食の都・パリを牽引する名門ホテルのメインダイニングは、受け継がれてきた技術と革新的な感性を備えたスターシェフたちの“作品”に魅せられる場所。
その優美なガストロノミーを皮切りに、今行くべきグルマンの旅を案内する。
4回に渡り、名門ホテルのメインダイニングとそのホテルをご紹介。
2021年から閉店していたリッツ・パリ内の「エスパドン」が先の9月に再開した。
ホテル王セザール・リッツと近代料理の父オーギュスト・エスコフィエの名に応えるべく、新シェフとして白羽の矢が立ったのはウジェニー・ベジア。
南仏で1ツ星を獲得していたが、無名の存在。彗星の如く現れ、彼女の料理を食したグルメたちは瞬く間に虜になった。
グルメガイド「ラ・リスト」は昨秋に、「ニューアライバル・オブ・ザ・イヤー」というスペシャルアワードを授けている。
ウジェニーはアフリカの土地で18歳まで過ごした。その時の味の記憶や、フランスに戻って過ごした南仏での食体験を、繊細かつ鮮烈に料理に閉じ込めるのを得意とする。
雌鶏の一皿は、アフリカの郷土料理「ヤサ」から着想を得た。鶏肉と玉ネギを別々に調理し、南仏産の様々な柑橘類の香りをスパイスに。
オマールの料理では、ソースから心地よい酸味のハイビスカスの花の香りが立つ。アフリカのビサップというハイビスカスティーの思い出を閉じ込めたそう。
一皿一皿から様々な情景が立ち上るような手腕に脱帽。ヴェルサイユにあるリッツ独自の菜園から運ばれる野菜も豊かだ。新しい美食の歴史の扉が、ここに開いた。
Eugénie Béziat(ウジェニー・ベジア)
1983年ガボン生まれ。3ツ星シェフ、ミッシェル・ゲラールに師事。2018年南仏「ラ・フリビュスト」のシェフに就任し1つ星を獲得。’22年より現職。
ESPADON(エスパドン)
所在地 15 place Vendôme 75001 Paris
電話番号 01 43 16 33 74
営業時間 19:00〜21:00(最終着席)
定休日 日・月曜
※2024年1月28日〜2月13日が休み。8月にも休業の予定あり。
https://www.ritzparis.com/hotel/paris/bars-restaurants/espadon-restaurant
2023年に創業125年を迎えたリッツ・パリ。創業者セザール・リッツは、女性に優しいエレガントなホテルであることに最善を尽くしたそうで、女性が同伴者なしで入館できるホテルとしても知られた。
昨秋オープンしたメインダイニング「エスパドン」に女性シェフが就任したのにも、同じエスプリを感じる。2012年から4年かけて行われたリニューアルに引き続き、毎年新しい挑戦を欠かさない。
例えばカンボン通り沿いそばの「リッツ・バー」。ベル・エポック風の透かし模様の入った真鍮製傘がかけられた円形のカウンターはモダンで優雅。
パティスリーショップ「ル・コントワール」も人気のスポットに。老舗ホテルの懐で調和された、今のパリの魅力から目を離せない。
Ritz Paris(リッツ・パリ)
所在地 15 Pl Vendôme 75001 Paris
電話番号 01 43 16 30 30
客室数 142室
料金(1室)2,000ユーロ〜
https://www.ritzparis.com/fr
文=伊藤 文
撮影=小野祐次