「モーニング、ラーメン、大きなお風呂」マイペースな旅の達人・おづまりこさんが大切にしている“旅の定番”

  • 2025年4月12日
  • CREA WEB

 ひとりだからこそ楽しい、マイペースな旅の様子がたっぷり描かれているおづまりこさんの旅コミックエッセイ『ゆるり 愛しのひとり旅』(文藝春秋)。

 ひとり旅の魅力や、旅をしながらふと気づいたこと、今後の旅の予定についてうかがっていると、「私も早く旅に行かなきゃ!」という気持ちがふつふつと湧いてきます。(全2回の2回目。前篇を読む)


旅はそもそも「自分のため」にするもの

――本作は旅の臨場感が楽しいのはもちろん、ものの考え方にハッとさせられることが多々あります。たとえば、ひとり旅では人へのお土産を買わないとか。


『ゆるり 愛しのひとり旅』より。

 これは途中で決めました。会社とかに持っていくならいいけれど……会うタイミングがないと、賞味期限が迫ってしまうことってありますよね。

――賞味期限が近づいたものをあげるわけにいかないし。「あの人にあげるならこの人にも?」とか、値段の差がないようにとか頭を悩ませることもありますよね。

 あと、実際問題として持ちきれないんですよね。自分の分で精一杯(笑)。それで「ひとり旅は自分のことだけ考えればいいことにしよう」と割り切るようにしました。自分用に買って帰って、たまたま会うタイミングがあった人におすそ分けするくらいがいいと思います。そういうのは自然で楽しいですね。

ひとり旅を始めて気づいたこと

――おづさんのひとり旅は「そもそも自分のための時間」という基本的なことを思い出させてくれます。ひとり旅を始めて、何か気づいたことはありますか?

 たくさんあります。まず、知らない場所に行くのが意外と好きだということ。それまでは知らない場所はこわいと思ってたんですけど。じつは未知の土地というだけで、めちゃくちゃテンションが上がるんですよ。景色や建物からも、私の知らない歴史の息吹が入ってくるようで、ものすごくおもしろい。


『ゆるり 愛しのひとり旅』より。

 それから、情報収集や探索がすごく好きなんだと改めて自覚しました。昔から好きなお店の情報を調べたり、記事をストックしたりするのが大好きなんですが。調べ始めると時間を忘れてのめりこんじゃいますね。そして「次はここに行こう」「これをやろうかな」と、どんどん興味が広がってワクワクします。

――もうすっかり旅好きですね。

 自分を振り返ってみると、もともと外食や喫茶店などはひとりで行くのに抵抗がないタイプでした。カラオケも。あと、長女なので、ひとり遊びが好きな子だったらしいんです。3時間くらいひとりで、もくもくと積み木で遊んでる子だったそうで。ひとり旅は、ひとり遊びの延長線上にあるのかもしれません。今は大人だから、お金もちょっと使える遊びですね(笑)。

旅先の非日常感が見せる風景に心が動く


『ゆるり 愛しのひとり旅』より。

――第5章(倉敷)で、旅の定番に「モーニング、ラーメン、大きなお風呂に浸かる」を挙げていました。いつから始めたのでしょうか。

 これは、ひとり旅ができるようになる前にやっていた「帰省のついでに関西に一泊」の「ついで旅」で確立したんです。私の中ではこの要素があれば「旅だな」って満足できる。この3つ、別に旅じゃなくてもできることですけど、あえて旅先でやるっていうのが特別な感じがしますね。

 あれ? やっぱり私、ふだんはできないかも(笑)。モーニングの時間に起きられないし、日ごろは大きなお風呂も行かないし。ラーメンも……好きなわりには食べに行ってないです。

 それはさておきこの3つ……日常っぽいからこそ「違う街に来てるな」って気分を味わえるんですよ。

 ラーメンは、土地の特色が出ますしね。ラーメン屋さんや喫茶店のモーニングに行くとその土地の人たちの日常が垣間見れるのもいいんです。お店のすみっこで常連さんたちの会話を楽しんだり、ときにはお店の方とおしゃべりしたり。

ずっと憧れていた尾道で食べたもの

――『ゆるり 愛しのひとり旅』に登場する中で、特に印象的だったエピソードを教えてください。

 そうですねぇ。いっぱいあるんですが、自然の風景が印象に残っています。奈良だと、鹿の公園。尾道だと、ロープウェイで行った山頂からの景色。それから、あえて言うと「その風景を見ているときの自分」も。


『ゆるり 愛しのひとり旅』より。

 一番印象に残っているのは倉敷で、帰るまぎわに歩いた川ぞいの道です。生まれて初めて来た場所なのに、小学校のときにこういう道を通った気がして「懐かしいな」と感じました。旅が終わるさびしさもあってそんな気持ちになったのかもしれませんが、ほんとに不思議な感じがしたんですよ。初めて来たのに初めての気がしなかったっていう。

 じつはいろんなところでちょっとずつ、そんなことを感じていました。街角の風景にも。きっと似た風景をどこかで見ているのでしょうが、胸の奥がギュッとするような郷愁にかられて。今回の旅は昔から行きたいと思っていたところが多く、思い入れが強かったせいかもしれませんが。

――思い入れが強かった場所とは?

 尾道はずっと憧れていました。大林宣彦監督の映画のロケ地として有名ですよね。それから、私の好きな志賀直哉や松尾芭蕉といった文学者のゆかりの地でもあって。志賀直哉が好きだったという柿天(柿の形のかまぼこ)も食べました。文豪の話を始めると長くなるのでやめておきます(笑)。


『ゆるり 愛しのひとり旅』より。

――いつか旅のテーマになるかも?

 それもありかもしれません。あと、倉敷は高校時代の友達からずっと「絶対好きだから行ってみて」と勧められていました。「いつか行かなくちゃ」と、頭の中に引っかかっていました。行けてよかったなぁと思います。

ひとり旅の構想はどんどん広がって


『ゆるり 愛しのひとり旅』より。

――これから行ってみたい場所は?

 今回、尾道と倉敷に行って好きな風景がたくさんあったので、瀬戸内地方を網羅してみたくなりました。四国も行ってみたいです。あと、北海道に行ったので南にも! 福岡も沖縄もひとりで行ったことがないですし。

 東京方面もいいなぁ。住んでいたことがある東京に「旅人」として行ったらどんな感じになるかな? 千葉や埼玉もいいですね。東京に住んでいたとき、とくに北関東は、旅ではほぼ行っていないので。

――テーマしばりで考えていることはありますか?

「行こう」って思わないとはっきりは決まらないんですけど。最近、美術館が好きで。当たり前なんですけど、絵画って一枚しかないわけですよね。所蔵している美術館にしかないんだって、今さらながら気づきまして。「見たい絵を見に行く旅」をやってみたい。

 あとやっぱり食べ物です! 食べたいものがいっぱいあるところに行きたい。

――そのときの、おづさんのマイブームの食べ物?

 今は平たい麺ブームなんですよ。だから名古屋できしめん食べたいです。

――平たい麺ブーム!?

 はい。きしめん以外だと、ビャンビャン麺とかタリアテッレとか。小麦粉を食べに行きたい! パッと行きやすい名古屋なら手羽先も食べたいな。地元の人がおいしいっていう店を調べて行きたいですね。

――「ひとり旅」シリーズ、これからの展開も楽しみです! では、最後に読者にメッセージをお願いします。

 いつも本を読んでくださってありがとうございます。最近「ひとり旅」シリーズで初めて私の本を読んでくださった方、男性読者の方などからも反応をいただくことがあって光栄です。

 よく「私もひとり旅してみたくなった」という声が寄せられます。ぜひやってみてください! お隣の県とか、すごく近くでもいいんです。旅先で「こんな素敵な場所があったんだ」と感動するだけでなく、帰って来て、自分が住む街の良さを改めて感じたりするのも旅のいいところです。『ゆるり 愛しのひとり旅』を読んで「ちょっと出かけてみよう」「こんな旅っていいかも」と思っていただけたら、とてもうれしいです。

おづまりこ

兵庫県生まれ。東京でルームシェア生活を数年した後、ひとり暮らしを始める。現在は関西在住。著書に「料理レシピ本大賞InJapan」コミック賞を受賞した『おひとりさまのあったか1ヶ月食費2万円生活』のほか、『おひとりさまのゆたかな年収200万生活』『わたしの1ヶ月1000円ごほうび』(以上、KADOKAWA)『ゆるりより道ひとり暮らし』『金曜日のほろよい1000円ふたりメシ』(以上、文藝春秋)がある。
X @mariskosan

文=粟生こずえ

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