さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。第42回は、〈バックパックブックス〉の宮里祐人さん。
旅は好きなものの、いつも詳細な計画はたてないという宮里さん。2024年6月に沖縄本島を旅したときもほとんど行き当たりばったりの旅をしたようだ。
しかしそれでも興味の赴くままに行動していると、なぜか偶然がうまく重なることがある。でもそれは偶然ではないのかもしれない。
そんな出会いを繰り返した沖縄の旅。本屋、本、レコード、ジャズがつないだ縁とは?
計画は立てない、沖縄の旅旅の本を多く扱っている新刊・古本屋を営んでいます。以前は出版社に勤めていましたが、自営業ならやり方次第でまとまった休みをとって旅に出やすくなるかもしれないという目論見もあって開業しました。なので真冬や梅雨や真夏など、お客さんの足が少し遠くなりがちな時期にまとめて休みをとって旅に出るようにしています。
今年6月は10日間ほど沖縄本島に行きました。旅に行く際はほとんど計画を立てません。帰りの時間や場所にもできるだけ縛られたくないので、行きのチケットしかとらないことが多いです。今回もじっくり見て回ったことのない沖縄本島の北部に行くことと6月23日の沖縄の慰霊の日の式典に参加することくらいしか予定を立てずに、東京が梅雨入りして沖縄が梅雨明けしたタイミングの6月後半に出発しました。
那覇空港に着いて、前に乗ったことのあるモノレールは避けて那覇市街までフラフラと歩いてみることに。空港に隣接した航空自衛隊の基地などモノレールからでは目に入らなかったかもしれないものを目に焼きつけました。途中、ブックオフがあったので入店して沖縄に関する本を物色。そのなかのひとつに沖縄独自のジャズ文化を追って紹介した『沖縄ジャズロード』がありました。
宿に荷物を置き、国際通りを抜けて少し行った栄町市場という場所にある、Instagramで見ていておもしろそうなラインアップが気になっていた写真集専門の本屋さんへ向かいました。しかし到着すると、なんとその日に限って1時間ほど早く閉めしてしまったようで既にシャッターが。「あぁ、これが沖縄か……」なんて勝手なことを思いつつ、自分も自店で遅刻などを繰り返しているので何もいえないなぁと思い直して付近を散策すると、たまたまレコード屋さんがあったので入りました。
初日からレコードはかさばるし……と思っていたのですが、大好きな沢木耕太郎『深夜特急』の表紙に酷似したジャケットのレコードを見つけてしまい試聴。レコードはニューヨークのジャズグループ、マンハッタン・トランスファーのベスト盤。ジャケットはやはり『深夜特急』と同じカッサンドルのものだと思います。試聴機の横にあった『本日の栄町市場と、旅する小書店』という本をパラパラと捲ると、どうやら〈宮里小書店〉という本屋さんの本のよう。宮里小書店は自分と苗字が一緒ということもあって以前から知っていたのですが、ここ栄町市場にあるとは……!
店員さんにレコードの代金を払う際に「この宮里小書店は近くなんですか?」と聞いてみると「すぐそこだよ、普段はもう閉まっている時間だけど、今日はちょうど水曜だから夜は真夜中書店という名前で別の人が来て営業してるはずだよ」とのこと。それはラッキーなのですぐに行ってみました。
教えてもらったほうへ少し歩くと、居酒屋だらけの商店街の狭い路地に、扉も何もなく開け放たれた真夜中書店が開いていました。聞くと宮里小書店の一角を毎週水曜の夜に貸してもらって営業しているとのこと。店主のあかりさんは自分と年代も近そうで自然と本や音楽の話に。
そんな間にも、音楽をやっている人が来てあかりさんと「一緒に曲をつくりたいねー」なんて話をしていたり、なんだか一風変わったカレンダーを持ってくる人がいたり、写真をやっているシュンくんという人が自分の展示のフライヤーを持ってきたり。みんな次のワクワクを探している感じがしてとてもいい時間を過ごさせてもらいました。
自分のお店も深夜まで営業しているので、東京に戻ってからも水曜の夜になるとたまにこの日の光景を思い出します。週に1回パラパラと若者たちが訪れては本を囲んでこんな話を繰り広げている場所があると思うと元気が出るのです。また、今自分のお店で置かせてもらっている辺野古に関するフリーペーパー『うみかじ』もここで初めて貰いました。
翌日は別の古本屋を巡りつつ、買った本を読もうと『沖縄ジャズロード』で紹介されていて気になった喫茶店〈ローズルーム〉へ。観光客にもジャズファンにも開かれつつ日常にフラリと寄れる喫茶店という雰囲気でとても居心地のいいお店でした。
帰り際に自分の持っていた袋から透けていたレコードを見て「マンハッタン・トランスファーなんて聴くんだね」と店主さんが声をかけてくれました。「ジャケットが好きな本に似ていて試聴したらとても良かったので買ってみました」と伝えると、「ここの店の入り口の扉に描かれている絵はマンハッタン・トランスファーなんだよ」とのこと。
そんな偶然があるのかぁなんて思いつつ喋っていた束の間、ひとりの若者が入店。あれ、なんと前夜に真夜中書店で出会ったばかりのシュンくんでした。ここまで重なると少し怖いなぁと思いながらもシュンくんとコーヒーを飲んでタバコを吸って30分ほどで解散しました。
旅をしているとこんなふうに道中で出会ったもの同士が円環を描くようにつながっていくことがあります。この旅でもその後、原付を借りて沖縄北部をロードトリップしていて『うみかじ』をつくっているうみさんに偶然出会って、今はお店に置かせてもらっています。
茨木のり子の『一本の茎の上に』で紹介されていて知ったのですが韓国には「始まりが半分」ということわざがあるそうです。旅も似たようなところがあって、行くべき場所が見つかって行ってしまえばあとは旅に身を任せるだけ、半分はもう達成されているような気がしています。
古本を売って少し長めの旅の費用を捻出するのは正直かなり大変なのですが、自分の意思と偶然が折り重なってゆく旅の中でのスリリングなプロセスと、その結果出会えた人や場所のことを思うと、また次の片道切符を手にしたくなってニヤニヤしてしまいます。
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Yuto Miyasato 宮里祐人
みやさと・ゆうと●1989年、神奈川県生まれ。東京・代田橋駅前の本屋〈バックパックブックス〉の店主。登山や旅の本を中心に、新刊古本ともに扱う。
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Yuto Miyasato
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