発見する喜びを得られるように
手助けするのがスケッチ
このペンギンの絵は、自然観察指導員講習会の創始者のひとりである青柳昌宏さんが、第13次南極地域観測隊に参加した際に一本のボールペンでスケッチしたものです。
青柳さんは『自然観察ハンドブック』(日本自然保護協会刊)の中で「見ようと思って見る-じっと見る」「描くことによって見えてくる」と述べています。青柳さんに多くを学んだ吉田さんは、次のように話します。
「日本自然保護協会が自然観察指導員制度を作るよりも前、自然観察会といえば、参加者が指導者から生きものの名前や習性を教わるティーチング・ラーニングのスタイルでした。教える側と学ぶ側が分かれた観察会でした。言ってしまえば、参加者は自然と向き合うのではなく、指導者から教わっていたわけです。そうではなく、参加者が自ら自然の中で気付く力を伸ばすことが自然観察指導員の役割なのだと青柳先生は強調されました。指導するのではなく、参加者のみんなが自然の中から発見する喜びを得られるように手助けするのが自然観察指導員なんだよと。スケッチはその手段になると言われていました。また青柳先生は筑波大学の盲学校時代に、手で触って生きものを学ぶサーモフォームという手法を工夫し、それを自然観察に活かしました。誰もが五感を用いて楽しめる自然観察は、今ではネイチュア・フィーリングとして全国に広がりを見せています」
青柳昌宏(1934~1998):ナチュラリスト。
東京教育大学農学部と理学部で、応用昆虫学、動物生態学を学ぶ。東京教育大学(筑波大学)附属盲学校教頭、神奈川大学附属中・高等学校校長、日本自然保護協会理事・事務局長などを務める。
自然観察指導員講習会創始者の一人。ペンギン基金創立者。
▲青柳昌宏さんが、1972年に参加した南極調査の際に描いたペンギンのスケッチ。一本のボールペンでペンギンの動きが生き生きと描かれている
▲シラオネッタイチョウの群れの様子や、印象的な体色や体型が絵に加えてメモされている
▲南極から家族に送られた手紙にもたくさんの絵が描かれていたという。メガロパ幼生のスケッチには「目が青く光ってとてもきれい」とメモされている
▲青柳さんが南極で観察した「ペンギンの上陸失敗」。観察したペンギンの行動が、動きの段階的な絵を描くことで、とても分かりやすく記録されている。家族に向けて書かれたもの
描いてみよう、触ってみよう、五感を使って楽しもう。これが日本自然保護協会の提唱する自然観察会のあり方です。
自然観察とスケッチ。今回は、その大切さや意義を、色々と教えてもらいました。それ以上に印象的だったのは、たくさんの絵とともに、吉田さんが観察した生きものについてとても楽しそうに話してくれたことでした。
「絵はあとで見返しても楽しいし、なによりも描くことが楽しい。楽しいことが、続けている一番の理由ですね」
▲自然観察指導員講習会では、プログラムにスケッチを取り入れている。じっくり観察することに加え、描いた絵を共有することで多くの見方があることに気付くことができる
話し手:吉田正人
筑波大学教授。日本自然保護協会監事。高尾ビジターセンター解説員を経て、30年以上にわたり自然観察指導員講習会の講師を務める。
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