
第133回直木賞を受賞した朱川湊人の短編集の表題作を映画化した『花まんま』が2025年4月25日より全国公開されている。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。
映画「花まんま」メイン写真 / (C) 2025「花まんま」製作委員会
【ストーリー】
早くに父と母を亡くした俊樹とフミ子は、二人きりの兄妹として大阪の下町で生きてきた。
「妹を守る」という亡き父との約束を胸に刻み、高校を中退したあとは近所の工場でひたすら懸命に働いた俊樹。今ではフミ子も大学に勤務し、父もよく通っていたお好み焼き屋の幼馴染・駒子や店主、勤務先の工場の社長や仲間たちの人情と笑いに包まれた賑やかな毎日を送っていた。
同じ大学に勤める中沢太郎という男性と間もなく結婚するフミ子は幸せそうだが、俊樹はふと不安になることがあった。なぜならフミ子は「幼少から別の女性の記憶があるという秘密」を抱えているからだ。
フミ子は小学校に上がる前、「記憶」を頼りに繁田喜代美という女性の家を兄と共に訪れたことがある。無差別殺人に巻き込まれ、23歳の若さで亡くなったバスガイドの喜代美の父・仁(酒向芳)は、フミ子の中に亡き娘を見て、フミ子を抱きしめようとしたが、俊樹から「二度とフミ子には会わせない」と告げられていた。
ところがフミ子は、その後も繁田家と連絡を取り続けており、そのことを俊樹に内緒にしていたのだ。
それを知った俊樹は「お前は加藤フミ子や、繁田喜代美やない」と言い放ち、フミ子は「わたしはわたしや!」と言い返すと、俊樹に背を向けて去っていくのだった…。
【写真】妹思いの兄・加藤俊樹(鈴木亮平)と「秘密」を抱える妹のフミ子(有村架純) / (C) 2025「花まんま」製作委員会
■鈴木亮平×有村架純の芝居に引き込まれる!お互いを思いながらもすれ違ってしまう兄妹の姿に号泣
本作の監督を務めたのは、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』『九十歳。何がめでたい』など“死”をテーマにしながらも、ユーモアと感動を盛り込んだ良作を発表してきた前田哲さん。
そんな前田さんと今回タッグを組んだのは、『エゴイスト』やNetflix『シティーハンター』など話題作への主演が続く鈴木亮平さんと、出演作の『花束みたいな恋をした』『月の満ち欠け』が大ヒットした有村架純さん。
鈴木亮平さんが演じたのは、「兄貴は損な役回りや」が口癖ながら、根は妹思いの兄・加藤俊樹。妹のフミ子を大切に思いながらも、亡くなった女性の記憶を持ち、その女性の父親と親しくするフミ子に苛立つ俊樹を繊細に演じていた。
喜代美の父・仁とは血のつながりのないフミ子だが、「喜代美の記憶」があることで、俊樹に内緒で繁田家と関わり続けてきた。そんなフミ子の優しさや芯の強さを、丁寧に表現した有村さん。
最初はフミ子が仁に会うことを反対する俊樹を全く理解できなかったが、彼が親のようにフミ子を大切に育ててきたことを知った瞬間に、俊樹の気持ちも少しだけわかったような気がした。
俊樹とフミ子どちらにも共感できてしまうからこそ、二人が言い合いをしているシーンでさえも涙腺が緩んでしまうのだ。それはきっと鈴木さんと有村さんがそれぞれの役を魅力たっぷりに演じているからだろう。
フミ子の婚約者で、動物行動学の助教・中沢太郎を演じたのは、ドラマ『silent』で注目を集め、月9ドラマ『嘘解きレトリック』では松本穂香さんとともにW主演を務めた鈴鹿央士さん。
フミ子や俊樹に振り回される姿をユーモラスに、カラスと会話をする不思議な太郎をチャーミングに演じた鈴鹿さん。普段はイケメンオーラ全開の鈴鹿さんだが、本作ではボサボサヘアに色黒の肌というビジュアルで、しっかりと太郎のキャラクターを作り込んでいたのが印象的だった。
喜代美の父・仁役を酒向芳さん、喜代美の兄・宏一役を六角精児さん、喜代美の姉・房枝役をキムラ緑子さんというベテラン俳優陣が脇を固めたことで、本作の深みが増しているのも大きなポイント。
フミ子を家族のように大切に扱い、楽しそうにコミュニケーションを取る繁田家の人たちとフミ子のシーンにも注目してもらいたい。
■多幸感に包まれるフミ子と太郎の結婚式&披露宴のシーンは必見!
本作の一番の見どころといえばフミ子と太郎の結婚式&披露宴のシーンだ。繁田家の人たちにも出席してほしいというフミ子の思いを頑なに否定してきた俊樹が、結婚式当日にフミ子への“プレゼント”を届けようと翻弄する姿が泣けてくる。
披露宴で俊樹がスピーチをするシーンも素晴らしく、鈴木さん本人が考えた言葉もスピーチに反映されていると知ってさらに感動が深まった。
「花まんま(ツツジの白い花をご飯に、赤い花を梅干しに見立てたお弁当)」やツツジが咲き誇る公園(明石海浜公園で撮影)など美しいシーンが多いのも本作の大きな魅力。鑑賞後は心が癒やされること間違いなしの本作を、ぜひ劇場で鑑賞してもらいたい。
文=奥村百恵
(C) 2025「花まんま」製作委員会
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