上野動物園のジャイアントパンダのエリアに3月中旬、巨大な2基のやぐらが完成しました。シンシン(真真)がいる「屋外放飼場B」のやぐらのサイズはおよそ縦3メートル×横5メートル×高さ3.7メートル、双子のシャオシャオ(暁暁)とレイレイ(蕾蕾)がいる「屋外放飼場D」のやぐらはおよそ縦3メートル×横4.5メートル×高さ3.5メートル(いずれも天板の縦×横×地面から天板までの高さ)です。
やぐらの設置は、パンダの多様な行動を引き出したり、運動量を増やしたりするためで、環境エンリッチメント(飼育動物の生活環境を豊かにする取り組み)の一環です。
実は、シンシンの運動量を増やして、高血圧の悪化を防ぐことも大きな目的の1つでした。シンシンは昨年、高血圧だと判明し、鼻血を出しました(『上野動物園のパンダ「シンシン」が体調不良…元気な姿をみられるのはいつ?』)。上野動物園は昨年9月20日以降、シンシンに対し、定期的な血圧測定と投薬を続けながら薬の量を調整するなど、高血圧の改善に取り組んでいます。
やぐらの設置工事は1月26日(金)〜3月17日(日)に行い、その間、シンシンは原則非公開、双子は室内で公開となりました。パンダは暑さが苦手。冬は屋外に出られる貴重な季節なのに、2カ月近く屋外で公開されなかったため、珍しく雪が積もった2月6日(火)も来園者はパンダが雪の中で過ごす様子を見られませんでした。
冬に工事をしたのは、もしや年度末の東京都の予算消化のため?との疑惑も浮上しましたが、そうではなく「少しでも早くやぐらをつくって、シンシンに運動をさせてあげたかったから」(大橋直哉さん)とのことです(大橋さんの肩書きは、取材した3月時点は上野動物園教育普及課長、4月から多摩動物公園教育普及課長)。
ちなみに上野動物園の工事は東京都が発注するケースも多いのですが、3月にできた2基のやぐらは、公益財団法人東京動物園協会(東京都の指定管理者)が発注しています。建設費を同協会に問い合わせると、3月25日時点で「まだ確定していません」との回答でした。この建設費は東京都の歳出ではなく、寄付金などによる「ジャイアントパンダ保護サポート基金」から支出します。
シンシンは休園日の3月18日(月)に初めて新しいやぐらに接すると、やぐらに登りました。でも双子が別居したら、シンシンも場所を移ることになり、やぐらを使えなくなります。
上野動物園としては、シンシンにもっと長くやぐらを使ってもらうつもりで「屋外放飼場B」に設置したものの、双子のじゃれ合いが3月末頃から急にエスカレートしてきたため、別居を決めたとのこと。双子が別居したら、うち1頭が「屋外放飼場B」に来て、シンシンは「屋外放飼場A」に移ります。
下図のように、「屋外放飼場B〜D」は室内の公開エリアとつながり、パンダが行き来できるようになっていますが、「屋外放飼場A」はつながっていません。そのためシンシンが室内にいるときは非公開になります。
ただし、非公開ながらも広めの屋外・室内エリア(下図の濃い緑色と黄色のエリア)とつながっているため、シンシンにはそちらでも運動してもらい、引き続き運動できるように工夫していくそうです。
「屋外放飼場D」には、双子が登ったり降りたりできるように、以前から擬木(ぎぼく)などを設置していますが、新たなやぐらも設置しました。双子が成長していることもあり、行動の選択肢を増やすためです。
新しいやぐらは杉でできています。その下に従来からあるやぐらの支柱は擬木です。
双子は、休園日の3月18日(月)に初めて新しいやぐらの所へ。上野動物園によると、双子は最初、やぐらに警戒するそぶりを見せたものの、においを入念にかいだり、体をこすりつけたりして、興味しんしんの様子だったそうです。
筆者が3月22日(金)に観覧したときは、シャオシャオが新しいやぐらの上を悠然と歩いていました。すると、レイレイが従来からあるやぐらに登って、シャオシャオの真下に来たのに気づいたのか、そちらに降りてレイレイとじゃれ合い始めました。
やぐらは日よけや雨よけにも役立ちます。お昼寝にも使えるかもしれません。筆者は、シャオシャオが新しいやぐらの下(従来のやぐらの上)ですやすや眠っているのを観覧したことがあります。筆者はまだ観ていませんが、新しいやぐらの上で眠った可能性もあります。
現在、上野動物園にいる全4頭のパンダは西園で暮らしていますが、双子の姉で昨年2月21日に中国へ渡ったシャンシャン(香香)は東園にいました。シャンシャンが東園の屋外で眠るときは、ほとんどやぐらの上か木の上でした。
シャンシャンはハンモックにも乗っていましたが、西園にはハンモックがありません。西園の遊具などの設置は「これで終わりということではなく、ハンモックもつくるかもしれませんし、ほかの要素も加えるかもしれません。(担当の職員が)様子を見ながら随時、検討していくようです」(大橋さん)。
双子はすくすく育っていますが、少し気になることも。筆者は昨年以降、シャオシャオがのけぞる動きを繰り返すのを何度も目にしました。常同行動のようにも見えます。また、レイレイは時おり後ろ向きに歩いています。上野動物園によると明確な理由は明らかになっておらず、「いろいろな工夫をしながら、なるべくパンダに負荷をかけない飼育をしていきたいと思っています」(大橋さん)とのことです。
双子の動きはストレスなどと関係ないのかもしれませんが、もし何か良くないことがあるとしたら、新たなやぐらなどの環境エンリッチメントや双子の別居が好影響をもたらすかもしれません。
新たなステップを踏み出すシャオシャオとレイレイ。健やかな成長を願います。
中川 美帆 (なかがわ みほ)
パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(11カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo
パンダワールド We love PANDA
定価 1,650円(税込)
大和書房
文・写真=中川美帆