漫画家・東村アキコが描いた自伝的漫画『かくかくしかじか』が、東村本人の脚本により映画化。主人公を物語の重要な舞台となる絵画教室に誘う、キーパーソンを演じるのは、大河ドラマ『光る君へ』の演技で脚光を浴びた、見上愛さん。
26年春にNHK連続小説ドラマの主演を務めることが決まり、今最も注目を集めている彼女に、夢だったという演出家への道、そして俳優として生きることについて伺いました。
――永野芽郁さんが演じる主人公の明子と、のちに「恩師」となる日高先生との出会いのきっかけを作る、物語の鍵を握る役を演じていらっしゃいます。「渋谷かぶれのサブカル女子」というキャラクターに取り組むにあたって、どのような役作りをされましたか? 当事者の方と実際に会われるなど、熱心に役作りをされると伺いました。
この仕事を始めたばかりの頃は、演技をする手がかりに乏しくて、色々な方にお話を伺っていましたが、今回は実話ベースの原作があるので、まずは東村さんが書かれた漫画をしっかりと読み込むところから始めました。
また、脚本も東村さん自身が手がけられたので、それも合わせて読むことで立体的な役作りが出来たと思います。原作のルックスに近いヘアスタイルにしてもらえたのにも、とても助けられました。
――主人公は、小さな頃からの夢を叶え、漫画家という職業に就くことができます。見上さんは、小さな頃から変わらず好きで今も続けていることはありますか?
バレーを習っていたり、ハンドボール部に所属したり、バンド活動もしたりと学生時代はさまざまなことにチャレンジしていましたが、ずっと変わらず好きなことはものづくりです。
作るものは色々で、写真も撮りますし、コラージュにハマったことも。同級生とZINEを作ったこともあります。
今、熱中しているのは陶芸。自宅に小型の電気陶芸窯を買って、せっせと作っています。手を動かしていると自然と頭がすっきりしてきますし、何より楽しいです。器なども作りますが、抽象的で実用性のないものを作るのも好き。陶芸ライフを満喫しています。
――見上さんは、もともとは舞台の裏方志望だったとのことですが、どのような心境の変化があり、俳優になられたのでしょうか?
中学2年生の頃に、2.5次元の舞台を初めて観て、そこからぐぐっと観劇にハマりました。内容はもちろん、観客の方々が多幸感にあふれている様子にすっかり圧倒されてしまって。本当に衝撃を受けました。
その体験をきっかけに「絶対に舞台に関わる仕事がしたい! 将来は演出家になりたい!」と、進路を決めたんです。両親も舞台が好きだったので、一緒にミュージカルから小劇場の舞台など本当にたくさん観劇しました。
特に心境の変化があったから、俳優として表に立たせてもらえるようになったわけではありません。今では、この仕事にやりがいを感じていますし、もっと演技が上手になりたいと努力していますが、俳優を強く志したことはないんです。
夢だった演出家の道を歩んでいるつもりが、色々とご縁をいただいて俳優をやらせていただくことに。運とタイミングがよかったんだと思います。流れに身を任せた結果です。
――今後、演出家もやってみたいお気持ちはありますか?
いえいえ。俳優のお仕事をさせてもらえたことで、才能にあふれる演出家の方々の仕事ぶりをたくさん拝見してきたので、私にはとうてい出来ることではないと確信しました。生半可な気持ちでは取り組めない仕事だと思います。だからこそ、同じ夢に向かって一緒に学んでいた大学の同級生が活躍しているのを見ると嬉しくなります。
――本作は東村アキコさんの自伝的物語の映画化です。今、見上さんが自分の人生を振り返って映画を作るとしたら、どんな人物を登場させますか?
登場させたい人、たくさんいます! 多くいすぎて脚本を書くのが大変そう。本作は東村さんと先生の9年間の絆を描いた物語ですが、私だったら自分が生まれる前のストーリーに興味があります。
物心がついてからの自分はたいてい知っているから、両親の出会ったきっかけなどを取材して物語を作りたい。自分が知らないこと、覚えていないことを描くのも、面白いかなって。
見上愛(みかみ・あい)
2000年生まれ、東京都出身。2019年にデビュー以降、映画・ドラマ・舞台・CMと活躍の場を広げる。大河ドラマ『光君へ』にて藤原彰子役で注目を集める。2026年前期放送予定のNHK連続テレビ小説『風、薫る』にて主演を務めることが発表された。
文=高田真莉絵
写真=佐藤 亘
ヘア&メイク=豊田健治
スタイリング=下山さつき