天国へと旅立ったMAYA MAXXの展覧会『生きる』。生きるとは? 問いかけの先にあるもの

  • 2025年1月31日
  • コロカル
「MAYA MAXX_Luce」の活動をともにして

コロカルの連載でもたびたびその活動について書いてきた、美流渡在住の画家・MAYA MAXXさんが1月9日に亡くなった。

東京からこの地に移住する少し前の2020年3月11日に、北海道を拠点としたMAYAさんの活動を「MAYA MAXX_Luce」と名づけ、私はSNSでの発信や展覧会、ワークショップなどのマネジメントを行ってきた。2020年夏に移住してからは、仕事をともにするだけでなく、家族ぐるみで毎日顔を合わせながら暮らしてきた。

2022年、アトリエのすぐ近くにある旧美流渡中学校で開催された『みんなとMAYA MAXX展』にて。(撮影:佐々木育弥)

2022年、アトリエのすぐ近くにある旧美流渡中学校で開催された『みんなとMAYA MAXX展』にて。(撮影:佐々木育弥)

2023年夏に肺がんであることがわかってからは診察に立ち会うことも多く、体調の変化をかたわらで見守った。MAYAさんは治療をしながらも、近隣の旧美流渡中学校をはじめさまざまな場所で展覧会やイベントを行い、2024年晩夏にはがんもかなり小さくなり、これから新しい絵を描こうと準備を進めていた矢先に骨への転移が見つかった。

11月に入院し、治療の甲斐なく天国へと旅立ってしまった。この間の詳細については、まだ言葉ではつかみきれず、頭に霧がかかっているような感じなので、いまは書くことは難しい。ただ、生前から2月に展覧会を開催することが決まっており、そのことを今回は書いておきたい。

2024年夏フェス〈JOIN ALIVE〉のアートエリアで作品を展開。赤いクマの塔を立てた。

2024年夏フェス〈JOIN ALIVE〉のアートエリアで作品を展開。赤いクマの塔を立てた。

札幌にあるギャラリー、茶廊法邑(さろうほうむら)にて『生きる MAYA MAXX、現代の掛け軸展』が2月5日から16日まで開催される。2024年冬にもこのギャラリーで展覧会を開催しており、今回が2度目。1回目の展覧会を行ったときに、「次はロールスクリーンに描いた作品を展示してみたい」と語っており、その思いが実現することとなった。

『みんなとMAYA MAXX展』2024年1月20日〜2月25日、カフェ&ギャラリー茶廊法邑で開催された。

『みんなとMAYA MAXX展』2024年1月20日〜2月25日、カフェ&ギャラリー茶廊法邑で開催された。

茶廊法邑にて。2023年に描いた「林の中の象のように」が展示された。病気であることがわかる直前に描かれた大作。

茶廊法邑にて。2023年に描いた「林の中の象のように」が展示された。病気であることがわかる直前に描かれた大作。

窓などにかけるロールスクリーンを支持体にしたシリーズを描き始めたのは2020年3月。コロナ禍の東京だった。いつも新鮮な気持ちを持って描きたいと考えていたMAYAさんは、手が慣れてしまわないように、キャンバスだけでなく、ダンボールや板、和紙など支持体を変えることがあり、ロールスクリーンも試してみることにしたのだと思う。キャンバスとはまた違う絵具の独特のにじみがあって、このにじみは日本の古くからある山水画と共通するという意識を持っており、普段使っているアクリル絵具に加え、黒は墨汁を用いていた。また、巻き取って保管できることから、ロールスクリーンを「現代の掛け軸」として捉えていた。

館蔵品企画展『TAMABI+MAYA MAXX』2023年12月23日〜2024年5月6日、〈今治市玉川近代美術館〉にてロールスクリーン作品と館蔵品とのコラボレーション展示が行われた。

館蔵品企画展『TAMABI+MAYA MAXX』2023年12月23日〜2024年5月6日、〈今治市玉川近代美術館〉にてロールスクリーン作品と館蔵品とのコラボレーション展示が行われた。

この時期、毎日、MAYAさんから制作報告のメッセージが送られてきていて、それを私が動画としてまとめた記録が残っている。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が出される直前から、借りていたアトリエに通うのをやめ、自宅の小さなスペースで制作を行った。これまで何度か描いてきたテナガザルから始まり、龍虎図、そしてバケツを手に持つ人物が現れた。

MAYAさんは、絵を描くとき、あらかじめ何を描くのか決めていないことも多かった。画面をじっと見つめているうちに現れてきたイメージを描いたり、筆の動くままにしているうちにかたちになったり。なぜ、バケツを手に持っている人物を描いたのか、本人にもわからないと語っていたが、コロナ禍が心に影を落としていたことが、こうした人物の姿につながったのだと思う。

3月29日〜4月7日の制作日記

4月8日〜18日の制作日記

4月22日〜5月1日の制作日記

6隻の赤い舟は一体何か?

このシリーズのおそらく最後の何枚かに当たるのが、ひときわ細かく描き込まれた作品「I am in the center, I never moved.(私は中心にいて、決して動かなかった)」。MAYAさんが美流渡に移住してから始めたラジオ番組『MAYA MAXXのplaypray』でこの作品についてこう語っていた。

「普通のキャンバスより上下が長いこともあって、上の方は天上界みたいなところで、下が地面というか人間界。その間に水みたいなものがあって、そこに赤い舟が6隻あって、ひとりずつ人間がいます。下の方ではふたり組が担架で何かを運んでいるんですよ。

最初にあんまり考えないで、まず絵具を青とか緑をポンポンと置いていく。このとき(絵具が)にじむがままにさせておきました。乾いたときに真ん中(にあったにじみ)は湖なんだなとか、上は空かなと思って浮雲を描きました。いつもじゃないんですが、リリカルっていうかな、抒情的な詩的な感じの絵が時々出てくるんですよ。

この白い木の幹や葉っぱの細かいところを、えんえんと描いたりするわけ。常日頃から細かいことはもう面倒くさいって本当に思っているんです。なんだけどこういうとき、何か取り憑かれたように細かいことを描いたりします。そのなかで成立してくる説得力みたいなものってやっぱりあると思うんですよ。

6隻の赤い舟っていうのは一体何なんだろうって。なんか中間だよね、あの世とこの世のようなね。だからあの舟に乗っちゃいけないのかしらとか思うね。私が(普段から)描いている舟っていうのは、だいたい人がひとりで乗っている。ひとつの舟にふたりとか3人で一緒に乗ったら、どちらがこの舟を持っているのかとか、どちらに行くとか、ややこしいことが起こるじゃない? だから最初からひとり1隻の舟、何事においてもひとり1個、自分の責任で自分のものを持っていて、その上で集まろうっていうのがいいんじゃないかなって。人生の大事なことかなって思っているんですよ」

MAYA MAXX「I am in the center, I never moved.」 2020

MAYA MAXX「I am in the center, I never moved.」 2020

「I am in the center, I never moved.」部分。6隻の赤い舟が描かれている。

「I am in the center, I never moved.」部分。6隻の赤い舟が描かれている。

「I am in the center, I never moved.」部分。担架で人が運ばれている。

「I am in the center, I never moved.」部分。担架で人が運ばれている。

生きるとは? 問いかけの先にあるもの

茶廊法邑の展覧会は「生きる」とつけられた。昨年の10月、そろそろ展覧会のタイトルを決めなければならない時期となっていたため、私から「いまもっとも関心のあることをタイトルにしてはどうか?」と提案したところ、「それなら、生きる」とMAYAさんは語った。この時期、1年以上向き合ってきた「がんから寛解する」という目標まであと一歩というところまで来ているとMAYAさんは捉えていた。回復の喜びと同時に、これからどのように生きるのか、何をしていくのかという問いがふつふつとわきあがり、そこにこれまでの治療による心身の疲労や再発への不安などが重なり合って、心のなかは穏やかではなかったように見えた。

11月に入院をしてから、茶廊法邑で新作を展示したいと体調の良い日は絵を描いていた。12月16日、最期に描いた作品。

11月に入院をしてから、茶廊法邑で新作を展示したいと体調の良い日は絵を描いていた。12月16日、最期に描いた作品。

先日、MAYAさんの作品制作をいつもサポートしていた地域の仲間と一緒に、茶廊法邑の展覧会に出品する作品の搬入準備をした。アトリエには、チョークで赤い花を無数に描こうと考えてMAYAさんが購入した大量の白い紙があった。床には3メートル以上のキャンバスが置かれ、青い下地が塗られたままの状態で残されていた。「ここに白い象を描くところから、また始めようと思う」と語っていた。

2021年、アトリエにて。(撮影:佐々木育弥)

2021年、アトリエにて。(撮影:佐々木育弥)

ここにある紙やキャンバスに新しく線が引かれ色が塗られることはないのだろうか。それが不思議でならない。アートは何百年、何千年と存在し、その時代時代に人の心に届くものだとすれば、これらの作品を展示し伝えることで、MAYA MAXXの作品に新たな光が当たり、作品が育まれ生き続けるのではないか。「生きる」という言葉は、MAYAさんの手から私たちに引き継がれたのではないかと思う。

information

生きる MAYA MAXX、現代の掛け軸展

会期:2025年2月5日(水)〜 16日(日)

会場:カフェ&ギャラリー 茶廊法邑

住所:北海道札幌市東区本町1条1-8-27

TEL:011-785-3607

時間:10:00〜18:00(最終日16:00)

定休日:火曜

Web:カフェ&ギャラリー 茶廊法邑

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/

https://www.facebook.com/michikuru

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