うのですが、世界人口は減らさなければいけないでしょうね。65億人ぐらいに減っていることが望ましい。それから日本の省エネ技術を世界中に普及させなければいけない。個人的に一番嬉しいのは、2100年にはエネルギー自給率が60%になっているということです。日本のエネルギー自給率は今4%です。食料は40%もあります。エネルギー自給率4%、それだけで農業をやれといってもできません。そうでありながら、全く皆さん心配していないのです。本当に不思議なのです。そういう国なのです。それがエネルギー自給率60%になるというのは素晴らしいことです。

低線量被曝をされた人びとへの健康状態のフォローと補償

 低線量被曝は非常にひどい話です。福島県の人びとは不安に思っていると思いますが、根底にはやはり国は何かを隠しているのではないか。原発の実態だって知っていたのではないのかと不信感を持っているのだと思います。

 国際放射線防護委員会(ICRP)は放射線の低線量被曝問題についてまとめている国際機関ですが、緊急事態の場合には年間100ミリシーベルトまでの被曝は許容し、一方で平常時には1ミリシーベルトにしなさいと言っている。この平常時、緊急事態の定義についてちゃんとした説明がないので、この国際的権威ですら何か隠していないかと不安に思う人がいます。

 長期的なフォローが長寿につながります。例えば広島、長崎の被爆者、原子力施設関係の従事者は寿命が長いと言われますが、これは健康診断をきちっとやっているからです。健康状態のフォローと、究極は補償をするということでしょう。

 日本の将来ですが、私は大言壮語でもよいから、何でも頭に「世界でナンバーワン」をくっつけようと提案します。2100年には今のエネルギーの7分の1ぐらいで生活できますが、その省資源・省エネ技術を世界に渡すことによって、例えば気候変動の防止に役立つ世界ナンバーワンの自然エネルギーの利用方法を開発する。それから、未来をみて決定権は若者に与え、未来の環境に配慮した国になっていく。人と人との絆を維持した国になる。経済効率だけではない、本当の幸福というものを考える国になりたいと思います。

 最後に国会の機能回復を進めるための話です。今、原発のために重要法案の国民投票法をつくろうという人がいます。それもよいのだけれど、実際今の政治家は一番何ができないのか、自分のことを決めることができない人が政治家になっているのです。そこで政治家に関わる法律はわれわれ国民側でつくりますというようにしたいと思います。政治家が非常に高潔であることを前提にして今のシステムはできているのです。少し遠回りかも知れませんが、すべての国政選挙を全く違うタイプの二票制にする。一票目は、今の自分の状況を考え、自分のために働いてくれそうな候補に一票を入れます。20年後の日本全体にとって良いことを提案している人にもう一票をいれる。こういう選挙制度をつくろう。そうなれば、政治家は20年後の日本を常に語らなければいけない。

 これだけでも私は世の中を大きく変えることができると思います。

(2012年2月2日宮城県内にて)

(グローバルネット:2012年4月号より)


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