「ビールを1杯」だけはもったいない! 進化し続けるロンドン“口福”ガストロパブ4選

  • 2025年5月12日
  • CREA WEB

 英国といえばパブ文化。旅人も、地元民に交じって「ビールを一杯」だけではもったいない。いまやロンドンのパブは気鋭のシェフが腕を振るう、グルメスポットなのだから。


炎で旬をデザインするとびきり柔軟な発想力

◆The Parakeet(ザ・パラキート)


英国パブは地域のためにある。ヘッドシェフの地元でもあり、毎日大賑わいのコミュニティ・パブのお手本だ。

この薪オーブンが店の心臓部。

 国内シェフ全体のスキルがぐんぐんと向上していく中で、直火の使い手たちが今もてはやされている。薪オーブンや炭火を使いこなす達人の中でも、北ロンドンに2023年春に登場した「パラキート」のヘッドシェフ、ベン・アレン氏はもはや巨匠の域。


完璧な火通しの“シーブリームの炭火焼き”£58。[左]にはバスクのパプリカ料理、ピペラード[右]が添えられる。相性抜群。

“椎茸とセロリアックを添えたイカ・ヌードル” £12。やわらかく甘みのあるイカと椎茸のバランスが絶妙。

“イベリコ豚とホワイト・ポレンタ”£15は滋味深い一品。ロスコ・オニオンがアクセントに。

 そのキッチンにガス調理器はない。炎と熱を使って調理し、スモークで繊細な香り付けをする。このスタイルはバスク、そしてヨーロッパ各地の調理法に根ざしたものだが、実際はシェフが世界各国のキュイジーヌに触発された創作旬菜であり、味は掛け値なしの美味しさ。


カリブ圏にルーツを持つ生粋のロンドナーのベン・アレン氏。

 とにかく素材と調理法の組み合わせが秀逸なのだ。「毎日届く食材にワクワクする」と、顔をほころばせるアレン氏。


美しいダイニング・ルームの壁には黒人スターの肖像画が並び、独特のポップ感を漂わせる。

 心ある生産者から旬の食材を仕入れることに尽力しているのだとか。ロンドン中のグルメたちが目指す、今最も勢いのあるガストロパブだ。


ヴィクトリア朝パブの伝統を残している。

The Parakeet(ザ・パラキート)

所在地 256 Kentish Town Rd., London NW5 2AA
電話番号 020 4599 6302
営業時間 月〜木曜18:00〜22:00、金曜12:00〜14:00、18:00〜22:00、土曜12:00〜14:30、18:00〜22:00、日曜12:00〜19:00(パブは毎日12:00〜)
定休日 無休
https://theparakeetpub.com/

インド料理愛が止まらない英国生まれのデシパブの今

◆The Tamil Prince(ザ・タミル・プリンス)


店名はタミル地方出身のシェフ、プリンス・ドゥライラージ氏の名前にちなむ。インド料理に合うカクテルも楽しみたい。

 英国に帰化したインド人経営のパブ、いわゆる「デシパブ」が誕生し始めたのが1960年代以降。「Desi」とは「土地」「国」などを意味するサンスクリット語で、英国ではインド的な文化を総称する俗語だ。


“オニオン・バージ”£7.50、“チキン・ロリポップ”£10.50などのおつまみとラガーは最高の相性。“デシ・サラダ”£7.50と“ラム・カレー”£13.50もぜひ。

 2022年創業の「タミル・プリンス」は、いわばデシパブの究極の進化形。今をときめくイギリス人事業家と、カリスマ・インド人シェフによる共同事業であること、味の良さやモダンな店づくりとが相まって、オープン直後から予約が取れない超人気店に。


揚げパンとヒヨコ豆のカレー“チャーナ・バトゥーレー”£10.50。

 まんまるに膨らんだ揚げパンとヒヨコ豆のカレーや、訪れたなら必ずオーダーしたいハウスサラダや南インド伝統のラム・カレーなど、いずれも繊細で雑味がなく、完璧なバランスはやみつきになること間違いなし。

The Tamil Prince(ザ・タミル・プリンス)

所在地 115 Hemingford Rd., London N1 1BZ
電話番号 020 7062 7846
営業時間 月曜は17:00〜22:00、火〜金曜12:00〜15:00、17:00〜22:00、土曜8:30〜22:00(〜日曜21:00)
定休日 無休
http://thetamilprince.com/

アート・ギャラリーが監修するロンドンのベスト・パブ

◆The Audley Public House(ザ・オードリー・パブリック・ハウス)


アート学習や持続可能性に力を入れる世界的なアート・ディーラー「ハウザー&ワース」のホスピタリティ部門「Artfarm」が母体。食材の一部はサマセットにある同系列の農場から取り寄せており、ファーム・ショップも通りの斜向かいにある。上階の同系列レストランでは息をのむオリジナル・アートを展示。

 高級エリア、メイフェアで夕刻を過ぎるとスーツ姿の紳士たちで激混みとなるパブがある。2024年度の英国パブ&バー・アワードで栄えある「ロンドンのベスト・パブ」に輝いた「オードリー・パブリック・ハウス」だ。

 選出の理由は訪れてみると分かる。ヴィクトリア朝後期の美しい赤煉瓦建築、渋く照り返すマホガニーのバーカウンター、革張りのソファや絨毯といった伝統パブへの敬意。対照的に2022年の改修時に地元アーティストによるカラフルな天井画が導入され、現代を主張している。


“チキン、ハム、リークのパイ&マッシュ”£23。

 食事はもちろんガストロ風。このプレミアム感あふれるパブをプロデュースしているのが世界的なアート・ディーラーだと聞けば、深く納得させられるだろう。


“フィッシュ・フィンガー・サンドイッチ”£15。

The Audley Public House(ザ・オードリー・パブリック・ハウス)

所在地 41-43 Mount St., London W1K 2RX
電話番号 020 3840 9862
営業時間 月〜金曜11:00〜23:30、土曜11:00〜深夜、日・祝日11:00〜22:30(食事は12:00〜)
定休日 無休
https://theaudleypublichouse.com/

業界の風雲児たちが斬り込む、伝統とモダンの間

◆The Devonshire(ザ・デヴォンシャー)


ピカデリー・サーカス駅すぐそばに18世紀末に建てられた伝統パブが刷新。遅くまで賑わう。

「現代のパブとは?」という壮大な問いへ、経験豊富なベテラン・パブ経営者と、超人気ステーキハウス創業者がともに情熱を注ぎ、3ツ星レストランの元エグゼクティブ・シェフを引き入れて出した答えが、「デヴォンシャー」だ。


“帆立とベーコン”の前菜£16。モルト・ヴィネガーが決め手。

副菜のグリンピース£5。

 テーマは「英国らしさ」。出される料理はステーキやフィッシュ&チップス、プロウン・カクテルなど通常のパブ飯に見えるが、その実、全く次元の異なる味に昇華されている。


ギネスで煮込んだビーフの旨みを楽しむ“スエット・プディング”£26。イギリス人が好きそうなシンプルでハートが温まる料理が並ぶ。

 スエット(ケンネ脂)の器で包む肉のプディングは近年見かけなくなったパブ料理だが、デヴォンシャーでは見事に再生。


奥に直火グリル設備を備えたメインのダイニング・スペース。

直火料理は目下ロンドンのトレンドだ。

 自慢のグリルは超高熱オーブンで作った薪を使って火入れする本格派だ。


食材は英国産にこだわる。地下には主にスコットランド産アンガス牛を熟成・精肉する冷蔵室がある。

 オープンから1年強で、2025年英国ガストロパブ・ランキング2位(ロンドン内1位)に突如躍り出た、貫禄あふれるニューフェイス。


美味しい自家製ソーセージとギネスは1階のバーで。

The Devonshire(ザ・デヴォンシャー)

所在地 17 Denman St., London W1D 7HW
電話番号 なし
営業時間 12:00〜21:00(パブは平日11:00〜23:00、土曜10:00〜、日曜〜22:00)
定休日 無休
https://www.devonshiresoho.co.uk/

文=江國まゆ
写真=志水 隆

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