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わずか13戸の小さな集落で育まれる、希少なお米〈コタキホワイト〉その味わいは?

  • 2023年11月2日
  • コロカル
2度目の小滝集落。そこは銀世界ではなく、黄金の稲穂が揺れる豊かな土地

「ハナコさん、とてもおいしいお米があるので食べてみて!」

1年ほど前、そう知人から手渡されたのが長野県栄村・小滝集落でつくられたコシヒカリ〈コタキホワイト〉でした。

日本有数の米どころである新潟県中魚沼郡と隣接する長野県の栄村。なかでも小滝は、わずか13世帯36人の小さな集落。作付けできる量にも限りがあるため、かつてはほとんど地元からは出ない「幻の米」だったそう。さっそく炊いてみると、米は小粒ながらしっかりと甘みがあり、もちもちとした食感で確かに美味。あまりに気に入り、当時食べていた別の米を差し置いて繰り返し炊いたら、あっという間に食べ終わってしまいました。

この米が育つ場所を見てみたい……。そう思っていたところに、「真冬の小滝でかまくら宴会をする」と聞けば飛んでいくのが道理。2023年2月、初めての小滝集落を訪れました。

(写真提供:小滝集落のみなさん)

(写真提供:小滝集落のみなさん)

東京からは車で3時間ほど。着いてみれば想像以上の雪で、年間5か月以上、例年は3メートルを超えて降り積もる深雪地帯なのだそう。この気候も米づくりに大きく関係しているのだろうなあ。そう思いつつも、周囲は見渡す限りの銀世界。田んぼの気配は一切わからないままテクテク歩くと、目の前に現れたのが巨大なかまくら!

集落のみなさんが、数日をかけてつくり上げられた、大人でも20人以上が入れるというビッグサイズ。立派なテーブルやベンチシートも雪をかためて設置され、本当の宴会場さながらです。中を覗くと小滝の人々がもう集まっていて、一升瓶を手に私たちを温かく迎えてくれました。

かまくら内外にやさしい明かりが灯り、ふるまわれたのは豚しゃぶ鍋や鴨鍋。根菜などの野菜がたっぷり入り、大人も子どももみんなで囲めば芯から暖まります。集落のみなさんが用意してくれた長野の日本酒や地元産のどぶろくとお酒もふるまわれ、〈コタキホワイト〉の米粉を使ったみみだんごなども出していただき、小滝に伝わる郷土料理の話でも盛り上がりました。みなさんの笑顔がまぶしいこと。みんな、この地の暮らしとお米に誇りをもっているのだな。そう思いました。

そして月日は流れ、再び訪れたのが2023年9月の稲刈り。雪が消えた秋の小滝は、まるで別の場所のよう。澄んだ空気と緑もゆる山々に囲まれ、目の前には黄金に輝く田んぼの稲穂が広がります。ああ、銀世界も素敵だったけれど、これほどに美しい集落だったのか。

小滝集落 2023年9月

到着した夕方からは、みんなでバーベキュー。畜産も盛んな近隣エリアで育った豚肉と、朝採れの新鮮野菜を鉄板で次々に焼き上げます。肉はもちろん、この野菜がジューシーで最高! 参加していた子どもたちも、モリモリとたいらげます。

みんなでバーベキュー

そして大人は、やっぱりグラス、盃片手のおしゃべり。集落のみなさん、そして参加者同士でにぎやかなひととき。ついつい私もおかわりを繰り返しながら、楽しい夜は更けていきました。

稲刈り祭りのお手伝い。その醍醐味は100人分のきなこのおむすびづくりにありました!

稲刈り祭り

翌日の朝は、小滝を愛する親子連れの参加者や、集落の子どもたち、長野県の大学に通うボランティアの学生さんによる稲刈りがスタート。それぞれが鎌を手に、たわわに実った稲をザクザクと刈っていきます。初めての参加者でも、ベテラン勢からの指導があるので安心。最初はとまどいながらも、束ねて結んでハゼにかける作業までこなせるようになるのはあっという間です。

一方、朝から古民家に集まった十数人の女性チームでとりかかるのが参加者全員分の昼食づくり。〈コタキホワイト〉を使ったおむすびとおかずセットをつくるのだそう。もちろん私も、興味津々でお手伝いさせていただくことに。

まずは、豚汁の仕込み。なんせ100人分、リーダーの指揮のもと大量の具材を手際よく切り進め、寸胴鍋で煮ていきます。珍しいのは、たっぷりのキャベツを加えること。汁に甘みが出るそうなので、今度真似してみよう。

豚汁の仕込み

そのほか、大根ときゅうりのなますをつくり、卵焼き、自家製の漬物などのおかずを分配できたら、ホッとひと息。みんなでちゃぶ台を囲んでお茶の時間です。これから「おむすびづくり」という一大作業が待っているため、休憩は必須なのだとか。お菓子をつまみながら、お互いの家族や、最近の畑作業のこと……おしゃべりは尽きません。

「この小さな集落では、みんなで助け合うことが当たり前。昔からお互いをよく知っている間柄だからこそ、それぞれの得意なことや苦手なこともよくわかっています」と話すのは、3人の子育て真っ最中の島崎佳美さん。

「私も一度は集落を出ましたが、やはり小滝が大好きで夫や子どもたちを連れて戻りました。ここにいると周りの人に助けてもらいながら、自分も必要とされていることもすごく実感できる。今日みたいな作業も、みんなのチームワークで楽しく乗り切れます」

島崎佳美さん

ひと息ついたら、いざ合計7升、約200個のおむすびづくり。ボランティア学生さんなどメンバーも増えて、これは気合いが入ります。

合計7升、約200個のおむすびづくり

にぎるおむすびは2種。1種は米の味がよくわかるシンプルな塩むすび。もう1種は、きなこに塩と砂糖を混ぜたものをまぶす、きなこむすびです。この組み合わせは昔から田植えや稲刈り中の食事の定番。黄金色のきなこは、稲穂の色に見立て豊作を祈願しているのだとか。

シンプルな塩むすび

並べたテーブルを囲み、ごはんを計量する人、にぎる人、きなこをまぶしつける人……流れ作業で、あっという間におむすびとおかずセットができあがりました。まん丸ににぎるのがかわいい!

おむすびとおかずセット、豚汁

昼どきになると稲刈りを終えた参加者が続々と戻り、用意された昼食を囲みます。腰をかがめてがんばった作業後のおむすびは最高の味だったのでは。「汗をかいたあとに、きなこの塩と砂糖がしみるね〜」と、東京から初参加の方がぽつり。みんながおいしそうにおむすびを頬張り、アツアツの豚汁をおかわりする「稲刈り祭り」は、こうして無事に終了したのです。

稲刈りを終えた参加者が続々と戻り、用意された昼食を囲みます

小滝の土地は、米づくりにとって理想の土壌。そして集落に溢れる笑顔が、味の仕上げです

「小滝でできるお米がなんでおいしいか? それは、まず環境に恵まれていることが大きいよね」と話してくれたのは、小滝集落の米づくりリーダー・樋口正幸さんです。たとえ同じ品種でも、育て方はもちろん環境によってまったく違う味や食感になるのが米栽培。その点、この地は米に適した条件がそろっているのだとか。

小滝集落の米づくりリーダー・樋口正幸さん

「小滝の土壌は、良質の米づくりに欠かせない腐植(ミネラル分)が50センチ以上堆積している国内でも珍しい土壌だそうで、田んぼに流れる水も、300年以上前に造られ、手入れを続け今も使っている水路で山から引いてきた自然な雪どけ水。さらに、1年のうち5か月は雪が積もる土地でしょう。この分厚い雪に覆われている間に、稲の養分となる栄養素が土壌に蓄積されるんですよ」

さらに、昼夜の寒暖差もお米には良い影響が。気温の低い夜は稲の呼吸が穏やかになり、日中の光合成で得たデンプンなどの成分がしっかりと蓄えられるのだとか。なるほど、まさに米づくりにとって理想的な環境!

この地で50年以上、米栽培に携わる正幸さん。それでも毎年、もっとおいしいお米をつくりたいと試行錯誤しているそう。

「特に変化が大きかったのは、震災後だね。東北の震災翌日の長野県北部地震で、小滝にも震度6強の地震があり、田んぼの被害は7割で、家も13戸のうち、全壊3軒、半壊7軒と深刻でした。ボランティアのみなさんに助けられ、復興努力をするなかで、これからは「集落外との交流」が復興の柱になると、集落の全戸が出資して〈小滝プラス〉という会社を設立しました。米はJAへの出荷で誰に渡って食べられているのかわからなかったけれど、心ある人たちと繋がって食べてもらえたらと独自販売に踏み切り、小滝産のコシヒカリ〈コタキホワイト〉が誕生したのです」

お米を食べた全国の人から、「おいしかった」と感想をもらうたび、小滝で米づくりをする人たちのなかにも「より良い米をつくりたい」という意識がさらに向上。「今までも、うちの米はおいしいと思っていたけどさ。毎年、今年はどんな米ができあがるかなと楽しみだよね。300年続いてきた集落を、300年後の子供たちにしっかり引き継がないと」と笑う正幸さんが印象的でした。

〈コタキホワイト」の新米、その甘い香りと輝く米粒。いつまでも、おいしいお米ができますように!

さあ、そして今年の〈コタキホワイト〉が私の手元にも届きました。さっそく炊いてみましょう。

米用の専用土鍋で炊き上げると、台所中が新米の甘い香りに包まれました。ふたをあけると、一面につやつやのピッカピカ。米の一粒一粒が輝いています。

(写真提供:ツレヅレハナコ)

(写真提供:ツレヅレハナコ)

しっかり蒸らして、小滝で教わった通りのシンプルな真ん丸おむすびに。おこげもできたので生かしてみたら、香ばしい塩おむすびもできあがりました。

もっちりした食感と豊かな甘みは昨年いただいた通りですが、さすがの新米。水分をたっぷりとたくわえ、米のフレッシュさが段違いです。わー、これは本当においしいなあ!

(写真提供:ツレヅレハナコ)

(写真提供:ツレヅレハナコ)

2合炊いて6個のおむすびをつくり、朝食に1個、昼食に1個……。もう、あっという間になくなりそう。あの冬の豪雪の厳しさを超えて、やっと秋に実った黄金の稲穂。しみじみと新米を味わいながら小滝の風景とみなさんの笑顔を思い浮かべ、来年も、そのまた次の年もおいしいお米ができるのを楽しみにしたいと思うのでした。

小滝の風景とみなさんの笑顔

小滝の風景とみなさんの笑顔

『コロカル』が、初めて小滝を訪れたのは4年前。その記事はこちらから。“幻の米”〈小滝米〉を引き継ぐ。300年後の未来を開く長野県栄村小滝集落への里山ツアー

小滝集落の美しい映像はこちらから。

『イノリヲハコブミチ 里山篇 美しい村 KOTAKI JAPAN』

information

KOTAKI WHITE 

小滝集落の極上のコシヒカリ〈コタキホワイト〉の詳しい情報、購入案内はこちらから。

Web:コタキホワイト・オンラインストア

writer profile

ツレヅレハナコ

つれづれはなこ●食と酒と旅をこよなく愛する文筆家。最新刊『47歳、ゆる晩酌はじめました』(KADOKAWA刊)が10月末に出版予定。『女ひとりの夜つまみ』『まいにち酒ごはん日記』(幻冬舎)、『ツレヅレハナコのじぶん弁当』(小学館)、『ツレヅレハナコの薬味づくしおつまみ帖』(PHP)、『女ひとり、家を建てる』(河出書房)など著書多数。

photographer profile

Tetsuya Ito

伊藤徹也

いとうてつや●三度の飯と酒と旅が好きなカメラマン。中華ユニット「MIYOSHIYA飯店」主宰。10年をかけつくり込んできた麻婆豆腐は別名「米泥棒」の異名を持つ。その味わいは雑誌「dancyu」でも紹介されたほど。https://dancyu.jp/recipe/2022_00006064.html 長女との酒連載「伊藤家の晩酌」も好評。

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