2023年5月3日、小豆島の伝統行事である『肥土山農村歌舞伎』が開催されました。今年は実に4年ぶりの開催!江戸時代から続いてきたこの行事も、感染症拡大の影響でここ数年は中止されていました。この4年の間に移住してきた人など「農村歌舞伎を初めて見る!」という友人も多く、久しぶりの歌舞伎の開催をみんな楽しみにしていました。
2023年5月3日に開催された肥土山農村歌舞伎。天気もよく、たくさんの人で賑わいました。
せっかくみんなが見に来てくれるし、今年は「わりご弁当」をつくろうか!農村歌舞伎を見るために島に遊びに来ていた私の母と妹と相談して、一緒にわりご弁当をつくることにしました。
そもそも、わりご弁当とは?
わりご(割子)弁当というのは、容器の中をいくつかに分けて(割って)ごはんやおかずを入れたお弁当。割子=小さく割ったものということですね。割子を食器として使う習慣は平安時代からあり、「源氏物語」にも桧破籠(ひわりご)として登場しているそうです。
小豆島では、この「わりご弁当」という郷土料理が、農村歌舞伎という伝統行事とともに残っているんです。
小豆島のわりご弁当は、大きな木箱の中に約20個のわりごを入れて持ち運べるようになっています。ひとつのわりごが1人前。20人分のお弁当!特徴的なのはわりごのかたちで、長方形の木箱を斜めにふたつ割りにしたものが多いです。つまり、台形のお弁当。とんがった場所には具を詰めにくいし、なんでこのかたちになったのか気になって調べてみたのですが今のところわからず。引き続き調査中です(笑)。
小豆島のわりご弁当。うちにはないので、いつも共同で管理しているものを貸してもらっています。
このわりご弁当の木箱が、昔は各家庭にあって、農村歌舞伎の当日朝からそれぞれの家でつくっていたそうです。何人家族よ! と言いたいところですが、親戚などの分も含めて20食ほどつくっていたんでしょうね。
このお弁当を農村歌舞伎の演目の合間にみんなで食べるのが、昔から続く小豆島の文化。歌舞伎を見に来てくれた親戚や友人にふるまったり、ご近所さんとお弁当を交換したりもしていたそうです。うちの味、おたくの味を楽しむ。交換したわりごが返ってこなくて、どこかにいってしまうこともあったそう(笑)。そうならないように、ひとつひとつのわりごの裏側には名前が書いてあるんです。
わりご弁当の裏側には各家の屋号が書かれています。
定番のわりご弁当。つき飯ふたつに、煮しめ、卵焼きなど。
わりご弁当の中身は?さて、わりご弁当の中身はというと、酢飯を木型で突き固めた「つき飯」がふたつ、おかずは煮しめ、卵焼きなどとてもシンプルです。唐揚げやミニトマトを入れたりする家庭もあります。これじゃないとだめという決まりはなくて、自分たちが楽しめる内容にしたらいいんじゃないかとわたしは思っています。
というわけで、今年の我が家のわりご弁当のごはんは、ひとつはつき飯、ひとつはお稲荷さんにしました。つき飯はひとつ75グラム程度の炊いたごはんを使うのですが、ふたつともつき飯より、ひとつはお稲荷さんのほうが味も違うし楽しめるかなぁと思って。これはわたしの母のアイデアですが。
つき飯とお稲荷さんをまずは詰めていきます。
娘も手伝ってくれて、ひたすらわりご弁当にごはんをつめていきました。ちなみにつき飯をつくるための木型は、数年前に近所の大工さんがつくってくれたものです。酢水につけた木型に、測った酢飯を入れて、木の棒でとんとんと突くと、直方体のつき飯ができあがり。最後に山椒の葉をのせます。
娘も一緒にわりご弁当づくり。家族みんなでつくる時間が楽しい。
数年前に近所の大工さんにつくってもらった、つき飯をつくる木型。
そしておかず。なるべく旬の素材を使いたいねということで、畑で育てたブロッコリー、ニンジン、保管しておいた紅はるか、近所のお母さんからいただいたスナップエンドウ。鶏肉を炊いたものと、卵焼き、ちくわ、かまぼこなど。お弁当屋さんになった気分で、ひとつずつひたすらつめていきます。20人分つくるって大変なことです。
並べるとみると感動! きれいだなぁ。
無事にお弁当を詰め終えて、歌舞伎舞台へ木箱を運びます。これが重たい……(汗)。ごはんも愛もどっしり詰まってます。
来てくれた友人や知り合いにふるまって、みんなで一緒にわりご弁当を食べながら農村歌舞伎を楽しみました。
農村歌舞伎を眺める大勢の人たち。ここでわりご弁当を食べます。
最近では、わりご弁当をつくってきている家庭はほとんどありません。そもそも家族で農村歌舞伎を見にくる人たちも減りました。今年はたくさんの方が見に来てくれましたが、地元の人たちは少なかったそうです。歳をとって身体的に見に行くのが難しくなったお年寄りが増え、一方で若い世代はそもそも数が少ないという状況。
かつて、この桟敷席いっぱいに地元の人たちみんながわりご弁当を広げて、歌舞伎を見ながら楽しんでいた光景を想像すると、さぞ賑やかだったんだろうなぁと思います。ほんとうにすばらしい文化。伝統。
「農村歌舞伎」と「わりご弁当」というこの風景を残したいと思うのは、ただ伝統だからという理由じゃなくて、とても良いひとときだから。美しい風景とおいしい弁当とともに楽しむ人たちがいる。
来年はどんな「わりご弁当」にしようかな。みんなで一緒に食べながら農村歌舞伎を楽しみたいです。
writer profile
Hikari Mimura
三村ひかり
みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島のなかでもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。https://homemakers.jp/