「軽やかにいろいろなことをやって…」小林聡美がAudibleで作る“自分と朗読する人だけ”の特別な空間

  • 2025年4月22日
  • CREA WEB

 Amazonオーディブル(以下、Audible)での朗読を行った俳優の小林聡美さん。レイチェル・カーソンの遺作『センス・オブ・ワンダー』の朗読を通じて感じた「声で読む/聴く」ことの面白さ、この先についての思い、新たなチャレンジへの意識についてお話しいただきました。


小林聡美さん。

声に出して読むことの難しさ

――小林さんはこれまでも舞台などで朗読を経験されていますが、今回Audible用にレイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』を朗読してみて、いかがでしたか?

小林 過去に何度か物語を読むというのはさせていただいていますが、そんなに多くはないと思います。物語を読むのは、ナレーションとはまた少し違って「表現」でもあるので、ちょっと緊張しますね。『センス・オブ・ワンダー』は小説ではなく、一人語りの作品だったので、もしかしたら朗読経験の少ない私にも入りやすい作品だったかもしれません。

――声に出して読んでみることで、以前自分で黙読されたときとの手ざわりの違いは感じられましたか?

小林 翻訳文って、けっこう一文が長いんですよね。どこで息を吸うかのタイミングをはかるのが難関で(笑)。

――翻訳ものならではの悩みですね。朗読するうえで気をつけたことはありますか?

小林 聴く人に作品をちゃんと届けたいなという思いがあったので、作品の雰囲気を損なわない読み方とか声のトーンは気をつけました。それと、『センス・オブ・ワンダー』には自然のことがふんだんに描写されているんです。その景色や、自然に触れたときの感触を書いた文章を読む時は、やっぱり耳からちゃんとそれが伝わるように、ということは意識しました。伝えるためには自分の中でもちゃんと具体的にイメージをする必要があるので、一つひとつの描写を思い浮かべながら読むように気をつけました。


「一つひとつの描写を思い浮かべながら読むように気を付けた」と話す小林聡美さん。

書く文章と読む文章の違い

――Audibleをはじめとする朗読を聴く機会はこれまでありましたか?

小林 あります。録音されたもの、CDなどを車の中で聞いたりすることは時々あります。

――どんなものを?

小林 人が話しているものでよく聴くのは……、朗読とは違うけど、落語を聴くのは好きですね。それから、児童文学。昔リリースされたような、俳優さんが読んでいる児童文学を聞きながら運転するのは好きです。好きな方の声を聞きながら運転するとすごくリラックスできるので。ただ、長距離を運転するときは物語を丸ごと聞けるんですが、短い距離だといいところで「話の途中なのにもう運転終わっちゃった」となることもあります(笑)。

――ご自身のエッセイもAudibleになっていますよね? それは聞かれましたか?

小林 ナレーターの方の声や朗読の雰囲気のチェックはさせていただきました。エッセイって、声に出すことを考えて書いていないですよね。だからいざ声に出して読まれたものを聴くと、リズムが不思議になっているところがあったりして……。カッコとかね、文章で読むときは心の声みたいな感じで効果的に使えたりするのでつい使ってしまうけど、それを耳で聴くとなると、ちょっと気になる。今回『センス・オブ・ワンダー』で読む側にまわったときも、植物の名前などを和名で説明する部分のリズムなど、なかなか難しいです。

―小林さんが今後ご自分で書かれたエッセイを読むことも?

小林 それはないと思います。書くことと演じることって、私の中では、別のこととして捉えているところがあって。だから、書く自分と演じる自分が合わさってしまうのは、ちょっと気持ち悪い。他の方に読んでいただくのはとってもありがたいんですけどね。

自分と朗読する人だけの特別な空間を作ることができる

――小林さんは舞台での朗読も経験されていますが、そういったものと、今回のAudibleのような朗読とは違うものですか?

小林 目の前にお客様がいるところでの朗読は、セリフではなくても、やっぱりどこか演劇的な要素があると思います。音楽がかかるタイミングもあるし劇場の雰囲気も、読む作品によって変わります。もちろん私自身、舞台に出る前に「間違えないように」とか「噛まないように」という緊張感をすごく感じますし。


小林聡美さん。

――演劇的。

小林 いっぽうでAudibleの朗読は映画に近いかもしれません。間違えてもやり直しがききますし(笑)。最終的にお客様に聞いてはいただくけれど、実際に目の前には今お客様はいないというところも、映画の撮影と似た感覚がありますね。

――それぞれ、醍醐味が違うわけですね。

小林 でも、お客様の前で読むのは、その瞬間だけのハプニングという楽しみ方もありますよね。Audibleのような作品は、聞きたい時にいつでも聞いてもらえるという利点がありますし、自分と朗読する人だけの特別な空間を作ることができるのはすごく大きな魅力ですよね。

――今回小林さんが朗読された『センス・オブ・ワンダー』はどんな空間で聞いてもらいたいですか?

小林 せっかくですから、やっぱり静かなところで集中して、イメージを膨らましながら聞いていただきたいですね。自然に囲まれた外でもいいですし。作品の美しさと力強さを味わう、特別な時間を楽しんでほしいです。

――Audibleの朗読には、また挑戦されたいですか?

小林 「次はこの作品が読みたいな」というものがあるんです。

――どんな作品ですか?

小林 具体的にはまだ秘密ですが、すごく好きな本があって。翻訳もとても素敵なので、Audibleで聞けたらいいなと思って。自分が朗読したいというより、こういう素敵な物語があるんだということをたくさんの方に知ってほしいんです。私自身、知人に勧められて読んだんですけど、すごく気に入って人にも勧めて。読んでくださった方も「すごく面白かったです」と言ってくれたんですけど、まだ足りない(笑)。

 こういうとき、作品を紹介するために書評のような形をとると、書く人間の主観がメインになって「こういう筋で、こんなところが面白いです」ということくらいしか伝えられない。「この本はこんなに素敵なんです」を伝えるには、Audibleで丸ごと聞いてもらうのがいいのかな、と。

軽やかにいろいろなことを

――今回のAudibleの朗読にせよ、昨年の初のコンサート(『小林聡美NIGHT SPECTACLES チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ』)にせよ、最近、小林さんの新たな活動がどんどん広がっている印象を受けます。

小林 ありがとうございます。あんまり物事に理由をこじつけないで、軽やかにいろいろなことをやって消えていきたいなと思っています。


「軽やかにいろいろなことをやって消えていきたいなと思っています」

――そんな……!

小林 本当に。だってもう、失うものはほとんどないですから。

――以前のインタビューでも、小林さんは「歳を重ねて『こうすれば自分が居心地がいい』ということがわかってくると、『これでいいかな』と思ってしまう」「新発見にも目を向けていかなければ」と話されていましたが、求められて新たな場所に踏み出すことで新しい感情が生まれているのではないでしょうか。

小林 そうですね。とにかく、一緒に仕事をする人たちがみんな若い!仕事のやり方自体も昔とはどんどん変わってきています。撮影現場でみんなが携帯を真剣に観ているから「何やってるんだろう?」と思ったら、携帯がカメラのモニターになっていたりするんですよ。そういうことひとつひとつが衝撃的で、日々発見なんです(笑)。


『センス・オブ・ワンダー』

作品名:センス・オブ・ワンダー
著者:レイチェル・カーソン
ナレーター:小林聡美
配信日:Audible にて、アースデーの2025年4月22日より配信
URL::https://www.audible.co.jp/pd/B0F48MQ35R

雨のそぼ降る森、嵐の去ったあとの海辺、晴れた夜の岬。そこは鳥や虫や植物が歓喜の声をあげ、生命なきものさえ生を祝福し、子どもたちへの大切な贈り物を用意して待っている場所……。未知なる神秘に目をみはる感性を取り戻し、発見の喜びに浸ろう。環境保護に先鞭をつけた女性生物学者が遺した世界的ベストセラー。

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衣装

黄色トップス、パンツ/nooy
アクセサリー(ピアス、ネックレス)/CASUCA

問い合わせ先
「nooy」
東京都中央区日本橋堀留町1-2-9 3階
03-6231-0933

「CASUCA」
カスカ(CASUCA HISTORIA/カスカイストリア)
東京都目黒区目黒3-12-11
03-6452-3196

文=釣木文恵
写真=杉山拓也
ヘアメイク=尾花 ケイコ(PINKSSION)
スタイリスト=三好 マリコ

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