ティラノサウルスは二度絶滅する。“ピカソ化”化石の行く末とは…

  • 2025年4月21日
  • Gizmodo Japan

ティラノサウルスは二度絶滅する。“ピカソ化”化石の行く末とは…
Image: Evolutionnumber9 / Wikimedia Commons ティラノサウルスの「Sue(スー)」

ティラノサウルスを置けるリビングルームって何畳くらいです?

ティラノサウルスは、地球上を歩き回った恐竜の中でとびきり有名かもしれません。でも最近では、「高級化石の取引」という現代的な問題の中心になっています。

科学誌Palaeontologia Electronicaに発表された最新の研究結果によると、商業目的の化石コレクションによって、多くのティラノサウルスの化石が科学者たちの手が届かない場所に置かれてしまい、恐竜に関する科学的研究を著しく妨げているといいます。

科学よりコレクション

この研究では、ちょっとショックな事実が判明しています。科学の研究に役立つとされるティラノサウルスの化石141点の約半数にあたる71点が、個人所有か商業目的で購入されており、博物館や研究機関には置かれていないということです。

これは大きな問題です。なぜなら、科学では再現性(他の人も同じ実験や研究をして同じ結果が出せるか)がとても大事だからです。たとえ過去に誰かがその化石を研究していても、あとから他の研究者がその化石を調べられなければ、その科学的価値は下がってしまいます。

もし化石が収集家の豪邸や倉庫に保管されてしまったら、だれもアクセスできません。そうなると、研究結果の裏付けも、新たな仮説の検証も、研究の発展も不可能になってしまいます。

恐竜の化石がピカソ化

しかもこれはほんの一部のマニアの話じゃありません。1997年にオークションにかけられたティラノサウルスの「Sue(スー)」が836万ドルで落札されて以来、ティラノサウルスの化石は古生物界のピカソ、つまり高級美術作品として扱われるようになりました。

2020年には、これまででもっとも完全なティラノサウルスの骨格とされる「Stan(スタン)」が、オークションにおいて驚異の3,180万ドルという過去最高額でアブダビの博物館に落札されました。

ここまで高くなると、慈善的なお金持ちが寄付を申し出てくれない限り(でも正直あまり期待できません)、ほとんどの博物館はティラノサウルスの化石に手が届きません。

Image: shutterstock ステゴザウルスの化石イメージ

そして昨年、億万長者のケン・グリフィン氏が、ステゴサウルス「Apex(エイペックス)」の化石を4,460万ドルで落札したことで、Stanは「もっとも高価な化石」の座を失いました。グリフィン氏によってアメリカ自然史博物館に貸し出されたその化石は、現在も展示中とのこと。

しかし、オークションで落札されたティラノサウルスの化石5点のうち、博物館が購入できたのはたった1点、Sueだけなのだとか。

商業的な化石収集の功罪

商業目的の化石コレクターは、自分たちが化石を風化から守り、公的機関よりも多くの化石を発見していると主張しています。悲しいことに、これって一応事実ではあるんですよね。

今回の研究の執筆者である古生物学者Thomas D. Carr氏によると、1990年代の初めから、こうした商業収集業者が発見したティラノサウルスの化石は、公的機関の約2.4倍に上るとのこと。

でも、ここに大きな問題があるんです。そうやって見つかった化石のうち、科学の研究に使えるように公開されているのはたった11%だけ。残りは豪邸のリビングに飾られたり、価値が上がるのを待って倉庫にしまわれたりと、科学とは関係のない利益のために利用されています。

もっと深刻なのは、私的あるいは商業目的で購入される化石の中には、科学的にとても貴重なものが多く含まれていること。特に、成長途中の若い個体(幼体や亜成体)の化石は、ティラノサウルスの成長過程を理解するうえで非常に重要なのですが、そうした標本の約2割が個人所有になっているとCarr氏は指摘します。

こういった化石に科学者がアクセスできないと、ティラノサウルスがどのように成長し、成熟していったのか、そしてオスとメスでどんな違いがあったのか(これを「性的二型」といいます)などを正しく理解することができません。

過去の研究によると、特定の集団においてオスとメスの違いがあったかどうかをはっきりさせるためには、成体の非鳥類型恐竜の標本が70から100点必要とされています。

「見えない科学」への疑念

Carr氏の研究は、個人所有の化石をもとに査読を受けた研究論文が発表される傾向、つまり他の科学者が見たり調べたりできない化石から得たデータに科学的なお墨付きを与えてしまうことに異議を唱えています。

市場取引を擁護する人たちは、「最終的にはそういった化石も博物館に収蔵されることが多いから問題ない」と主張しますが、Carr氏のデータはそれを否定しています。実際には、個人が所有するティラノサウルスの化石の中で、博物館などの公的機関に寄贈されたり売却されたりしたものは、ほんの一部に過ぎないそうです。

ティラノサウルスは二度絶滅する

この件について、Carr氏は次のように述べています。

今のところ、個人が所有しているティラノサウルスの化石で、公的機関に寄贈されたり、購入を申し込まれたりした例はありません。ただし、ティラノサウルスの化石が個人のコレクションから公的機関に譲渡されるようになるのか、あるいはそういうこと自体が今後起こるかどうかを評価するには、もっと時間が必要です。

ティラノサウルスはとっくに絶滅していますが、科学的知見の価値がお金よりも高くならない限り、ティラノサウルスは「二度目の絶滅」を迎えることになるかもしれません。

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