10代の頃から憧れだった劇団☆新感線の2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』に主演するという大きな夢を叶えた柚香さん。30代も半ばに差し掛かり、これからのキャリアを考える時期でもあります。後篇では「大好き!」だという舞台に立ち続ける仕事や悩みや壁にぶつかったときの乗り越え方、自分との向き合い方といったメンタルに関するお話を伺いました。
――15年間宝塚にいらっしゃって、キャリアとプライベートのバランスといったものに悩まれたことはありますか?
幸せなことに、私は在団中から好きなことがイコール仕事となっているので、あまり仕事とプライベートのバランスみたいなことを考えたり、悩むことがありませんでした。
ダンスや歌、お芝居をやりたくて宝塚歌劇団に入りましたし、卒業してからもやりたいことをさせていただけています。学べば学ぶほど、自分のいる環境に幸せを感じることのほうが圧倒的に多いんです。
――先日ご出演されていたTV番組『ボクらの時代』を拝見しました。そこで、舞台に立つことが好きだから悩まずに来たというお話もありましたが、何かあったときに相談していた方などはいらっしゃいますか?
やはり、恩師の存在は大きいです。私の良いところも課題もひっくるめて、いろんなことを教えていただける存在です。
いいことばかりじゃないし、うまくいかないこともたくさんありますし、自分の好きなところもあれば、嫌いなところもたくさんあって、いい日もあればそうでない日もあり……。でも、それは生きていれば当然なんですよね。
その“良くないこと”から逃げるのではなく、正面から向き合って過ごすことが大事だと日々感じているので、自分が悩んだときに「あなたは悪くないよ」「それは運がなかったんだね」というキレイごとだけではなく、“本当にどうして上手くいかなかったのか”“どうして自分はそういう行動をとったのか”をちゃんと考えることを教えてくださる方がいるのは本当にありがたいです。
――きちんと理由を考えるということですね。それは在団中のときからですか?
はい。失敗や自分の悩みをちゃんと次に繋げていくために、逃げずに向き合うことの大切さを学んだと思います。
――実際に、この言葉に救われたという思い出はありますか?
「自分を大切にしなさい」という言葉は、私にとってすごく深く心に刺さりました。ここで全部をお伝えするにはすごく時間がかかってしまうのですが、それは決して“自分を甘やかす”という意味ではないんです。
今まで自分が辿ってきた道筋というのは、やはり多くの方からのサポートや教え、ご尽力があってこそ。今自分が持っているもの、自分がしてきたことの意味を分からなくてはなりません。
自分を大切にするというのは、“どんなふうに今、自分ができているのか”を知り、その意味を理解して、本当の意味で“大切にする”のだと教えていただいたんです。
――なるほど。自分が歩んできた道はすべて、様々な形でいろんな方々が関わってできているということですね。
「自分なんて」と卑下したり、謙遜したりすることは決して美徳にはならないと。どうして今自分がこの状況にいることができるのか、そのために、どれほどの方々から何をいただいているのかを考えると、卑下することは逆に傲慢になるのではないか、決して褒められることではないと教えていただきました。
なかなかそう思うことは難しいのですけれど、とても大切にしていきたい言葉です。
――退団されてからほぼ一年になりました。退団したときに、今の自分の姿は想像されていましたか?
まったく想像できなかったです(笑)。もっと想像してなくてはいけなかったんだろうなと思うのですが……。でも、今すごくありがたい時間を過ごさせていただいていると思います。
――それは“不安”みたいなものを抱えていらっしゃったということでしょうか? 例えば、退団の翌日はどんなお気持ちでしたか?
退団公演の千秋楽の翌日は、まわりの皆様からいただくものの大きさが本当にありがたくて……それを受けて、受け止めて、光合成ができるような感覚でした(笑)。ずっと抱きしめて消化していくような気持ちでしたね。
――以前、星風まどかさんにお話を伺ったときも、同じことをおっしゃっていました(笑)。
きっと似たような感覚だったんでしょうね。その日は不安とかそういった気持ちはまったくなくて、ひたすらに光合成してました(笑)。
――1年前のご自身に声をかけるとしたら、「心配しなくても大丈夫だよ」と言ってあげますか?
きっと、もう少しお尻を叩くと思います(笑)。在団しているときまで遡って、もっともっといろんなことを教えてあげたいです。今あなたが受け取っているものはどういうものかということ、どんな意味を持っているのかを伝えたいですね。
――やはり、時間が経ってからだからこそ、分かることもあると。
はい。今はまだ卒業してから1年くらいですが、これからまた時が過ぎていくうちに、同じように迷ったり考えたりすることがあると思うので、そのときに自分を振り返ったり、見つめ直したりするタイミングを逃さずに、日々を大切にしていきたいと思います。
――毎日お忙しいと思いますが、ご自身の中で決めていらっしゃるルーティンみたいなものはありますか?
私はルーティンをこなしたりすることに、あまりきちんとしていないほうかもしれません(笑)。毎日頑張っていたとしても、生きていくうえで自分を見失うことはたまにあるんじゃないかと思うんです。そうなったときに見失ったままいるんじゃなくて、自分自身の捜索願いをだすようにしています(笑)。
――捜索願いを出すんですね(笑)。
はい。もしかしたら、放浪の旅に出ている自分を許してあげることも必要なのかもしれませんよね。自分を見失っている原因がどこにあるのか、自分にあるのか、ちょっとした疲れなのか、外からの刺激なのか……。原因はその時々で違うと思うので、必要であれば放浪を許してあげて、よきタイミングで捜索願いを出して、自分を戻してあげるようにしています。
――最後に柚香さんの座右の銘を教えてください。
『人間万事塞翁が馬』。いいこともあれば、悪いこともある。一喜一憂せずに感謝しながら毎日を過ごしていきたいと思います。
柚香光(ゆずか・れい)
1992年3月5日生まれ、東京都出身。2009年、宝塚歌劇団に95期生として入団。2014年に『ラスト・タイクーン』で新人公演初主演。2018年の『ポーの一族』より花組新2番手となり、2019年11月25日付で花組トップスターに就任。花組からは12年ぶりに誕生した生え抜きのトップスターとなった。自身初の東上主演作の再演となる『はいからさんが通る』でトップコンビ大劇場お披露目を果たす。『元禄バロックロック/The Fascination!』『TOP HAT』『うたかたの恋』『鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)』など、数々の話題作で主演を務める。2024年5月26日に惜しまれながら退団。お芝居としては退団後初の舞台が、今回出演する2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective 『紅鬼物語』。その後、7月には『BURN THE FLOOR(バーン・ザ・フロア)-COLOR MY HEART-』、12月〜2026年2月には『十二国記 -月の影 影の海-』など大作への出演を控えている。
文=前田美保
写真=佐藤 亘
スタイリスト=大園蓮珠