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北海道の広大な大地にドイツ人がセルフビルド。土とわらのストローベイルハウスとは?

  • 2023年5月26日
  • コロカル
藁と土が主役の家を、セルフビルドで

彼の名前はパスカル。ベルリン出身の36歳。2年前から弟子屈町に、ストローベイルハウスを建設中。ストローベイルハウスとは、藁と土を使ってつくる家。パスカル曰く「生き物」である。

ササのジャングルのようだった荒れ地を草刈りして、整地して、排水を整えて。カラマツ材で外枠を組み、屋根や窓枠もつくり……、果てしない作業をひとりでこなしてきた。

そしてまもなく1棟目が完成する。

パスカルの故郷でよく目にする、白い壁と木材が調和した家は、小さなバルコニーが特徴。

パスカルの故郷でよく目にする、白い壁と木材が調和した家は、小さなバルコニーが特徴。

「いま建てているのは、〈メルヘン〉という名のゲストハウス。南ドイツでよく見かける、窓枠に小さな花台がある家をイメージしているんだ」

手前が藁のブロック。奥の牧草ロールは、粘土に混ぜて使用する。

手前が藁のブロック。奥の牧草ロールは、粘土に混ぜて使用する。

家の裏を掘ったら、理想的な粘土が出てきた。

家の裏を掘ったら、理想的な粘土が出てきた。

 

約60平方メートルの家。家の壁は、まず棚をつくり、そこに藁のブロックを積み上げて、表面に土を塗る。

「土は、敷地内の粘土を使っている。周りの地面をショベルカーで1メートルくらい掘ると、粘土層が出てきたんだ。これがストローベイルには最適な土で、気づいたときは、とてもうれしかったね」

藁のブロックを積み上げた上に粘土を重ね、麻とファイバーネットを重ねた上に漆喰を塗っている。

藁のブロックを積み上げた上に粘土を重ね、麻とファイバーネットを重ねた上に漆喰を塗っている。

日本のお城で使われているという『大和しっくい』が、パスカルのお気に入り。

日本のお城で使われているという『大和しっくい』が、パスカルのお気に入り。

 

粘土の上に麻を載せ、さらにファイバーネットを重ねる。パスカルは、土の壁に入った小さなひびを指差して、「こうした隙間に麻やネットの繊維が入り込んで、壁の強度がより高まるんだ」と教えてくれる。さらにその上から漆喰を塗って、やっと壁が完成する。

「藁と土を使うことで、いつもフレッシュな空気が壁を通して入ってくる。ストローベイルハウスは、“呼吸する家”なんだ」

常に室内温度は15〜20度に保たれ、夏は涼しく、冬は暖かい。一年中過ごしやすいそう。

「コンクリートで固めた家よりも、ずっと健康的に暮らすことができると思っているよ」

故郷を思い出し、自然とともにある暮らしを

順調に作業が進み、今年7月に〈メルヘン〉が完成すれば、隣に「ホビットハウス」をテーマにした2棟目を建て始める。

メルヘンの隣には、すでに2棟目「ホビットハウス」の基礎ができあがっている。

〈メルヘン〉の隣には、すでに2棟目「ホビットハウス」の基礎ができあがっている。

〈メルヘン〉の外壁はこの面を仕上げれば完成。あとは内装を残すのみ。

〈メルヘン〉の外壁はこの面を仕上げれば完成。あとは内装を残すのみ。

 

パスカルが育ったドイツでは、「ストローベイルハウスは、当たり前」。戦後は煉瓦の家が現れ、コンクリートの家も増えたけれど、ストローベイルハウスはいまなお健在なのだという。

「むしろ増えているかもしれない。ストローベイルで建てられた団地が最近新しくできていて驚いたよ」

針葉樹の赤ちゃんが、いたる所に生えている。「薬効成分を含むイラクサがたくさん生えているので肥料として使えば、一日でも早く森を育てるための“魔法のポーション”になるかもしれない」

針葉樹の赤ちゃんが、いたる所に生えている。「薬効成分を含むイラクサがたくさん生えているので肥料として使えば、一日でも早く森を育てるための“魔法のポーション”になるかもしれない」

パスカルは、6歳の頃に日本のアニメ(『キャプテン翼』など)に出合い、日本の文化に興味を持つようになった。その後、福岡県出身の絵美子さんと出会い、結婚。当初は東京で暮らしていたが、次第にストレスを感じるようになり北海道へ。

そして「ドイツに帰ってきたみたい」と感じた場所、道東の弟子屈町に移住した。

「森に囲まれたロケーション、とくに針葉樹の雰囲気が生まれ育ったベルリンそのものだった」

敷地内にはカラマツが多い。取材に訪れた5月初旬は、花が開いていた。

敷地内にはカラマツが多い。取材に訪れた5月初旬は、花が開いていた。

「ドイツでは、人間の生活と自然がつながっている。いつだって森がそばにある」と、パスカルは力説する。

「住民は、ひとり当たり1平方キロメートルの森を与えられていて、各々がパトロールしながら倒木や異変があったら報告する。みんなで自然を守っているんだ」

パスカルにとっても、森は大好きな遊び場だった。

「毎年サマーキャンプに参加して、焚き火をしたり、木工を学んだり、ツリーハウスをつくったり」

だから、自分の家を建てようと思ったときも、当然のようにセルフビルドを選んだのだろう。

「現在はインターネットで検索すれば、どんな材料でも見つけられて、その使い方も知ることができる時代。誰だって家を建てることができると思うよ。それに自分でつくれば、メンテナンスもできるからいいね」

ゲストハウス〈メルヘン〉は、ロフトつき。中央に置いてあるのは、玄関の扉。これに鉄のヒンジをつける予定。

ゲストハウス〈メルヘン〉は、ロフトつき。中央に置いてあるのは、玄関の扉。これに鉄のヒンジをつける予定。

針葉樹の森の中で、クリスマスマーケットを

10歳の頃から「LARP(Live Action Role Playing)」に興味を持ったパスカル。

「たとえば中世ドイツの兵士の衣装を身につけロールプレイングゲームの主人公に扮して戦う、海外ではとても人気がある遊び。弟子屈町に、その舞台となる “ドイツ村”をつくリたい」

いまここで目指しているのは、『LARP』を楽しみながらドイツの文化を学ぶこともできる場所。

「足を一歩踏み入れただけで、別世界へとワープできる。誰もがストレスフリーになれるようなテーマパークにしたいんだ」

手前がキャンプ場予定地。奥には川も流れている。最終的には、これら全体を森で囲む。

手前がキャンプ場予定地。奥には川も流れている。最終的には、これら全体を森で囲む。

敷地面積、約2万5千平方メートル。ここに2棟のゲストハウスと2種類のキャンプ場を設え、ハーブガーデンやセラピーハウスも整える。それらの周りには、ドイツのような針葉樹の森も必要だ。

現在は、周囲にカラマツ林があり、そこかしこに、昨年植えた稚樹が元気よく育っている。

針葉樹の挿し木苗をたくさん用意して、森の準備も着々と。

針葉樹の挿し木苗をたくさん用意して、森の準備も着々と。

カラマツ、アカエゾマツ、そしてドイツトウヒ。

「ドイツトウヒは成長が早いうえに、地表近くまで枝葉が茂る。だからドイツトウヒの森は吹きさらしになりやすいこの場所で家を守る役目も果たしてくれる」

ウッドチップの山を掘っていくと……大きな幼虫が出てきた。「あったかいから眠っていたんだね、起こしちゃってごめん」とパスカル。

ウッドチップの山を掘っていくと……大きな幼虫が出てきた。「あったかいから眠っていたんだね、起こしちゃってごめん」とパスカル。

ウッドチップの山を掘っていくと……大きな幼虫が出てきた。「あったかいから眠っていたんだね、起こしちゃってごめん」とパスカル。

ウッドチップの山を掘っていくと……大きな幼虫が出てきた。「あったかいから眠っていたんだね、起こしちゃってごめん」とパスカル。

ウッドチップの山を掘っていくと……大きな幼虫が出てきた。「あったかいから眠っていたんだね、起こしちゃってごめん」とパスカル。

ウッドチップの山を掘っていくと……大きな幼虫が出てきた。「あったかいから眠っていたんだね、起こしちゃってごめん」とパスカル。

 

そしてもうひとつ、電気とガスを使わないオフグリッド生活も目指している。

「コンポストを活用して、堆肥発酵熱を温水に変えるシステムを考えているんだ」

そういって案内してくれたのは、敷地内に掘られた大きな穴。その中に積み上げられたウッドチップの山に手を入れると、とても暖かい。これが熱源になるのだという。

植物、動物、微生物の営みを上手く活用して大きな夢を実現しようとしているのだ。

「晴れた日には遠く阿寒富士を望むこともできる、とても静かなロケーション。ここには、私が欲しいものがすべてある」

「晴れた日には遠く阿寒富士を望むこともできる、とても静かなロケーション。ここには、私が欲しいものがすべてある」

今年はまず、7月末にひとつ目のキャンプ場をオープンする予定。少しずつ営業をしながら町民が集うマルシェなども開き、いずれはドイツのクリスマスマーケットを行いたいと考えている。

北海道の広い大地と豊かな自然を味方につけて、がんばれ、パスカル!

profile

生永パスカル

いきなが・ぱすかる●1986年生まれ、ドイツ・ベルリン出身。2020年から、弟子屈町地域おこし協力隊として移住。現在は、アクティビティ開発支援員として活動中。今年から起業した会社の名前は〈BACK TO THE NATURE〉。2年間コツコツと続けてきた“ドイツ村”建設の過程は、YouTube『Take & Give | barance with nature』にて。

writer profile

Chigusa Ide

井出千種

いで・ちぐさ●弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。

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