宇宙生命の痕跡が検出された件について、科学者に聞いてみた

  • 2025年5月8日
  • Gizmodo Japan

宇宙生命の痕跡が検出された件について、科学者に聞いてみた
Image: Adriano Contreras/Gizmodo US

先週、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いた研究者たちが、遠方の太陽系外惑星「K2-18 b」で興味深い発見をしたと報告。その内容とは、ジメチルスルフィド(DMS)の痕跡を見つけたというもの。

このジメチルスルフィド、地球においては、基本的に海洋微生物によって生み出されるものなのです。

地球からおよそ120光年離れたところにあるK2-18 bは、赤色矮星の「ハビタブルゾーン(生命が存在可能とされる領域)」内を公転しています。また、この惑星は、高温多湿な水の惑星で、水素に富んだ大気を持つ「ハイセアン惑星」である可能性もあります。

このニュースについて、メディアは「地球外生命の初検出か?」という憶測で盛り上がっている様子。しかし、検出の信頼性は3シグマと非常に有望である一方、決定的というものではありません。

そんななか、こうした説に対して疑問を示す人もいます。科学者の中にも肯定的に捉える人もいれば、そうでない人もいる様子。

「DMSは生命の兆候なのか、それとも極限環境で起こる奇妙な非生物的化学反応なのか?」

今回の記事では、この発見について掘り下げるべく、専門家たちのリアクションをまとめてみました。この発見が「地球外生命の発見」であることを確定させるためには、どんなことが必要なのでしょうか。

オリバー・ショートル(ケンブリッジ大学 惑星科学者)

私は、K2-18 bの気候や構造について研究してきました。今回のDMSのスペクトルに関する報告は、「地球外生命の可能性」を高めるとは思っていません。

地球外生命を確信するためには、以下のステップが必要です。

1.観測された信号が実際に惑星に由来するかどうかを確かめる

2.信号の対照が生物の存在を示すもの(ここではDMS)に由来するか確認する

3.非生物的なプロセスでその物質が生成される可能性を排除する

4.生物的なプロセスでその物質が生成される可能性を示す

K2-18 bでの検出は、まだ1と2さえクリアしていません。研究コミュニティが独自に信号の確認を行なう必要があります。現時点でのデータからは、この惑星に液体の水の海や生命に適した気候があるという証拠はありません。

そのため、たとえ1と2でDMSが検出されたとしても、この分子は生命の存在しない高温の硫黄と水素に富む大気中で発生したと予想し、これを可能にした大気の化学組成はどのようなものだったのかを検討する必要があるのです。

この分子が生物由来だと信じるには、この惑星の気候に対するすべての予測を覆す必要があり、K2-18 bが生命を宿している可能性を論じるには、まだハードルがあります。

クリストファー・グライン(サウスウェスト研究所 地球化学者)

K2-18 bのスペクトルには説明のつかない特徴があり、それがDMSまたはジメチルジスルフィド(DMDS)に起因する可能性があります。これはとても興味深いデータです。

しかし、K2-18 bはかなり小さな惑星であるため、これらの結果はJWSTの限界にまで達しており、さらなる分析でもこの検出を裏付ける証拠が見つからない可能性もあります。

この報告について、私は非常に興味深く感じていますが、今は慎重に見守る立場をとっています。仮にDMSやDMDSが存在していたとしても、それを生命の兆候と見なすには慎重であるべきです。惑星は非常に複雑で予想外の化学反応を起こすことがあります。生命を特定するには、複数の補完的な証拠が必要であり、それには時間がかかるのです。

現在は、この結果を冷静に分析し、次のステップへと研究を進めるのがいいでしょう。

ニック・マドゥスーダン(ケンブリッジ大学 天体物理学者/研究主著者)

今回の発見で、「生命の可能性」がわずかに上昇したことは確かですが、我々は慎重であるべきで、他の可能性についても検討すべきです。

とはいえ、何よりも大きいことは、地球外生命の可能性について議論するためのデータが得られたという事実です。今後の1、2年において、更なるデータが得られれば、より明確な判断ができるようになるかもしれません。

イグナス・スネレン(ライデン大学 天体物理学者)

この件は完全に誇張されています。ぶっきらぼうな返答になってしまい、申し訳ありませんが、ここ2日間、この件でのメディア対応に追われ、少しうんざりしています。今回、研究チームはスペクトルに「バンプ(突起)」を見つけましたが、それが本物かどうかも不明ですし、仮に本物でも原因は何かわかりません。

もし本物だとしても、このバンプを生み出す分子は数十種類あるかもしれません。にもかかわらず研究者たちは、DMS(あるいはDMDS)の可能性に固執して、それ以外の可能性を無視してしまっているのです。

私が査読者だったら、この論文はその場で却下していました。この発見について、宇宙生物学を持ち出す理由はどこにもありませんし、「最大のブレイクスルー」などとは到底呼べません。多くの記者が「地球外生命の示唆」として取り上げていますが、こうした誇張は天文学全体への信頼を損なうことになるのではないかと私は思います。

サラ・シーガー(MIT 惑星科学者)

このような「生命がいる惑星候補」は、最終的な確認が非常に難しいため、ずっと「候補」のままである可能性が高いのです。K2-18 bについても、もっと研究が必要です。他の人々も、「生命なしでDMSを生成する方法」を模索しているはずです。

とはいえ、人々の熱意は理解できます。さらなる証拠が集まれば、この惑星や他の惑星が「生命がいる惑星候補」として認定される可能性はあります。しかしながら、そうなったとしても、K2-18 bあくまで「候補」のままであり続けるでしょう。

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