
昔話「さるかに合戦」は、柿をめぐってずるい猿が蟹を殺して、蟹の子どもが復讐する物語。もともと殺伐としたストーリーは、現代の漫画にピッタリだった――!?
漫画家の偉流センイチ(@iryu1001)さんの作品は、商業出版された「真MoMo太郎伝説」をはじめ、昔話をアレンジしたオリジナル漫画がたびたびSNS上で反響を呼んでいる。2023年に創作漫画として公開した「真・猿蟹合戦」は、猿蟹合戦をバトル漫画のテイストで描き「猿蟹合戦の極地」「キャラデザが秀逸過ぎ」「1ページ目からツッコミが止まらない」と、X上では3400件以上のいいね、pixivでは800ブックマークを超える注目を浴びた作品だ。
「むかしむかし猿と蟹がおりました」とおなじみの語りではじまるものの、1ページ目から間違いなくニホンザルではない屈強すぎる猿と、両手でピースサインを作る女性を蟹と言い張る衝撃的な2コマが描かれる同作。
筋書きは原典どおりのはずが、猿が蟹を騙し討ちするシーンをはじめとする大胆な演出や、やはり人間の少年にしか見えない蟹の子ども、手助けする「栗・蜂・馬糞・臼」の4人(?)の尖ったデザインのギャップで手に汗握る復讐譚に昇華している。そんな同作のテイストや制作上のこだわりについて、作者の偉流センイチさんに話を訊いた。
■「原作に忠実」に描くとこうなる!?猿蟹合戦の鮮烈すぎる描き方
――これまでも昔話をベースにした作品を描かれていますが、今回「猿蟹合戦」で題材にしたきっかけはなんですか?
【偉流センイチ】猿蟹“合戦”というタイトルなのに「あんまり合戦感がないなぁ」と思ったことがきっかけです。自分のイメージだと合戦は多数対多数だったので。でも辞書で調べると「敵味方が出会って戦うこと。」とあるので猿蟹合戦で合ってるんですよね(笑)。
――作画の迫力と演出に飲まれますが、ストーリー自体は猿蟹合戦の筋書きをきちんとなぞっているのに気付くとなおさらおもしろく感じます。本作を描くうえで特に意識したポイントや、挑戦したことがあれば教えてください。
【偉流センイチ】ストーリーを原作準拠にするというのはこだわりました。昔話は理不尽なところがおもしろいのに、現代の昔話は「いい話」になるようにかなりアレンジされているので。
――登場人物(?)も忘れられない個性が光ります。キャラ作りやデザインではどんなところにこだわりましたか?
【偉流センイチ】ストーリーにアレンジを加えない分、キャラクターデザインは凝ろうと思って、作画コスト度外視で思いついたままを描きました。その所為で蜂と馬糞の作画はかなり苦労しました(笑)。
――全編通して濃密な画面が偉流さんの作品の大きな魅力の1つだと感じます。ご自身でお気に入りのシーンを選ぶとしたらどこでしょうか?
【偉流センイチ】ラストの蟹軍VS猿軍の見開きです。このシーンを描くためにこの漫画を描いたと言っても過言じゃないので。
――偉流さんの作品に興味を持った読者に向けメッセージをお願いします。
【偉流センイチ】昔話の「桃太郎」を題材にした「真MoMo太郎伝説」という作品も描いていて、書籍になった続きをXで勝手に連載中です。ぜひ読んでやってください。
取材協力:偉流センイチ(@iryu1001)