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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第100回 農業と福祉〜全国の先進事例を参考に

  • 2012年5月10日

特集/福祉と農業の連携で進むソーシャルインクルージョン 第100回 農業と福祉〜全国の先進事例を参考に

 最初に現在の福祉の状況を考えたいと思います。どうも最近日本の社会の底が割れてきていると感じています。適切な仕事が得られない、仕事をしていてもどうもこれは自分に合わないなという人が最低でも2,000万人以上いると計算しています。障害者は政府の統計ですと700万人余りですが、この数字は少な過ぎます。厚生労働省の調査によると身体障害者は23%しか職に就いておらず、知的障害者の53%は就いていますが、半分以上は授産施設、小規模作業所で働いています。精神障害者は17%しか仕事がなく、高齢者で、65歳以上の人は2,900万人に上りますが、働いているのは30%にも満たない状況です。

 とくに心配なのは若者の長期化する失業です。大学を出ても相応の就職がない。例えば、大阪の釜ヶ崎では若者が目立っています。ホームレスは減っても20代のホームレスは増えている。スラム街に常住する若者は日本の社会ではこれまでありませんでした。

仕事から得る自尊心、心身の健康、人間としての成長

 仕事とは、経済的な基盤だけではなくて仕事をすることによって人間として自尊心が得られます。心身の健康、人間としての成長、そして近代の社会は仕事を通じて人と人とのつながりを保っているのです。これが非常に重要です。

 現在の世界の福祉国家の基礎になったのは1942年に出たウィリアム・ベヴァリッジ(英国の経済学者)の「ゆりかごから墓場まで」をうたった報告書です。彼は実現可能性のある設計図を示しました。福祉国家の基盤は完全雇用にあると、皆が働いてこそ、福祉国家が成り立つと書いているのです。現在の福祉国家のあり方、これからの社会保障のあり方を考える際に、皆で働く、皆で国を支え合う完全雇用が大前提です。これが崩れると福祉国家は成り立たないと書いています。

 雇用を広げる有力な手段として農業があると私は考えています。農業については国民の期待は強いと思います。安全・安心な農作物を得たいと言う人がいます。日本の食料自給率はカロリー計算で39%程度で、自給率が低いのは心配だという声もあります。農業は日本の国土を守ってくれ、環境保全の面でも評価されています。ですから、これから農業を振興していかなければならないという動きがあります。農業に対する期待と、福祉に対する期待をうまくつなぎ合わせれば両方とも解決できる、そういう道があるのではないのかと私どもは研究を重ねています。

 社会福祉施設、社会福祉の関係者は、農業を行うには大変良い条件にあり、農業は高齢者、心身障害者の健康維持に大変役立つのではと思っています。昔の農業の形態を思い出して下さい。畑や田んぼで家族が、人手が足りないので親戚や近所の人たちが協力して農作業をしました。まさに「結」の精神は日本の農家で生まれたのです。今、障害者、高齢者が社会的に孤立し、ホームレスは社会から排除されています。それが日本の伝統的な農業においては皆結びついていた。農業は人と人とを結びつける日本古来からの形だったことに着目しなければいけません。

 私はソーシャルインクルージョン(ハンディを持つ人を社会の構成員として受け入れること)の推進に農業がぴったりだと思います。耕作放棄地が増えています。38万ha程度の農耕を放棄した農業用地がありますが、これをうまく使う手はないだろうか。最近、農地法の規制が緩和されて、社会福祉施設に農地を貸してくれる農家もあります。農業は大きな投資が要りませんので、福祉との関わりを強めるのにかなり有利な状況にあると思っています。


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